―47― 泣き落とし
俺がアントローポスに対し、頭を悩ませていると、トントン、と部屋のノックが響いた。
誰かが部屋に尋ねてきたらしい。
「あの、ミレイアですけど……」
扉ごしに聞こえた声で、俺は安心した。
部屋に少女がいるこの状況、なにも事情を知らない人が見たら、俺が誘拐でもしてきたんじゃないかって疑われる可能性があるからな。
事情を知っているミレイアなら、その点安心できる。
「あのー、アントローポスちゃんの様子を見に来たんですけど」
と、彼女を部屋に招いた瞬間、
「ミレイアぁあああ! 助けてくれぇえ!! こいつが、我のことをイジメるのだ!」
アントローポスがミレイアに助けを求めていた。
「えっと、アベルくん、これは一体どういう状況ですか?」
疑うような目でミレイアが俺のことを見ていた。
ふむ、確かに、この状況、俺がアントローポス相手になにか良からぬことをしようとしているように見えるな。
「こいつが俺を殺そうとするから、仕方なくだな」
「嘘だぁ! 我はなにもしてないのに、この人間が我を虐めようと、金縛りにっ!」
「おい、テキトーなこと言うな」
「さ、最低ですッ! 年頃の女の子になんてことさせているんですか!」
なぜか、ミレイアがアントローポスの言い分を信じたようで、俺に対して立ちはだかっていた。
「ミレイア……ぁ。我を助けてくれ……」
「今、助けますからね。少しだけ待っていてくださいね」
気がつけば、2対1の構図になっているし。
てか、ミレイアも偽神の言い分を信じるなよ。そいつがお前にひどいことをしたことは忘れたのか。
「アントローポス、動いていいぞ」
とりあえず、 アントローポスに施した金縛りを解いてみる。
途端、動けるようになったアントローポスは立ち上がると、
「ふんっ、バカめ。我の作戦通り、金縛りを解いたな! こいつを人質にしてやる。殺してほしくなかったら、〈
とか言いながら、ミレイアの首にナイフを押し当てる。
金縛りを解いた途端これとか、バカなのか? とか思わないでもない。
とにかく、再びアントローポスを金縛りにしてミレイアのことを助けるか、と思った直後、
「ふぐっ」
と、アントローポスがうめき声をあげていた。
見ると、人質にとられたミレイアがアントローポスのお腹に肘打ちをしていた。
「もしかして、私のことを騙したんですか?」
冷たい表情でミレイアがアントローポスを床に組み伏せていた。
「いだい……っ、おい、お前、我のご主人様だろ。だったら、見てないで助けてくれ!」
と、今度はアントローポスは俺に助けを求めていた。
さっきまで殺意を向けていた相手によく助けてもらおうと思ったな。
「そのへんにしてやれ、ミレイア」
「アベルくんがそういうなら、そうします」
そう言って、ミレイアはアントローポスから離れる。
「その、アベルくん。ごめんなさい。私、アベルくんのことを少し疑ってしまいました」
ミレイア落ち込んだ様子でそう呟く。
「まぁ、わかればいいんだ」
そう言って、まだ床に突っ伏しているアントローポスのほうを向いた。
「いい加減、俺に歯向かおうとするのをやめてくれるとありがたいんだが」
「ふざけるな、人間。誰が貴様の言うことを聞いてやるものか」
反抗的な目で俺のことをにらみつける。
もう少し落ち着いてくれるとありがたいんだがな。
「なぁ、アントローポス。俺とお前は今、主従関係にある。つまり、お前は俺の命令に逆らうことができない状態なわけだ。それは理解しているよな」
そう言うと、アントローポスは歯軋りを始めた。どんだけ悔しいんだか。
「なにが言いたいかというとな、俺はその気になれば、命令することで、お前に激痛を与えることができるわけだ」
「ふげっ?」
「このままお前が大人しくならないというなら、大人しくなるまで、全身に激痛を与えるが、構わないか?」
そう呟くと、アントローポスはガクガクと顎を震わせた。
「ご、ごめんなしゃい! 我、大人しくするので、激痛をやめてほしいのだ!」
それから涙目で彼女は訴え始める。
「さっきも似たようなことを言った後、俺のことを殺そうとしたよな」
「今度は本心から、そう思っているのだ! だから、頼む。頼むのだぁ!」
これで本当に大人しくしてくれたら、いいんだけどな。とりあえず、信じてみるか。
「そうか。なら、激痛を与えるのをやめる」
「助かったのだ……」
と、彼女はほっとした様子だった。
一応、さっきみたいにこっちが気を抜こうとした瞬間、また殺そうとしてくるんじゃないかと警戒をするが、今後はそんな様子は伺えなかった。
よっぽど、脅しが効いたらしい。
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