第18話 街へ行こう!春の神事見学編 2


 神父は祝福を終えると講堂から退場していった。

 続いて子供達が退場していく。この時も身分の高い者が優先されるらしい。面倒くさい世の中だねぇ……

 雰囲気的にはコレで終了の様だ。


「リノスさん。この後、子供達は別室でステータスの確認でしょうか?」

「そうですね。針でチクリとやって、それで出た血を触媒にステータスをチェックするんですよ」

「へー、血をですか」

「まあ、正確に言うと血に含まれる魔力を基にですけどね」


 DNA鑑定みたいなものらしい。


「クラスの獲得もその時に出来るのですか?」

「うーん、俺の時はそうでしたね」


 ちなみに俺は神様が勝手に選定した三つのクラスを既に所持している。

 ただし、どれも戦闘向きではないので、是非この機会に戦闘用のクラスを手に入れておきたいのだ。


「そう言えば、獲得出来るクラスは選べたりするのでしょうか?」

「んー、俺は選べましたよ」


 やはり獲得出来るクラスは複数あってその中から選べるらしい。


「どのようなモノがあったかお聞きしてもよろしいですか?」

「勿論、いいですよ。

 俺の時は剣士、戦士、拳士、武闘家、短剣使い、槍使い、後は暗殺者の七つが選べましたね」

「あ、暗殺者ですか?」


 随分と物騒な名前のクラスだな。

 ちなみに<管理神の祝福>で見たリノスさんのステータスでは戦士と短剣使いになっているので、暗殺者を選んだ訳では無い様だ。


「ああ、暗殺者って言うのは暗器使いの別称の事ですよ。短剣とか鉤爪とかエストックなんかを使ってたら選択できる様になったんですよ」

「そうなのですか……」


 なら普通に暗器使いって書けばいいのにね……


――ポーン、ポーン。



≪メール≫

題名:今現在、君の選べるクラスは一つしかないよ。

本文:正確に言うと選べる候補は三桁を超えるんだよ。でも、選べるモノが一つしかないんだ。

 何故そんな事になっているかと言うとそのクラスが隠しクラスで世界に一人だけしか取得できない代物なんだよね。で、その他のクラスを取得できる人物は他のクラスが一切取得できなくなるんだよ。

 ああ、心配しなくてもそのクラスを取得した後は他のクラスを取得できるようにはなるよ。まあ、そのクラスにかなりの容量を食われて当分は他のクラスを取得できないだろうけどね。

追伸:暗器使いじゃなく暗殺者なのは単純に僕の好みの問題だよ。



 ……マジですか。後、あんたの好みは如何でもいい。

 はぁ……せめて戦闘系クラスであってくれよ……。……いや、隠しクラスって言うぐらいだし強い戦闘系クラスの筈!!


――あれ、この発言ってフラグになって……ないよね?うん。ま、まさかね。


 俺は頭を過った不吉な考えを意思の力で押しつぶした。一緒にフラグも折れていてくれるとありがたい。


「姫様?どうかしましたか?」


 メールを読んで頬を引き攣らせていた俺を心配してリノスさんが声を掛けて来た。


「いえ、大丈夫ですわ」


 何とか持ち直したと思う。隣を見るとミラも俺を見て不思議そうな顔をしていた。誤魔化せたと思いたい。

 まあ、傍から見たら空中を見て固まっている図だもんな……


「そんな事より、そろそろ戻りましょうか。ね、ミラ」

「はい!お姉様!」


 誤魔化しついでに帰宅の提案をする。

 それは問題無く決定され、俺達は既に人が少なくなった祈祷の間を後にしたのだった。



      ◆  ◇  ◆



 夜中の二時、ジリリリリ……とアラームが鳴る。俺は身じろぎ一つ起こさないよう注意しつつ、俺以外には聞こえないアラームを止めた。


「ミラ、あなたに安らかな眠りを、安らかな眠りを、安らかな眠りを、安らかな……」


 俺はミラの耳元で刷り込む様に唱え続ける。

 唱える回数が30を超えた辺りで俺は唱えるのを辞めた。

 俺が行ったのはスキル≪催眠術≫を使った睡眠誘導だ。もっとも、今回は対象となるミラが既に眠っているので深い睡眠へと落とす為のものになる。


「悪いなミラ」


 俺はミラの艶やかな黒髪を一撫でしてベットから出た。


「≪魔装:夜月のドレス≫≪魔装:白と黒の迷廊靴下≫」


 パチンと指を弾いて寝間着から一瞬でドレスへと換装する。


――パチンッ!


 再び指を鳴らすといつの間にか素足の上に靴下が出現する。

 その靴下は御伽噺に出てくるキャラクターが履いている様なハイソックスで、白と黒を交互に並べたボーダー柄の靴下だった。

 そして、特徴的なのが脛辺りにあしらった黒のリボンだ。

 まあ、普段は≪夜月のドレス≫のフリルに隠れているので余りリボンがお目見えする機会は無いのだが。

 ≪白と黒の迷廊靴下≫は足の防護と攻撃力反転の効果がある。

 分かりやすく言うと魔法やら飛び道具を蹴り返せるのだ。


「≪魔装:蒼きガラスの靴≫≪魔装:白絶のティアラ≫」


 俺はその場で軽く跳ねる。


――カタンッ


 床に足が着いた時には既に足は青く透き通ったガラスの靴に覆われていた。

 ≪蒼きガラスの靴≫は俺の防具の中で最高の高度を保っている。その為、使い方次第では武器への転換も可能な凶悪な防具である。

 これもソックスと同じ様に御伽噺からの引用だ。題名は……恐らく言わずとも分かる筈だ。12時に落っことしていくアレだね。


――パチンッ!


 俺は靴の出来を確認した後にまた指を鳴らす。

 それに合わせて頭上に白い光が収束しティアラを形作った。

 そのティアラの中央には真っ白く大粒の宝石が嵌り、両サイドに青と黒の宝石が嵌っていた。

 ≪白絶のティアラ≫は頭部を防御する結界を維持する≪魔装≫だ。


「コレで最後っと。≪魔装:白百合と桃百合のコサージュ≫≪魔装:黒鎖≫」


 胸元に白と薄い赤が集まり、ピンクと白の百合の花を模ったコサージュが完成した。

 ≪白百合と桃百合のコサージュ≫は心臓を守る為の防具だ。敢えて防具以外の形で作る事に決めたが思った以上に形決めで手間取った一作である。

 そして、次の≪魔装≫が発動し、俺の周囲に黒い球体が舞った。黒い球体の数は以前より随分と増え、17という倍近い数となっていた。


「さてと、本日もいっちょりますかね」


 俺はそう独り言ち、窓から飛び降りた。


――ストっ


 殆ど音も無く地面に降り立った――正確には無詠唱で発動した≪静寂空間サイレントフィールド≫で消しただけ――俺は、訓練場目指して歩き出す。


 訓練場へ向かう途中の俺がいる場所に光が向かって来た。

 警備兵みたいだ。

 そして、俺と警備兵の距離は縮まって行き……俺はそのまま警備兵の真横を通り過ぎた。


「ふぅ、少しドキドキした」


 さて何故、俺が警備兵に見つからなかったのかと言うと、黒魔力で自身を隠蔽したからだ。

 黒魔力を常に大量に≪魔装≫として周囲に纏っている俺はやろうと思えば簡単に成功した。


「うん、案外使えるなコレ」


 そんな呟きを残して、俺は訓練場へ向けて再び歩み始めた。



    ◆  ◇  ◆



 ルナが訓練場に到着した時、既に相手はそこで待っていた。


「お母様、お待たせしました」

「来たか。ルナ」


 フローリアの表情は普段よりも数倍険しい。

 以前、ルナが魔法でフローリアを圧倒したあの日から、それ以来毎月数度このような夜遅くにルナとフローリアは本気の模擬戦を行っていたのだ。

 その為、お互いに何も言わずとも次の行動を始める事が出来た。


「「我が望むは加速なり。光の速度を我に与えたまえ。≪ライトニング≫」」


 光属性上級魔法≪ライトニング≫。その高難度の魔法をルナとフローリアは発動する。

 ≪ライトニング≫の魔法難度は10段階中5段階目。基礎魔法の≪光魔法≫の中では非常に難しい部類の魔法だ。

 だが、二人にとってこの程度の魔法は難しい部類には入らなかった。

 その証拠に二人は≪ライトニング≫より高難易度の魔法を発動する。


「我が望むは加速なり。雷よ。音をも置き去りにするその速度を我に与えたまえ。≪ボルカニック≫!」


 上位魔法である≪雷魔法≫の上級魔法≪ボルカニック≫。

 魔法難度は10段階中6段階目。

 魔法使いの中でこのレベルの魔法が使える者はほんの一握りしかいないだろう。それをフローリアは慣れた様子で発動した。事実、本当に使い慣れているのだ。


 その一方でルナも高レベルの魔法を発動しようとしていた。


「聖なる水よ。我が身を癒し清め給え≪セイクリットウォーターヒーリング≫」


 水と聖属性の混合魔法。

 コレは昔、聖女と呼ばれた人物が使ったとされている魔法の応用だ。まあ、応用と言っても詠唱を少し改変しただけなのだが。

 如何いう事かと言うと聖女が使う場合は発動対象が自分では無かった為に『我が身』の詠唱部分が『彼の者』だったのだ。

 ちなみにこの魔法、魔法難度で表すと7段階目になる。

 つまり使おうと思えば使える人間はルナ以外にもいるのだ。ただ、他の人物には詠唱を知る方法が無いだけで。


「≪黒鎖:展開数8≫≪魔装:蒼天そうてんつるぎ≫≪魔装:反射鏡≫」


 ルナは次いで黒い球体を八つ鎖状に変質させ、そこから≪蒼天そうてんつるぎ≫を手元に創造する。

 そしてダメ押しとばかりに五枚の鏡を顕現させた。

 ちなみに≪死鎌デスサイズ≫でなく≪蒼天そうてんつるぎ≫を使っているのは、あくまでこの模擬戦が剣の稽古の延長線上に存在するものだからだ。

 それと、ルナが≪死鎌デスサイズ≫を使うとフローリアでは勝負にならないから。という理由もある。間違いなく≪死鎌デスサイズ≫はフローリアが知る中で最強の武器の一角に入るモノだった。


「準備できました」

「うむ、こちらもだ。始めるか。ルールは何時も通りでいいな?」

「はい」


 ルナの返事を聞いたフローリアは一度頷き、その細指で銀貨を弾いた。

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