―34― それぞれの考え

「ちなみに、この研究資料にはなにが書いてあるんだ?」


 ミレイアによる〈霊域解放〉によって開かれた霊域はすでに閉じられており、俺たちは今彼女の部屋にいた。


「それを知ってどうするんですか……」


 ジト目でミレイアがそう口にする。


「ただの知的好奇心だな」


 本当は偽神ゾーエーによりかけられた妹の呪いを解くヒントになるかもしれないと思ってのことだが、そこまで伝える必要もないだろう。


「はぁ」


 と、ミレイアは一度ため息をついてからこう口にした。


「気になるならあげますよ」

「えっ、いいのか?」


 予想外の答えに俺は驚く。


「ええ」

「ちなみに暗号の解き方は?」

「それは自分でがんばって解いてください」


 よし、ひとまず部屋に戻ったら、この資料とにらめっこしようと決意した。

 



 

「本当に殺さなくてよかったんですか?」


 アベルが部屋からいなくなった後。

 ミレイアの前に黒い影が姿を現していた。その影こそ、偽神アントローポスだ。


『今は殺すときじゃないからな。それに、あの人間は非常に興味深い』


 影はくぐもった低い声を発していた。


「科学でしたっけ? なんなのですか、それは」


『忘れ去られた人類の遺産だな。我も詳しいことは知らぬ』


 ふーん、とミレイアは頷く。偽神でも知らないことがあるんだ、と思った。


『それよりミレイア、できる限り早く救済をおこなうぞ』

「ええ、わかっていますよ」


 そうミレイアが返事をすると、影を姿を消した。

 ふぅ、と彼女は息をつく。

 ホント世界は思い通りにならない。


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