第11話 そうだ、街へ行こう!箱入り娘、遂に家から出る編 1

 

――トントントン


「入れ」


――ガチャリ


「いや、だから!露骨に顔を顰めないで下さいお父様!!」


 もうこれ確実にわざとやってるだろ……


「はぁ……それで、今日はどうした?」

「その溜息。私に失礼だと思いませんか?」

「知らん」


 切って捨てられた。ショックだ。

 俺は街に降りたい事をお父様に伝える。


「あと、お小遣いをください」

「……」

「お小遣いを下さい」

「……」

「下さい」

「はぁ……分かった。幾らだ」

「そうですね。50,000エル~300,000エルの間で下さい」


 この国の通貨の単位はエルで1エル=1円だ。

 全て硬貨で紙幣は無い。

 一番安い貨幣が銭貨で100エル。つまりは100円。

 次が銅貨で1,000エル。銀貨が10,000エルで、金貨が100,000エル。

 その上に白金貨1,000.000エルが存在し、最上位がミスリル貨10,000,000エルとなっている。

 そして今、俺はお父様にさらっと5万~30万円を寄越せと言った訳だ。


「今から300,000エル用意する。それで、一年分だ」


 ……マジか!?

 表情自体は相変わらず微笑んでいるが、内心ではビクビクである。大金持つの怖い。

 うん、本当に何て言えばいいだろう。……そう、貴族の凄さを垣間見た気がする。


「ほら、金貨2枚と銀貨10枚。合計300,000エル」

「はい、確かに受け取りました。ありがとうございます。お父様」

「気にするな。だから、もう早く行け」

「む、厄介払いですか?」

「そーうーだ!」


 ハッキリ言われてしまった。ショックである。

 まあいいか。今日は異世界初のショッピング!


「ふふ、では失礼いたします」


 俺は扉を出る前に一礼して部屋から出た。



     ◆  ◇  ◆



 さあ、やってきました城下町!

 屋敷から出る時に衛兵に誰コイツみたいな目で見られたけど気にしないったら気にしない!屋敷を出てから誰か着いて来てるけど気にしない!

 まあ、妥当に考えてお父様が用意した見張り兼護衛だろう。

 その証拠に≪マップ≫の表示は青表示だ。


「さて、何処から回るかなー」


 俺は大通りをきょろきょろしながら歩く。見た目は完全におのぼりさんだ。

 あれ~、一応領主の娘なんだけどな……


「と言うか、こうして出てみてから思うけど行き当たりバッタリ過ぎて目的地も糞も無いな」


 うーん。なんでだろう。スゲー見られてる。

 やっぱり目立つのかな俺?


「はぁ……」


 無遠慮な視線て、ここまで人を不快にさせるんだね。

 ちなみに今日は≪夜月のドレス≫ではない。流石に大通りをアレで歩きたくはない。王都の貴族街なら未だしもココでそれは本当にない。

 そんな訳で今俺はワンピースを着ている。正確には膝下まであるロングスカート風ワンピースだ。当然それは≪魔装≫で、下に着た普通のワンピースを上から青と白の魔力でコーティングしたものだ。

 あとは白の魔力で作ったつばの広い帽子を被っている。つばを広くしたのは顔と露出した肩の日焼け対策だ。ちなみに今の季節は夏である。幸い、夏と言っても入りたてで炎天下では無かった。

 それとワンピースだが魔装名は≪聖涼せいりょうのワンピース≫に設定した。青の魔力のお蔭で非常に涼しく快適な≪魔装≫である。

 ≪聖涼せいりょうのワンピース≫の細工や装飾などに関しては下地のワンピースを模倣して、それに幾つかの細工と装飾を加えた。


 大通りを歩いていると一つの出店が目に留まった。

 その出店の商品はクレープ。

 なぜだろう。凄く食べたい。まるでこの体が甘味を求めている様な……

 ……気が付くと俺はクレープ屋台の列に並んでいた。


「お姉さんイチゴチョコクレープ下さい」

「うふふ、可愛いお客さんね。銭貨5枚になります」

「あ、あの……」

「どうしたの?」

「銀貨でも大丈夫ですか?」

「勿論、大丈夫よ」


 俺は追加装飾したポケットに手を入れ、そこを基点にインベントリからお金を入れた袋取り出す。

 これが銀貨かな?指に銀貨と思わしき物が触れる。


《≪ステータス≫に『所持金』の表示が追加されました。以降はそちらへの貯金が可能になります》


「……どうしたの?」


 一瞬固まった事で不審に思われた様だ。


「いえ、何でも無いです。コレお願いします」

「はい、毎度あり。これイチゴチョコクレープね」

「うわー!」

「はい、お釣り」


 俺はお姉さんから渡された金額を確認する。

 ……うん、ピッタリ。

 俺はお釣りをポケットに入れて早速『所持金』に入れた。手の中から硬貨の重みが無くなる。よし、ちゃんと発動してるね。


 俺は再び大通りを歩き出す。


「むぐむぐ……」


 美味しい。

 ……あと、視線の数が増えた気がする。

 そこからぶらりと歩く事十分。目的の場所……でも、ないが冒険者ギルドが見えて来た。


「折角だし入ってみようかな?」


 ちなみにギルドへの登録は7歳に行われる神殿の神事を受けないとできない。

 だから、本当に出来るのは見るだけだ。神事の時に全国共通の身分証が発行される為、それが無ければ街の外に出る事も出来ないのだ。


 俺は意外に小奇麗な入り口を通り中に入る。

 右側に食事処、中央にカウンター、左側に依頼書や奥に続く廊下がある。


「へー」

「おっと、お嬢ちゃん道開けてくれるかい?」

「あ、すみません」


 入り口で立ち止まっていた為、邪魔になった様だ。俺は左側による。


「ふーん、意外に子供もいるんだ」


 日中で冒険者自体は少なかったが、居るにはいた。2、30人くらいだ。

 その内、子供1:青年2:大人7といった感じの割合だ。当然、俺はカウントしていない。まず、冒険者じゃないしね。


「うん、満足したし次に行こうかな?」


 俺は室内の為に脱いでいた帽子を被り直し冒険者ギルドを出た。


 また通りに戻って来た俺は適当に人の流れに乗ってみる事にした。

 行きついた先は飲食街?と思わしき店が並ぶ通りだった。


「折角だし昼食はここら辺で取るか」


 ○○亭や○○食堂、○○屋といった店が並ぶ。

 とりあえず、食堂から選ぼう。

 ミロード食堂、フェス食堂、セプト食堂……ピロド食堂!

 昼食を取る場所はピロド食堂に決めた。

 何故そこにしたかと言うとピザ専門店だったからだ。流石に一発目で異世界の料理はハードルが高い……


――チリン、チリン


「いらっしゃいませー。空いてる席にどうぞー」


 俺は適当に開いてる席へ。

 ……テーブル席に座った。一人の時にカウンター席って何でか嫌だよね。情報収集が目的ならそこに座ったりするんだろうけど、今俺は静かにピザが食べたい!


――チリン、チリン


 あ、三人の護衛さんの内の二人が店に入って来た。俺は視線で気づかれない様にマップで位置を確認する。

 二人は窓際の席に座った。


「ご注文はお決まりですかー?」

「女の子?」


 思わず口から思った事がポロッと零れてしまった。

 何故その様な言葉が口をついたかと言うと、注文を取りに来た人物が女の子にしか見えなかったからだ。


「むー、私はドワーフなんですー!」

「あ、ごめんなさい……。私、今まで屋敷から出た事が無かったので……ドワーフの方を見た事が無かったんです……」


 しゅんとして見せる。


「え!?ああ、あの、えっと、そういうつもりじゃ!?怒ってるとかじゃないんですー!」

「そう……なんですか?」


 涙目+上目遣いで聞く。幼女の最強コンボである。


「はいー!そうなんですー!」

「わー、良かったです!」


 パーッと笑みを溢して見せた。

 コレで、一件落着である。あざとい?知らんな。


「それでー注文は何にしますかー?」

「えっと、コレとコレください!」


 俺はトマトとチーズ、ハーブをトッピングしたマルゲリータピッツァとオレンジジュースを選択する。写真などが無い為、絵で描かれているがそれでも美味しそうに見えたのだ。


「大きさはどうしますかー?」

「一番小さなサイズでお願いします」

「はーい、わかりましたー!では、少しの間お待ちくださいー!!」


 ドワーフの少女は厨房へと走って行った。俺は興味本位で彼女に<管理神の祝福>を使う。



<イモール・ド・ウェルグ・ピエノ>

レベル:43

性別:女

年齢:32

種族:山人族ドワーフ

クラス:槌使い

HP(生命力):360/360

MP(魔力):44/44

ST(体力):411/430(+100)

ATK(攻撃力):421(+100)

INT(知力):126

DEF(防御力):518(+100)

MIND(抵抗力):72

SPD(行動速度):112



 防御力高っ。

 あれ、俺75%も補正入って147なんですけど……

 レベルで勝ってるのにステータスボロ負けなんですけど……

 いや、うん。俺には気狂いのMP、INT、MINDがあるから大丈夫。と言うか、こうして見ると魔法特化だな。おい。

 本気で護身術磨かなきゃいけない気がする。


「お待たせしました-。マルゲリータでーす。銭貨8枚になりまーす」


 どうやら、料理と交換でお金を払うシステムらしい。

 俺はポケットに手を入れ所持金から銅貨1枚を取り出す。銭貨8枚じゃない理由は、銭貨が所持金から取り出せなかったから。

 恐らく所持金に入れた枚数の所為だと思われる。

 俺はお釣りを受け取り、マルゲリータに向き直る。


「うわー」


 チーズが波立ってる。滅茶苦茶美味しそう。

 俺は六枚の内一枚を千切って手に取った。


「むぐむぐ……」


 感想。マルゲリータは熱々のチーズが非常に美味しかったです。

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