カクヨム先行 おまけ⑨ シドの家族

 甘いんだよ。あいつ、すげえ人が好すぎて甘いんだよ。

 バカだ。俺のために引き返すなんて、バカだろ。

 俺の気持ちをいちばんにわかっているはずの、相棒みたいなおまえが、こんな大事なときに俺が伝えたはずの意思に反して――


 薄れる意識の中、声も出せず、力も入らず、滲むように見えていたのは、ロッドを片手に戦闘態勢に入っていた心優の姿だった。


 やめろ。おまえ、そいつには絶対に勝てないんだからな。

 俺がやっつけてやるから、……


 できない。腹部が熱く、呼吸が出来なくなっていた。

 意識が遠のいていく――。


 終わったかな。俺。



 いつもその時に見えるのは、あのロザリオだったらいいと思っていた。

 きっと聖職者であった父が導いてくれる。

 ほんとうは生まれてはいけないはずだった自分だから、護るためにこの命を使う。

 そうしたら……。父と母の禁断の行為を、自分の存在を神は許してくれるだろうか。


 そう思っていたのに。

 ここ最近、最後に浮かぶのは珊瑚礁の海だったり、金髪の義父に姉に、和服の義母に、黒髪の彼女と、快活な兄貴のような大佐殿。

 いつも一緒に夜遊びをした、白い飛行服の兄さんに。

 栗毛が麗しい奥様と、眼鏡の旦那様。



シド、いらっしゃい。内緒よ。これ今日の私のおやつなの。


シド。ダイナーに行こう。あ、でもシドはバイクだからビール一緒に飲めないね。どうしよう。


 護るために使おうと思っていた命。

 ストイックに感情に流されずに、そのためだけに生きていけばいいと思っていた毎日。


 罪深いとはこのことですか。

 浮かぶのは、今日まで一緒にいた人々のことばかりです。

 そして帰りたい。彼女のところに、兄さんたちや、フロリダの姉さんにももう一度会いたいです。


 俺も、他の人々と一緒で、他愛もないことが手放せなくなっているみたいです。


 嘘をついた俺は、やはり許されないのでしょうか。




 目を開けると、光に溢れていた。

 

「シド」


 おかしいな。その人がいるはずもないのだが。

 栗毛に、水色の瞳。ちょっとキツい表情が特徴の……


ママ。


 いつも忙しい母の顔が見えるなんて、ついに幻を見ているのかと思った。


「エド、目を覚ましたみたい」


 白衣の男が近づいてきた。

 栗毛の。いつも無言でむっつりしている、なんでも器用なオジキがいる。


「よく頑張ったな。痛みなどあるか。あるなら手を握ってみろ」


 手? そう言われるて気がつく。誰かが自分の手を握っている?

 夢じゃないのかこれ。


 シドは思い出す。

 心優――。心優が!!


「み……! っ」


 声が出ない!?


「落ち着け。意識ははっきりしているみたいだな。気管切開している。いまは声を出せない状態だ」


 そうだ。あの少佐に刺されたんだ。シドの脳裏に次々と途切れたその時が浮かび上がる。


 あいつがナイフを手にした時、シドじゃない、あいつの視線は心優に向かっていた。


 目の前にいる同じ戦闘員のシドよりも、即刻仕留めたいのは、自分が裏切り者だと知らせに行こうとしている『艦長の護衛官』。


 シドを突き飛ばそうとしていた。突き飛ばしてとにかく心優を追いかける目をみて、シドは駆け出す男の目の前を素早く遮った。


 その時、目が合った。ハーヴェイ少佐の視線がやっと心優から外れ、そしてシドを憎々しい獰猛な視線で見たかと思うと、少佐は躊躇わずにそのナイフをシドに突き刺したのだ。


 一瞬の出来事で、そしてシドは『へまをした』と思った。

 裏切り者の男が躊躇うはずもなかったのだから、でも走行を阻止するのが精一杯だった。


 ただただ、心優を狙う目を、外したくて。少しでもあいつがここから離れられるように。


 なのに心優は、戻って来てしまった。

 あいつが警棒片手にハーヴェイと向き合ったところまでしか思い出せない!!


 どうなったんだよ!

 心優は! 艦は! 葉月さんは!

 俺はいまどこにいるんだよ!


 そして視界からは幻と思っていた実母とエドが消えない。


「おちつけ、シド!」


 暴れているんだと思う。目を見開いて、声が出なくて。言いたいことが通じていない。


 だがそこに。いつもの、冷めた母の水色の瞳が見えた。

 この母は決して、よくある『優しい母の面影』など見せやしない女だった。


「あんたが最初に聞きたいことは、園田中尉のことよね。喜びなさい。彼女がハーヴェイを素手で制圧したとのことよ」


 心優が! ちゃんとやりかえしていた!


 あんなやつに敵うはずないから、俺が守ると思っていた反面――。

 なめんなよ。この女、すげえ無敵だからな――とも思っていた。


 やっと力が抜け、シドはベッドの枕へ頭を沈めることができた。

 暴れるシドを押さえつけていた白衣のエドも、ほっとした様子で離れていく。


 そしてシドはまじまじとそこにいる二人を見た。


 来てくれたんだ。ママ。

 きっと、エドがここまで運んでくれたんだよな。治してくれたんだよな。


 急に……。力が抜けてきた。

 そして母とエドが見ているそこから顔を背けた。


 いち早く気がついたのは母だった。


「ジュールに連絡してくる。あと……、美穂様にも」

「わかった」


 母が病室から出て行く。

 気がついていたのは、母だけではなかった。


 点滴の落ちる速度を調整している白衣のエドが、こちらを見ずに言う。


「いまのうちに泣いておけ。おまえ、三日ほど眠っていたからな。ナタリーもほぼ寝ていない」


 そうだったんだ。

 まさか、来てくれるなんて思わなかった。

 だって。俺はもうあの人の息子ではない。あの母は御園のため、組織のために息子を養子に出したんだから。


「美穂奥様の気遣いだったんだろうな。フロリダから今すぐ行けるわけないから、日本にいる実母のナタリーにとにかくすぐに行って、自分が到着するまできちんと面倒を見て欲しいと頼まれたそうだ。あれ、美穂奥様の嘘だな。まず実母を行かせて、それから養母の自分。でも、あのお方もすぐに駆けつけたくて仕方がないと思う。声が泣いていたそうだ。あと数日したら美穂様が来られる。それまでは、素直に『美穂奥様が手配してくれたお手伝いさん、ヘルパーさん』の言うことを聞いて、なんでも甘えておくんだな」


 個室だと気がついたシドは、白衣の彼から顔を背けた側で、やっと声を殺して涙を流していた。

 くっそ。なんでだよ。実母がいるし、面倒をよく見てくれたオジキがいるし。


 なにより。心優……、良かった。


 痛みがあることにも気がついたが、思うように動けなければ、声も出せない。


 でも。顔を背けて涙を流し、目の前に見えるのは窓と青空だった。


「簡単に報告しておく。大陸国は穏便派と武闘派で対立状態にあるようで、武闘派が不明船団として領海侵入をして、コーストガードの巡視船を砲撃。着弾をし、巡視船が被害を受けた。同時に、民間船舶に装った武装大型漁船が空母艦を目指して、ミサイルを搭載、発射する手はずを整えていたとのことだ」


 一気に感傷的になっていた涙が止まった。

 やはり、そんなことになっていたんだ! 嫌な予感が全部当たっていた。


 艦内内部に裏切り者、内通者がいたし、国境を撃破するための武力攻撃が行われていた。


 しかも、コーストガードと海軍を同時に狙って。


 傷が余計にズキズキしてきた。今度は腹が立って痛んでいる!


「それを葉月様が見事に回避された。……といえば聞こえはいいが。王子と呼ばれている対国パイロットの誘導と要望により、御園艦長は領空侵犯をした機体への撃墜命令を無視し、大陸国のフランカー六機の領空侵入を許した。間に合わなかったんだ。横須賀の対空射撃が間に合わないと判断をされ、また王子が密かに武闘集団と同調していると見せて、うまく葉月様とコンタクトを取るタイミングを狙っていたということだ。つまり、うまく引き出し、最上の交渉相手として狙いを定められていたということだ」


 葉月さんがとんでもない決断をしていたことに、シドは愕然とする。

 でもそれも一瞬で、シドはそっと目を閉じる。


 あの奥様は、おば様は、それができる人だ。

 する人だ。シドもよく知っている。だから……、あの人を取り囲む男たちに憧れて、鍛錬を積み重ねてきたのだから。


「あの決断がなければ、いまごろ空母は攻撃を受け被害を出していただろう。負傷者も死者も出ていたはずだ。それを、あの方は護った」


 それで、いまどうしているのかと、シドは背けていた顔をオジキの元へ戻した。

 彼がじっと見下ろしていた。白衣のポケットからハンカチを取り出し、濡れている目元と頬を拭いてくれた。


「葉月様はいま業務停止命令が出て、査問のために横須賀に拘束されている。園田中尉が『准将を一人にするのは安心ができない』と言い張って、護衛官の勤めを全うされている。……彼女なら大丈夫だとお嬢様をお任せして、俺はここにいる。それから、俺のいまの身分に素性はこれだから、頼むな」


 首に掛けている隊員IDカードを見せられたが、あらかさまな偽名でシドは吹き出しそうになったが、息をしようとする喉も腹も痛い。


「フランク大将が御園艦隊に直々に手配したメディック隊となっている。本当なら横須賀に行きたいが園田中尉に任せて、葉月様の処遇が決まるまでここにいるつもりだ。明後日、美穂様が来られると思う」


 自分が刺された後のなにもかもを聞くことができ、やっと安心をして、シドは天井を仰ぐように横たわった。


 そうしたら、モニターを確認しているエドがくすりと笑っていた。

 やんちゃで悪ガキで、おまえはほんとうに手間がかかる。と、小さな頃から強面で叱ってきたオジキだから、この不甲斐ない悪ガキの姿を笑っているのだとシドは思った。


「いま、ナタリーがさっさと出て行っただろ。息子が涙を流しそうだから気を遣って出て行ったとおまえは思っているだろうな。違う。ナタリーが泣きそうになって、自分の涙を見られたくないから自分のためにさっさと出て行ったんだよ。おまえにそっくり。おまえさ、姿は父親にそっくりだが、性格はナタリーにそっくりだな」


 そうか、そうなんだ。あの人も母親の気持ち、持ってくれていたんだ。

 本当はわかっていたくせに。いつも忙しそうで、キツい顔をしていて、シビアなことしか言わない。

 さっと養子にと手放し、軍隊に放り込んだ母親だと思っていたのに。まあ、自分も軍隊でやってやるとは決めていたけれど。


「さて。なにかあれば、このボタンを押すように。できるな」


 子供じゃねえや。できるわ!

 いつもの口答えさえできない。

 そんなエドがじっとまたシドを見下ろしている。


「園田中尉が、おまえを搬送するときに心配そうに追いかけてきてな。伝言をもらった。守ってくれてありがとう。わたしも頑張るから必ず還ってきてほしい。帰ったら一緒に食事を。ダイナーでビールを飲もう――とのことだ。リハビリに時間もかかるだろうが、早く戻りたいなら大人しく医師の指示に従え」


 いつもの反抗的な態度ばかり繰り返していたら時間のロスだと言われているのだとわかった。

 シドも、このオジキには素直に頷いた。


「では、これで」


 冷たく去って行くのも、子供の頃からかわらない。

 口が動かせるなら――

 帰ったらだし巻き卵、つくってくれ――ぐらい、いまなら言えそうだったのに。


 栗毛のオジキが去って行き、シドはまた眠気が襲ってきた。


『あら、眠ってしまったのね。ボスもジュールも、よく頑張った。ハーヴェイが内通者とよく見抜いた。葉月様が敢えてシドに伝えなかった意図をよくくみ取ったと言ってくれたのに……。もう言わないわよ』


 ずるいママだよ

 聞こえていたが、おそらく先ほどエドが調整したなにかでまた眠らされるんだと思った。




 二日後、気管切開にて入っていた呼吸器の管が抜け、通常の酸素マスクになった。

 食事はまだ点滴のみ。実母が身体を拭いてくれたり、知りたい情報を伝えてくれたり。でも彼女もいくつか会社を経営している経営者なので、息子が療養している個室病室でも、パソコンを持ち出して常に画面に向かっている。


 シドがよく知っている母の姿だった。


 だがこの日、母はノートパソコンを見つめながら、ふと息子に話しかけてきた。


「フランスにいるあなたのパパなんだけど」


 ロザリオの父のことだとわかった。


「一応、連絡したのよ。もう取り乱しちゃって泣いちゃって。優しい人だからね。いま、彼がなにをしているか教えておくわね」


 養子になる前の十八歳の時。初めてその人と会わせてもらったことがある。

 聖職者と聞いていたので、本当に会って良いのかどうか戸惑った。

 しかし彼はシドが想像していた神父のような姿とは異なり、一般的なカジュアルな服装でアメリカに来てくれたのだ。


『はじめまして。シド』


 自分と同じ青い目と金髪の男性だった。

 顔つきは母に似たのだと初めてその時に思った。


『これは君のこれからのすべての幸を祈って。私から捧げよう。私が子供の頃からずっとつけてきたものだ』


 緑色の翡翠がはめ込んである古びたロザリオだった。


『君の側に、いつでもいるよ。君を神が守ってくれるように、毎日祈ろう』


 そう言ってくれた父が、自分の今の状態を知って泣いていると聞き、また涙が滲みそうだった。

 いままでの誰よりも、優しい顔だと思わせてくれた人だったから。


「あなたが生まれて聖職者を辞職したの。それからは福祉や慈善事業に精を出してくれてね。いまは孤児院をいくつか経営している。もちろん、経済的なことは私もバックアップしてる。私も孤児だったからね。そこで……出会ったから」


「そうだったんだ」


 初めて母親から、実父とのなれそめを聞かされる。


「あなたが命をかけていること、とても心配していたわよ。シドのことを祈らない日はないと言っていた。そこのところ、覚えておいて。意識が戻ったし、命に別状はないと伝えたら、また泣いていたわよ。ほんとうに優しい人。あなたにもそのDNAあるはずなんだけどね? 私みたいなひねくれ者に育っちゃって」


 はあ? あんたのそういう言い方がもう……俺を素直にしなかったんじゃないかと言い返したかった。


「明日、ここを離れる。入れ替わりで美穂様が来られるそうだから、そちらのお母様にいっぱい甘えておきな」


 ツンとしている母を、シドはじっと見つめた。


「なに?」


 甘えるということを、この人は美穂お母様のために残しておいたに違いない。

 シドはそう思える大人に自分がなれた気がしていた。


「はやく仕事に帰れよ。母親面してさぼってんじゃねえよ」


 大人になれても、こう言い返した方が母は楽なんだ。それも初めて思っている。

 でも。母が栗毛の前髪に目元を隠して俯いている。なにもかも、この人も覚悟の上で、息子が言うことも受けれるんだろうなとシドは感じている。


「来てくれて、ありがとうな。小笠原で、親しくなった同僚と先輩と、……友人とまたやっていくから」


 まだはっきりと出ないかすれた声で伝えてみる。


「そ、だったら。フランクとして頑張りな。私と一緒にいたら、名字やアンダーネームはなしだからね」


 戸籍もあやふや、身元ははっきりさせない。そんな生き方をしている母親だった。

 だからきっと。息子は表の世界にだしたのかもしれない。


 その母と翌日別れた。

 しかもあの母親め。シドが眠っているうちにいなくなっていた。



 実母のナタリーが去って、数時間後。

 病室に誰かが訪ねてきたと思ったら。


 黒髪のお母様と、制服姿の金髪の姉だった。


「シドくん!!」


 今日の養母は和服ではなくて、洋服姿だった。

 品の良いワンピースにコートを羽織っていて、動きやすい姿で来てくれたのだとシドは思った。


 その母と目が合い、シドは『お母様』と半身を起こそうとしたのだが。

 金髪の姉『愛理』がずかずかと病室に入ってきて、母より先にシドの目の前に立ちはだかった。


 ブラックキティと呼ばれている姉は、養父のフランク大将にそっくりな金髪と真っ青な瞳の持ち主。でもこれまた実母のナタリー並にきっつい女だった。その姉がシドを睨んでいる。


「絶対やると思った。いつか死にかけると思っていたわよ。ほんとにやるなんて、バカな弟」


 あ~、なんかフランクの家に帰ってきた錯覚を起こし、シドは酸素マスクをしたまま苦笑いをこぼした。


「もうこのままフロリダに帰ろう。シド。怪我が治るまで、うちでゆっくりしたらいいじゃない。ね」


 ん? らしくないことを言うなと、ふとベッドのそこで立ちはだかってシドを睨んでいる姉を見たら。泣いていた。


「なにしてんのよ。心配したじゃない。血が繋がっていないと思っているから、俺はいついなくなってもいいとか思って刺されるようなこと平気でしたんでしょ。私とお母さんを泣かせたら、一生、弟だなんて思わないからね」


 あの気が強い姉がぽろぽろと涙を流しているので、シドは唖然とした。


「ごめん、姉さん」


 そう呟くと、寝そべっているシドへと姉の愛理が抱きついてきた。

 それだけではない、姉が抱きついたと思ったら、もう一人、シドの身体の上にしがみついてきた。


「もう、シド君~。お母さんもすっごく心配だったんだからね。シド君が死んじゃったら、私も死ぬ!」


 本当の母親が言いそうなことを言って、美穂母までシドに抱きついてきた。


 女性二人が抱きついて、わんわん泣いている。

 もうシドは呆然……。そこへ白衣姿のエドが入ってきた。

 これまた知らぬ顔でモニターと点滴をチェックして出て行こうとしたら、美穂母がエドが誰かわかっているからか、黙ってそっとお辞儀をしていた。

 エドも軽く会釈をして去って行っただけだった。


「もうー、シド君!!」


 また母は抱きついて延々と泣いている。

 姉は落ち着いたのか、ハンカチでやっと目元を拭って離れてくれた。


「横須賀の搬送まで、姉の私が軍人としてきちんと手配するからね」

「横須賀まで、お母様も行きます。それまで一緒にいますからね!」


「は、はい」


 その後は二人の女性が、なんでもしてくれた。

 甘えるどころか、甘える前になんでもしてくれたのだが……。

 こういうのが、家族なのかなと感じられる日々をシドは体験する。


 エドはいつの間にかいなくなり、新しい軍医が主治医に着いたが、大将の娘で、ブラックキティな姉が、あれこれ口を挟むのでげんなりした様子で気の毒になった。


 エドが去った頃。

 御園准将が艦隊に戻ったと聞かされる。

 しかし、それが最後の航海であり、小笠原の空部大隊長も解任されると聞かされた。


 護るとはなんなのだろう。

 なにかと引き換えに護らなくてはならないことがある。

 シドは自分のこともそう、実母のことも、フランスにいる実父のことも、そして葉月奥様も、そうせねばならないことがあると感じている。


 自分は、心優を護りたかった。

 これからも彼女と彼女の世界を護っていく。

 生きて還るために、大事なロザリオを預けた。

 小笠原に帰ったら、彼女に会いに行って、父のロザリオにも会いに行く――。

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