第19話 レベル214VSレベル87


 ルナとフローリア。

 この二人の戦闘タイプは真逆だった。

 ルナは防御主体の戦い方だ。もっとも、ルナの攻撃力を見れば防御主体が鼻で笑われるよな状態なのだが……

 まあ、それは置いておいてフローリアはルナとは逆に攻撃を主体とした戦い方だ。速度での手数押しと攻撃力での一点突破を得意としている。


――チリン!


 その為、戦闘開始の合図で動き出すのは決まってフローリアからだった。


「はあっ!!」


 フローリアは手始めに目にも止まらぬ速さでルナに接敵し薙ぎ払いを放つ。

 だが、その斬撃はルナに届く手前で割り込んで来た≪黒鎖≫に阻まれる。

 フローリアはルナの≪黒鎖≫に横なぎが阻まれたのを理解した瞬間には後ろへ飛んだ。そうしないと一瞬にしてやられるからだ。

 それは経験からくるものだった。以前、退かずに剣を押し込もうとした時があったのだ。

 その時は気が付くと気絶させられていた。

 後からルナに如何やったのか聞くと「鎖越しに目を合わせた時に≪幻術≫と≪催眠術≫を発動してお母様を眠りへと誘いました」と言われた。聞いた時は思わず頬を引き攣らせたものだ。

 つまりは戦闘中にルナと目を合わせただけで負けが確定するのだ。


「全くホントにやっていられないな」


 そう言いつつもフローリアの口元は弧を描いていた。

 叩けば叩くだけ見た事も聞いた事も無いような技やスキル、魔法が飛び出してくる。それが面白くて仕方ないのだ。


 またフローリアはルナ目掛けて突進を行う。今度フローリアが狙うのはルナの真正面だ。

 目を合わせると駄目だと分かっているからこそその裏をかこうとした訳だ。

 ルナが自分に気が付いたタイミングでフローリアは地面を剣で撥ね目潰しを図る。これで、お得意の≪催眠術≫は使えない筈だ。

 口に出さずともその思いはルナに伝わった。それに対してルナは、


「≪バースト≫!」


 自身の持つ膨大な魔力で周囲の全てを吹き飛ばすという荒業に出た。

 コレは格闘ゲームの嵌め技対策で実装された機能を思い出して創ったルナオリジナルの≪無魔法≫だ。

 その爆風は当然の様にフローリアにも襲い掛かる。


「くっ」


 如何しようもなかったフローリアは素直に爆風に乗って距離を取った。


「ならば!天に轟く雷鳴よ!」


 フローリアは詠唱しながら先程攻撃した位置の真逆へと回り込み三連突きを放つ。

 そしてその突きも見えない壁のようなモノに阻まれて防がれる。ルナがギリギリでフローリアの攻撃に反応して≪無魔法≫で障壁を作りあげたのだ。


「我は願う!我が敵を撃ち滅ぼし給え!!」


 ルナが振り向く前にフローリアは距離を取り直す。

 そこから、ルナの狙いが定められないように地面だけでなく壁や天井をも足場に跳び回った。こうした立ち回りをしないとルナとの対決は詰むと経験しているからだ。

 もっとも、それはフローリアの勘違いでルナが使う≪催眠術≫には色々と面倒な制約があり、距離を取っていれば目を合わせてもある程度は大丈夫なのだ。まあ当然、距離があってもジッと見つめ合う様な事をすればアウトだが。


 詠唱しつつ跳び回っていたフローリアは最後の跳躍を経て目的の場所に停止した

 それは訓練場の天井。ルナの真上だ。

 そこでフローリアは自身の使える最強の魔法を最大の威力で発動する。


「≪鳴雷なるいかづち≫!!」


――ヅッ!!ドガン!!


 フローリアの手から放たれた雷が周囲の空間を一瞬で焦がし尽くし、その音が遅れて訓練場の中に響き渡る。

 雷属性最上位魔法≪鳴雷≫。その難度は10段階中9段階目。

 ワイバーン程度ならば楽々と5、6体屠れるレベルのイカレた威力を持った魔法だ。

 そして何よりこの魔法の凶悪な点は発動すればほぼ回避不可能な所だ。


 その凶悪な魔法がルナ目掛けて降って来る。

 当然、回避は不可能。それに対してルナがとった行動は……何の対処もしないという行動だった。


 雷は必殺の威力を持ってルナ目掛けて降る。だが、ルナの抵抗力が働く範囲に入ると同時に減衰を始め……そして、健闘虚しくルナの2m程手前で完全に消滅してしまった。


「なっ、コレでも貫けないのか!?」


 フローリアの絶叫が訓練場に響く。それも当然だろう。

 フローリアは今日に到るまで沢山の魔法をルナ目掛けて打ち込んで来た。だが、その一発たりとて届いた事は無かった。

 そこで、満を持して使ったのが≪鳴雷≫だ。

 ≪鳴雷≫はフローリアがお世話になって来た魔法の中で最速最強を誇る魔法だった。

 だから、幾ら今までフローリアが放った全ての魔法を無効化し続けて来たルナでも、この攻撃なら倒せると踏んでいた。だが、その希望はあっさりと砕かれた。

 如何足掻こうともルナに魔法攻撃が通す事は出来無いようだ。


「ならば!」


 やはりルナを倒すには接近戦以外の方法は無いらしい。

 他には弓や投擲などが有効そうな攻撃方法に挙げられるが、残念な事にフローリアには何方も心得が無かった。


 フローリアは天井を再び蹴った。


――ズドン!


 そのコンマ数秒後、氷の弾丸がフローリアのいた場所を抉る。


――少しでも足を止めれば負けるな。


 フローリアは背筋にヒヤリとしたモノを感じつつ口の端を上げる。

 そして、地に足がついた同時にフロー理はまた地面を蹴り、ルナを真横から急襲した。


「這え」


 ルナの普段とは違う冷たい声に悪寒を感じてフローリアは距離を取り直す。一歩遅れて黒い鎖が足元を通って行った。

 見てみると他の方角にも黒い鎖が伸びている。八方位の無差別攻撃だったらしい。


――危なかったな。


 今度は鎖の無い部分から攻めようとして……踏みとどまった。


「罠か」

「光よ≪閃光レイ≫」


 フローリアが突進しようとしたタイミングに合わせる様にルナの指先から≪閃光≫の魔法が放たれた。

 ≪閃光≫の魔法はルナの周囲に浮かんでいる鏡を反射して疑似的に永続ループする五角形を描いた。

 フローリアはその間合いに迂闊に飛び込まなかった自分を褒める。幾ら初歩の≪閃光≫の魔法でも当たれば怪我を負う。足などやられればその時点で負けだ。


「≪円環論≫」


 だが、事態はフローリアの予想を超えたモノだった。


「な!?」


 単純な五角形。

 魔道具作りに使われる魔法陣。魔法陣とは描いておく事で詠唱を必要なく魔力を流すだけで魔法が発動する技術の事だ。

 そして魔法陣とも呼べない大雑把なそれだが、一つの現象起こす事が可能だった。五角形の魔法陣の効果は衝撃。

 そして疑似ループにより多重に組まれた五角形の魔法陣それは、


「≪ショックウェーブ≫」


 ルナを中心にありえない威力の衝撃波が撒き散らした。

 訓練場全体を襲う逃げ場の無いえげつない攻撃は一瞬にしてフローリアを飲み込み勢いよく壁へと叩きつけた。


「――ガハッ!?」

「ヤバい、やり過ぎた!?う、うわぁ、お母様ぁ!?」


 予想外の威力にルナは慌てふためいた。それはもう口調が素に戻るレベルで。

 とにかく早くフローリアを治療しないといけないという考えが浮かび、ルナは地を蹴った。本気ダッシュだ。


――ズザザザザァー!!


 ほぼスライディングの様な勢いでフローリアの横に膝を着いたルナは、自身が使える中で最も高い回復力を持つ魔法≪エクストラヒール≫を唱えた。

 聖属性上級魔法≪エクストラヒール≫は単体回復の呪文で、かなりの大怪我でもある程度回復する事が可能な魔法だ。その為、このレベルの魔法が使えれば一生食に困る事は無いだろう。


 焦っていてもルナの魔法はしっかり発動した。

 壁に叩き付けられた事で肺と幾つかの内臓がやられ、骨が何本か逝っていたフローリアの身体を光が包み込み、元の状態へと復元していく。

 ルナはその間もフローリアに手を向け魔法の制御を続ける。そうしないと効果が途中で途切れてしまうからだ。


「痛っ」


 突如ルナの頭に痛みが走った。


「制御負荷が掛かってるのか……」


 今更そこに気が付いたルナは戦闘用の≪魔装≫である≪黒鎖≫、≪反射鏡≫、≪蒼天そうてんつるぎ≫を解除する。


「ふぅ……」


 痛みが和らぎ、少して収まった。

 ルナは溜息とも嘆息ともとれるような息を吐き、自分の阿保さ加減を確認して自嘲気な苦笑が表情に浮かんだ。


「コレで、もう大丈夫かな?」


 完全にフローリアの治療を終えるとルナは改めて自分の起こした惨劇を確認した。


「うえぇ……」


 訓練場のあまりのボロボロさ加減に修理が大変そうだと思わずルナの口から珍妙な声が溢れるのだった。


 ちなみにこの後、ルナは目覚めたフローリアと共に夜明け近くまで訓練場の修理に勤しむ事となった。

 そして、完全に修理が終わるまで≪静寂空間サイレントフィールド≫と≪幻術空間イリュージョンフィールド≫を訓練場全体に貼る羽目になったルナは疲労困憊で朝見るに堪えない形相でベットから起き出して来たとか来なかったとか……

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