―85― 激闘

 搭乗型巨大ゴーレム。

 それは学院長が中心となって、密かに開発していた学院の最終兵器。

 中に人が乗り直接魔力をゴーレムへ受け渡すことで無駄な魔力消費を最小限にする。

 その上、中に何重にも組み込まれた魔術構築が刻まれており、造った人でさえ、その全容の把握は難しいほど。


「ふっははははっ、これはいい眺めだなぁ」


 ゴーレムに搭乗した学院長は愉快にそう笑う。

 今、ゴーレムは空を飛んでいた。

 ゴーレムには巨大な風力を生み出す魔術構築が組まれているため、魔力があるかぎり空を飛ぶことができる。

 だから、空を飛んで、ゴーレムはドラゴンの姿をした偽神ヌースへ接近していた。


「おい、なんだあれは!?」

「なにかが空を飛んでいるぞ!?」


 そして、偽神ヌースの襲撃によって絶望の底にいた町の人々が見上げると、空を飛ぶ巨大な建造物が目に入る。


「学院のほうから飛んできたのを見たぞ」

「おい、あれは俺たちを助けるために来てくれたんじゃないのか!?」

「うおぉおおおおお!! 俺たちの救世主だ!」


 だから、人々には巨大なゴーレムが希望の光のように映った。

 

「がんばれー!」


 誰かが一人声援を送った。


「がんばってくれぇええ!」

「頼むー!」

「がんばってぇえええ!」


 すると、その声援が周りにすぐさま伝播していく。

 気がつけば、町の人々は全員「がんばれ」と声援を送っていた。


「皆の期待に応えなくてはいけないな」


 そう言って、学院長は唇の端をあげる。

 そして、ズドンッッ!! と巨大な地響きを鳴らして、巨大ゴーレムが着地した。


「さぁ! 人類にあだなす偽神よぉ! この私が成敗してやろう!!」


 ゴーレムの右腕を振り上げる。

 その膝の先から噴射される風力によって、何倍にも威力が増幅された拳がドラゴンへと襲いかかる――!!


 パフッ、と、まるで羽毛を叩くような音が響いた。

 なんだ? この手応えのなさは?

 すぐさまその違和感を覚える。


「だが、このゴーレムの真骨頂はこれからだぁ!!」


 ふと、湧き上がった不安を払いのけるように、そう叫ぶ。

 そして、繰り出されるのは、ゴーレムの左拳によるパンチ。

 パフッ、とまたもや情けない音が響いた。

 殴られた偽神ヌースはという、まるで巨大ゴーレムのことを脅威として見なしていないようで、余所のほうを見ていた。


「舐めるなぁああああああああ!!!」


 そう叫びながら繰り出されるのは、右拳と左拳を用いた連続パンチ。そうやって、何度もパンチを繰り返すが、全くダメージを与えるに至っていない。


「おい、なんかおかしくないか?」


 巨大ゴーレムの行方を見守っていた人々もその異変に気がついていく。

 誰の目から見ても明らかに、ゴーレムの攻撃は偽神に全く効いていない。


「というか、あのゴーレム。よく見たら、小さくないか?」


 空を飛んでいるときは気がつかなかった。

 確かに、巨大ゴーレムは大きい。だが、大きいといっても六階建ての建物程度の大きさだ。それに対し、ドラゴンの姿をした偽神は10階建ての建物があったとしても届かないと思える程度には大きい。

 そう、巨大ゴーレムと偽神が並んで初めて気がついたが、ゴーレムは偽神に比べて二回りほど小さかった。


「どういうことだ!? おかしい!? こんなはずではっ! こんなはずではなかったのに!?」


 徐々に立ちこめる暗雲。


「こっちは人類の最終兵器なんだぞ。なぜ、それをもってして、まったく歯が立たない!?」


 人々に広がる落胆。

 もう、誰もが巨大ゴーレムに期待することをやめていた。


「ふざけるなっ! ふざけるなっ! ふざけるなぁああああ!!」


 それでもだだをこねる子供のように、学院長はゴーレムを用いて何度も攻撃を繰り返していた。


 ようやっと偽神ヌースは巨大ゴーレムを一瞥した。

 それはまるで鬱陶しいハエでも見るかのような視線だった。

 そして、偽神ヌースは軽々と巨大ゴーレムを持ち上げてブレスを放った。

 火柱のように遠くまで伸びたブレスによって、巨大ゴーレムはあっさりと吹き飛ばされる。

 そして、空中で半壊して、地上に落下した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る