―84― ゴーレム

 学院長は満足そうな笑みを浮かべて、俺をじっとりと視線で見回す。


「その様子じゃ、もう戦うのは無理そうだねぇ」

「そこをどけ」


 端的に、伝えたいことをはっきりと告げる。

 偽神を倒すことを考えたら、これ以上魔術を使うことはできない。

 だから、言葉で伝えるしかない。


「嫌だね」


 それでも学院長は笑みを浮かべて、俺の邪魔をする。


「今、こんなところでぐずぐずしているような状況ではないだろ。このままだと偽神ヌースによる被害が拡大していく一方だ。今、この瞬間にも人が死んでいっているんだぞ。お前だって、それを見過ごすほど、人間が腐っているわけではないだろ」


 普通の感性をしていたら、この状況を放っておけるわけがない。

 目の前にいるのは、天使ではなく人間だ。人間なら、俺の言葉に共感するはずだ。


「なにかね。君は、あの偽神を倒す手立てがあると主張するわけかい?」

「あぁ、そうだよ! 俺なら、あの偽神を倒すことができる」


 いらついた口調でそう口にする。

 正直、これ以上話している時間がもったいない。

 だから、強引に突破しようとした。


「だったら、益々君をここから通すわけにはいかないなぁ。別に、君の力を疑っているわけじゃないんだ。恐らく、本当に君には偽神を倒せる手立てがあるんだろう。だが、そういう問題じゃない。君のような異端者の力を借りて、偽神を倒したとしたら、それは人類にとって未来永劫歴史に刻まれる恥だ」


 あぁ、どうやらこいつには話が通じないらしい。

 もう、無視して行ってしまおう。


「いいか、異端者。我々、人類をなめるな――」


 その瞬間、体に衝撃が走る。

 ただ、腹を殴られたのだ。

 いつもなら、この程度の攻撃なんてことはない。だが、今はシエナとの戦いで体力を相当消耗している。

 だから、ただ殴られただけで、俺はその場で立っているのも難しくなる。


「どうやら、準備は整ったようだな」


 学院長の言った視線の先には、巨体な物体があった。

 今まで、どこにあったのか不思議なぐらいそれは巨大な建造物だ。


「これは、魔術師の叡智の結晶。搭乗型巨大ゴーレムだ」


 ゴーレム。それは魔術師が操ることができる土人形のことだ。

 確かに、それは人型の形状をしていた。

 ただし、土ではなく金属で造られているようで、表面が輝いていた。


「いいか、異端者。君の力なんて借りなくても人類はすでに偽神を圧倒するだけの力を持っているんだよ。だから、君はそこで指を咥えて待っていたまえ」


 その言葉を残すと、学院長はしゃがんだゴーレムにはしごを登って搭乗した。

 これから、このゴーレムで偽神に対して攻勢に出るんだろう。

 確かに、これだけ巨大なゴーレムなら、偽神を倒せるかもしれない。

 そんなことを思いながら、俺の意識は途切れた。


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