―75― 失敗
生徒会長――ユーディット・バルツァーはすっかり憔悴しきっていた。
まさか、本当に処刑されるとは……。
そんな思いが心の中を渦巻く。
アベルを異端審問にかけることを手引きしたのはまさしく自分だった。
だけど、異端の証拠なんて見つからず釈放されるだろうというのがミレイアの見立てだった。
だから協力したわけだが、学院長があそこまで強引に、アベルの処刑を敢行すると思わなかった。
「はぁ」
と、ため息をついて席につく。
途端、扉が強引に開かれる。
見ると、学院長と一人の生徒が入ってきた。
生徒のほうは確か、シエナという名だったか。人間のように見えるが、実際には人間ではなく学院長が使役しているなんらかの霊体らしい。
「失敗だ」
開口一番、学院長がなにを言い出すかと思えば、要領を得ないことを口にする。
「なにが失敗なんですか?」
「アベルの処刑がだ」
「…………」
ユーディットは黙りこくる。アベルなら処刑されたはずだ。その瞬間をこの目でちゃんと見た。
「どういうことですか……?」
だから、意味がわからずそう尋ねた。
「アベルはまだ生きているということだ」
「意味がわかりません」
「処刑されたのは替え玉だ」
替え玉だと。そんなことあり得るのだろうか。自分のそっくりの人物を代わりに処刑させる。そんな魔術、聞いたこともないが。
「信じられませんが」
「別に、信じてもらう必要がない。我々がここを訪ねたのは、君が持っている血の契約書に用があってのことだ」
「…………ッ」
思わず動揺が顔に出る。
確かにユーディットはアベルと血の契約書を交わしている。だが、そのことを学院長が知っているはずがない。
「別に驚くことはないだろう。この部屋の残留魔力を調べれば、そのぐらいのこと簡単にわかるからねぇ」
魔術を発動させると、その周囲に残留魔力が残る。それを調べれば、いつどこでどんな魔術が発動したか、確かにわかる。だけど、それを調べるには、非常に手間がかかる。
なぜ、そこまでして、学院長はアベルを貶めたいのだろうか。
「あった」
ふと、見ると机の引き出しから血の契約書を取り出すシエナの姿が。
いつの間に、こんなところに……ッ。さっきまで学院長の後ろにいたと思ったシエナが、知らぬ間に自分の後ろで机を漁っていた。
一体この子は何者なんだ……? という思いが巡ってくる。
「ふむ、なるほどね」
学院長は血の契約書を眺めるとそう呟く。
「クラス対抗試合か。これは使える」
「返してくださいっ!」
そう言って、ユーディットは学院長のほうへ迫る。
その瞬間、体が後ろ方向へと舞う。
「学院長に手を出さないで」
衝撃で視界が揺れる中、シエナが学院長の前に立っているが見えない。
なにをされたかわからない。
ただ、シエナのおかげで自分はこんな目にあっているであろうことはわかった。
「これは利用させてもらうよ」
学院長はそう言って、立ち去っていった。
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