―26― 魂の残り滓
「ここが図書室ですよ~」
結局、生徒会長に案内されながら図書室までたどり着いた。
「それでアベルくんは図書室になんの用事があるんですかー?」
いつの間にさん付けからくん付けになっているな、と思いつつ答える。
「いえ、ただ行きたかっただけなんで、本当は特に用事とかないです」
「……んー、そうなんですか~」
一瞬、間があったような気がしたが、まぁ気のせいか。
学院の図書室は想像よりも広かった。
これ全部魔導書なのだろうか。
近くの本棚を眺めてみる。背表紙を見る限りその本は小説だった。
魔術学院なのに魔導書以外の本もあるのか。
「アベルくんはどんな本に興味があるんですか~?」
「魔導書ですよ」
本当は科学に関する本が読みたいのだが、学院の図書室にそんなものがあるとは思えない。
「勉強熱心なんですねー。魔導書ならこっちの棚ですよー」
案内された先には魔導書が棚いっぱいにあった。
魔導書を一つ一つ眺めていく。
読んだことのある本もあるし、初めて見た本もある。
魔導書は原書シリーズの一冊を除いて家に置いてきてしまったからな。こうして図書室があるのはありがたい。
と、そんなとき一冊の魔導書が目に入る。
『精霊魔術に関する概要』
「精霊魔術に興味があるんですか?」
「ええ、そんなところです」
まぁ、魔力がない俺では精霊魔術なんて扱うことはできないのだが、今進めている研究のヒントになるかもしれないと思い手にとったのだ。
一応借りておこうと思い、貸し出しの手続きをする。
「用事は全て終わりましたか?」
「えぇ……まぁ」
結局、この人最後までいたな。
「でしたら、これから一緒に生徒会室にいきませんか?」
「だから興味がないです」
「ん~、困りましたねー」
そう言って生徒会長は人差し指をあごに添える。
「だったらわたくしの工房には興味ありませんか?」
「工房ですか……」
「はい、そうです」
工房。それは魔術の研究をしている部屋ということだ。
魔術師というのは基本、自分の研究を見せびらかさない。
だから他人に工房を見せるなんて滅多にしないことだが……。
「ふふっ、アベルくん。すごく見たくてたまらないって顔をしてますよ」
そう言って、生徒会長が頬をつついてくる。
「勝手に人の心を読もうとしないでください」
「やっぱり見たいんじゃないですか~」
「……まぁ、そうですけど」
純粋に魔術が好きな俺が他人の工房を見れる機会を逃すはずがなかった。
生徒会長が工房を見せてくれるというわけで、生徒会長に連れられながら歩いていた。
ちなみに手は握ったままだ。
「生徒会長。いい加減手を離してくれませんか?」
会長は機嫌がいいのか、さっきから鼻歌を歌っている。
そのせいなのか、すれ違うたびに生徒たちが俺らの方をチラチラと見てくるのであった。
やはり手を繋いで歩くのはおかしいのではないかと俺の中で疑念が再発していた。
「ふふっ、いやですよー」
けど、生徒会長はそう言って手を離そうとしない。
まぁ、いいか。
それより早く工房が見たい。
「そうだ、アベルくんに質問です。魔力ってなんだと思いますか?」
と、会長が急に質問をふってきた。
魔力とはなにか?
質問の意図がわからないな、と思いつつ答えてみる。
「魔術に必要なエネルギーです」
「確かにそのとおりですが、わたくしの欲しい解答ではありませんね」
「……えっと、魂の残り滓ですかね」
「ピンポンピンポ~ン、正解です」
魂の残り滓。
魔力はときどきそう表現されることがある。
「私たちに限らずあらゆる生命は魂を日々消費し、足りなくなった分を補充しています。魂は我々が生命活動するのに必要なエネルギーなんです。私たち魔術師は普通の人に比べ、補充される魂が多い。だから、余分な魂を魔力として消費することができます」
「それがなんだというんです?」
生徒会長が今語ったことは誰もが知っている常識だ。
「では、アベルくんにもう一つ質問です。生命活動に必要な魂をも魔力として消費しようとするとどうなるでしょう?」
「死にます」
ふと、俺は初めて魔術を発動させたとき、魂を魔力に変換して血を吐いたことを思い出していた。結局、この方法では魔力が足りず魔術を発動させることができなかった。
あのとき、もっと魂を削って魔力を獲得していたら、死んでいたに違いない。
「それだと50点ですね。正確には、魂が拒絶して魔術が発動しないです」
「いや、魂が拒絶するのは体が死ぬのを無意識に察知するからですよね」
「意外とアベルくんは負けず嫌いなんですか」
そんなことはないと思うが。
まぁ、不服だと思ったことに違いはないけど。
「とにかくですね、魂も魔力として消費できたら、一体どれだけのエネルギーを得られるか興味ありませんか?」
魔力を魂の残り滓と表現することからわかる通り、魔力は魂に比べたらほんの僅かでしかない。
それだけ魂の持つエネルギーは膨大だ。
「もしかして会長の研究がそれなんですか?」
「ちょっと違いますけどね~。ですが、そんな感じです」
と、そんな会話を続けていると会長が足をとめた。
工房に着いたのだろう。
そう思って、見上げて気がつく。
「あの、ここ生徒会室ですよね……」
扉のプレートにそう書いてあったのだ。
「わたくしの工房は生徒会室の奥にあるんですよ~」
なんか騙された気分だ。
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