―66― 疑惑

 クラス対抗試合の代表者は俺とユレンになった。

 ほとんどの生徒は俺の魔術により脱落。

 残った生徒は、ユレンが倒したらしい。偉そうな態度しているだけあって、そこそこ強いらしい。


「いいか、次こそは僕が勝つからな。待っていろよ!」


 ユレンは俺に対しそう言葉を残してから去っていた。

 〈雷神の咆哮ゼウス・ルギド〉を見たら、そんな啖呵を切るのは難しいと思うが、たまたま見ていなかったのだろう。





「アベルくん、こっちに来てください」


 翌日、いつも通り教室の扉を開けるとミレイアがやってきては俺の手をひっぱった。

 そして、俺を人気のないところまで連れていく。


「こんな人気のないところにわざわざ連れ出してどうしたんだ?」

「なんだと思います?」


 ミレイアが逆に不満そうな顔で質問をしてくる。

 ふむ、人気のないところで、男女が集まるといえば……


「これから、告白されるのか?」

「バカなこと言わないでください」


 ミレイアは吐き捨てるように、そう口にした。ふむ、ちょっとしたジョークを言ったつもりなんだが、こんなこと言われるとはなんか心外だ。


「アベルくん、なにをしたんですか?」

「一体、なんのことだ?」


 ミレイアの質問がよくわからず俺はそう答える。まぁ、本当は想像はついているんだが。


「いいですか、今、学院中あなたの噂で持ち切りなんですよ」

「不可解だな。そんな目立つことをした覚えはないが」

「とぼけないでください」


 ミレイアが睨みつけてくる。

 これは本気で苛立ってそうだな。ちょっと、冗談が過ぎたかもしれない。

 しかし、学院中が俺の噂しているっていうのは、流石に大げさに言い過ぎではないか。


「クラス対抗試合の代表決めで、少し本気を出しただけだ」

「その本気って、具体的にどんな?」


 確か、ミレイアは代表決めには参加していなかったはずだから、詳細までは知らないはずだ。


「数十人の生徒を雷で一網打尽にした」

「……そういうことですか」


 納得したようにミレイアはそう呟く。


「雷の魔術構築はまだ解明されていないっていうのは知っていましたか?」

「もちろん、知っている」


 原初シリーズにおいて、雷の記述は僅かにしか存在しない。だからこそ、あまり進んでいない分野だ。

 雷の正体がなんなのか? 魔術界の定説では、火の元素が状態が変化した姿となっているが、その理論で雷を操ることに成功した魔術師は今んとこいない。

 まぁ、俺は『電気と磁気に関する論文』のおかげで、科学的に雷を理解することができたわけだが。


「それを大々的に見せたら話題になるって思わなかったんですか?」


 そう言ったミレイアは怒っているようにも見えた。


「もちろん覚悟はしていた」

「じゃあ、なんで!?」

「遅かれ早かれこうなることは目に見えていた。ならば、こういったことは早い内に済ませたほうがいい」

「アベルくんが言うならそうなんでしょうけどっ、でも、私は心配なんですよ。今のアベルくんはとんでもないものを使役しています。バレたらどうするつもりですか?」


 ミレイアの言うとんでもないものが、偽神アントローポスのことだというのはわかった。

 確かに、このことがきっかけにアントローポスのことがバレる可能性はある。だが、それも覚悟したうえだ。


「まぁ、実際に問題が起こってから考えればいいんじゃないか?」


 そう言うと、呆れたようにミレイアが息を吐き、そして意を決した表情をすると、俺の耳元によって、小声で呟いた。


「今のうちにアントローポスちゃんを手放したほうがいいんじゃないですか?」

「それは無理だ。あれは、俺の目的のために必要な人材だ」

「……そうですか。なら、私から言うことはありません」


 ミレイアは納得はいっていないが無理やり自分を納得させたような表情をしていた。


「学院では、アベルくんの魔力が本当にゼロなのかどうなのか? って噂で持ち切りです。実際のところ、魔力はゼロなんですよね」

「あぁ、そうだ。俺自身は魔力はゼロだ。基本は魔石に含まれている僅かな魔力量だけで補っている」

「なぜそれでやっていけるのか、疑問なんですけど」

「前にも言ったが、ミレイアにも方法を教えてやりたいと思ってはいたんだがな。どうだ?」

「私まで異端者だと疑われそうなので断りたいところですが、それはおいおい考えましょう。とにかく、アベルくんはアントローポスちゃんのことはバレないように気をつけてくださいね。私もできる限り協力しますので」

「そう言ってもらえるだけでも助かる」


 と、そろそろ授業が始まる時間ということもあり、会話を切り上げて、俺たちは教室に戻った。


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