―11― 新しい理論
せっかく新しい理論に基づく魔法陣を完成させたのだから、本当にできるのか検証したい。
妹を頼れないとわかってもなお、その思いが消えるわけではなかった。
だが、妹以外に頼れる魔術師に心当たりがない。
となれば、どうするかというと――
「やはり、最後に頼りになるのは俺自身か」
という結論になった。
しかし俺の魔力がゼロ。
魔術を使いたくとも使えない。
「とも限らないんだよな」
それを理解してもらうには魂と魔力の関係を説明する必要がある。
魂には絶対量が存在する。
魂というのは生きる上で必要なエネルギーであり、生命活動を行うだけで人々は魂を消費し、そして足りなくなった分は補充することで生きつないでいくことができるわけだ。
だが、魂にはもう一つの本質があり、それは魂は魔力に変換させることができるというものだ。
魔術師は魂を魔力に変換させてから、魔力を消費して魔術を行使するという手順を踏む。
じゃあ、なぜ俺のような非魔術師が魔術を使えないかとういうと、それは魂の絶対量が魔術師に比べて非常に少ないからだ。
魂には臨界量というのが存在し、この臨界量を下回ると生命維持に関わるという指標だ。
魔術師は魂の絶対量が臨界量を大幅に上回るために魂の一部を魔力として消費しても問題はない。
逆に俺たち非魔術師は魂の絶対量が臨界量ギリギリにしかないため、ちょっとでも魔力を消費すると命にかかわることになるわけだ。
魔力ゼロというのは言い換えるならば、魂の絶対量が臨界量を越えてないということだ。
それはつまり、魔力ゼロの俺でも、必要な魂を無理やり削れば魔力を手にすることができるというわけだ。
俺は数年前、この理論に気が付き実践で使えるよう研究した。
結果、失敗に終わった。
というのも、魔力の消費が最も少ない〈
それだけ、魂が削れることのリスクがあるわけだ。
だが、改めてこの理論をもう一度使ってみようと俺は思っていた。
というのも、俺にはある仮設があった。
俺の生み出した科学をベースにした新しい魔術は、往来の魔術に比べて魔力の消費量が非常に少なくなるんじゃないか、という。
魔力の消費量は、魔術構築の複雑さに比例する。
複雑さ、というのは如何に現実から離れた事象を起こすかということだ。
科学ベースの魔術は原初シリーズをベースとした魔術に比べて現実の物理法則に近い。
その分、消費する魔力量も減るに違いない。
ならば、その分魂を削っても死に至ることはないだろう。
「もし俺の理論が間違っていたら死ぬ可能性もあるってことか」
ふと、そう呟く。
魂が予想以上に削れた場合死に至るのは明確。
「だからって止められるわけがないだろ」
俺には真理を見つける使命がある。
そのためなら自分の命を賭けるぐらい容易だ。
「〈
まず、自分の魂を削って魔力を生成する。
途端、肉体に異変に現れた。
目から血が流れてきたのだ。
とはいえ、この程度大した障害ではない。このまま続行する。
魔術を発動させるには、魔力を元に生成された光で魔法陣を描く必要がある。だから、ペンで描かれた魔法陣を指でなぞっていくことで、魔力で魔法陣を描いていた。
そして、最後に、詠唱すれば――。
「あれ? 魔力がもうなくなってしまった」
血を吐く努力をしてまで魔力を生成したのに、魔法陣を描いただけで、魔力が切れてしまった。
おかしい。俺の想像では、これだけ魂を削れば、魔術を扱うのに十分な魔力を手に入れることができると思ったのにな。
とはいえ、これ以上魂を削れば死んでしまう。
他の手段を探す必要がありそうだな。
◆
数時間後、俺はある物を店から入手していた。
魔石と呼ばれるものだ。
魔石はその名の通り、魔力を秘めた石だ。
魔石に含まれている魔力は非常に微量なのため、魔石を用いて魔術を発動させることは難しいとされている。
ただし、光を放つ程度のことなら十分可能なので、街灯なんかによく使われている。
だが、俺には、この新しい魔術理論がある。
科学をベースにした魔術なら、この魔石に含まれた魔力だけでも十分魔術を発動させることができる可能性が高い。
さっそくやってみよう。
まず、魔石を使って魔法陣を描いていく。
よし、さっきと違いこれだけで魔力がなくなることはなかった。
その上で、詠唱――。
「〈発火しろ《エンセンディド》〉」
瞬間、魔法陣に書かれていた紙がボウッ、と音をあげて燃えた。
やった、成功した。
「うおぉおおおおおおおお!!」
俺はその場で叫んでいた。
魔力がゼロだからと魔術師にはなれないとずっと言われ続けていた。
それをついに覆した瞬間だった。
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