―68― 妹VS会長

 妹の命令により、俺は魔術を使ってはいけないことになった。

 なので、会長と妹の戦いを黙って観戦するはめに。


 二人の魔術の特性を解析してみよう。

 妹は土属性の魔術だ。

 会長は大量の蛾を使った使役魔術。

 一言で説明するとこうなるが、実際には二人の魔術はもっと複雑なんだろう。


 単純に攻撃力を図るなら、妹のほうが上だ。

 まず、妹から繰り出される〈土巨人の拳ピューノ・ギガンテ〉の破壊力は圧倒的だ。

 本来、土の魔術は他の、火、風、水に比べ構築するのが難しいとされている。

 それは他のに比べ、土の持つ性質が複雑だから。

 だから、他の魔術師が妹と同じことをしようとしても、魔術を構築するのに何倍も時間がかかるはず。

 なのに、妹は瞬時に、土でできた巨大な拳を作ったり、消したりすることができる。

 圧倒的な攻撃力がある魔術を何度も繰り出すことができるのが妹の強さの秘密だ。

 妹がこれだけ土属性の魔術構築が速いのは、本人の適性以外にもなにか秘密がありそうだ。

 パッと思いつくのは、土の上位精霊と契約を結んでいるとかだな。それなら、妹が土以外の属性の魔術を使わないことにも納得がいくが、実際のところは本人に聞かないとわからないな。

 ともかく、プロセルは土の拳を用いて殴りかかり、土の足場を使って、飛んだり空中に静止したりと立体的な移動を用いる。

 以前、会長がプロセルのことを戦闘の天才と呼んでいたことを思い出す。

 プロセルの使う魔術はそこまで高度ってことではない。

 だが、魔術構築の速度や戦闘の反応速度がずば抜けている。

 これら戦闘におけるセンスがプロセルを天才たらしめているんだろう。


 一方、会長も妹に引けを取らない戦いを続けている。

 例えば、妹から繰り出される〈土巨人の拳ピューノ・ギガンテ〉に対して、大量の蛾を使って身を守ったと思ったら、蛾たちが爆発して、攻撃に転じたりしていた。

 恐らく、蛾の魂を魔力に変換させて、爆発を起こしているのだろう。

 それと不思議なことが2つ。

 1つは、蛾の数が一向に減る気配がないというもの。妹の攻撃や会長自身による爆発に巻き込まれ、何体もの蛾が死んでいるはず。

 それであれば、蛾の数は除々に減っていくはずだが、その気配が一切ない。

 もう1つは、会長自身が大量の蛾に変身したり、元の姿に戻ったりを繰り返す現象だ。

 この魔術には妹は相当翻弄されている様子で、妹が会長に攻撃したと思ったら、会長が大量の蛾に姿を変え、その場から飛び立ち、また別の場所に蛾に大量に集まったら、そこから会長がでてくる。

 そんなやり取りを何度も繰り返していた。

 変身魔術は比較的使用者が少ない魔術の1つだ。とはいえ、こんなに自在に変身したり解いたりできる魔術があるなんて聞いたことがないけどな。

 どんな魔術構築をすればできるんだろうか? と、俺はしばらく会長の魔術を観察していた。

 魔法陣を見れば、どんな魔術なのか少しはわかるはずだ。

 といっても、魔法陣は術者にしかわからないよう暗号化されている場合が多いから、簡単ではないけれど。

 それでも俺は観察を続けていた。

 それは単純に、会長の魔術の正体を確かめたいという、知的好奇心からきたものだった。

 そして、気がつく。

 会長の魔術の正体に。

 これは変身の魔術なんかではなかった。

 幻覚を見せる魔術だ。


 蛾の数は実際はもっと少ないが、それを幻覚によって多く見せているというのが本当。

 蛾が一向に減らない仕組みはこういうことだ。

 そして、会長が蛾に変身しているのではなく、そういう幻覚を見せているに過ぎない。

 恐らく、会長本人は、違う場所でこの様子を観察しているのだろうな。


 さて、そろそろ頃合いかな。

 俺は妹に魔術を使うなと言われていたから、今まで大人しくしていたが、それを最後まで守るつもりなんてない。

 

 ここまで律儀に守っていたのは、二人の戦力を分析するため。

 結論。

 今の俺ならこの二人を圧倒することができる。 


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