第27話 エピローグ

 

――コンコンコン。


「入れ」


 俺は取っ手に手を伸ばして扉を開ける。


「ふむ、来たかルティア」

「はい」

「一ヶ月ぶりか……」

「そうですね」


 ミラ誘拐事件から約一ヶ月が経った。

 俺は事件の後、謎の病気――実際は処理能力と瞬間発動量の限界を超えて魔法を使った事による副作用だ――に掛かり約一ヶ月丸々寝込む羽目になったのだ。


ミラ・・から話は聞いている。かなり酷かったらしいな」


 理由は知らないがお父様は俺の事をルティアと呼ぶ。だがしかし、ミラの事はミラルディナのルディナでは無くミラと呼んでいる。……俺の事もルナでよくないか?


「はい、一ヶ月間地獄を見ました……」

「ご愁傷さまだな。

 それでだが、どの学園にするか決めたか?」


 如何やら今日呼ばれたのはどの学園に入学するかの決定を聞くためらしい。以前から食事中によく会話に上がってはいたので何処の学園に入学するかは決定済みである。


 ちなみに俺の入学先に上がった学園は四つある。

 候補は1.王立騎士学校、2.王立魔法学園、3.王立貴族院、4.王立軍学校だ。他にも冒険者学校や養成学校などもあるそうだが、親たちの狭き門は超えられなかった様だ。少し冒険者学校は気になったんだけどねぇ。

 

 簡単な学校紹介をすると、まず第一候補の騎士学校。

 騎士学校は文字通り騎士を排出し続ける学校で、以前はフローリアお母様が通い、今は一番上の長男と次男――最近初めて上に兄二人と姉一人がいる事を知った――が通っている学校らしい。

 ちなみに長男も次男もセリルお母様の子供らしい。継嗣の問題とかは無く、兄妹仲は良好なのだとか、よかったよかった。


 次に第二候補の魔法学園。こちらはセリルお母様が通った学校で宮廷魔法師や名だたる魔法技師を排出している学校だそうだ。ちなみに長女はココに通っているそうだ。

 それと余談だが、セリルお母様は主席とはいかなかったものの上位の成績を修めていたらしい。美人で頭がいいとか……何でこの人お父様なんか・・・と結婚したんだろう?


 第三候補の貴族院は政治や経済などを学ぶ処で領地の跡継ぎは大体ココに通うのだとか。

 おい、長男なんで騎士学校行ってんだよ。ちなみにお父様はココの卒業生である。


 第四候補の軍学校はぶっちゃけ誰も押してない筈なのに何故か候補に挙がっていた。一応、騎士学校と対になる様に存在する学校なのだとか。上層部の仲が良いのかは不明である。


 何れの学校も八歳からの入学で四年間の間に初等部の課程をこなし、卒業の次の年からまた四年分の課程を中等部で終える事となっている。順当に過程を熟せば中等部卒業は15歳という事になる。

 また、そこから――中等部卒業――は高等部に籍を置く、領地に戻る、王都で仕事を探すなどの様々な選択肢がある。


 そして、俺が何処の学園を選択したかと言うと……


「はい、魔法学園にします」

「やはり、魔法学園か……」

「不満ですか?」

「そうだな……お前は頭が良いというか性格が悪そう……いや、何方かと言うと腹黒そうだからな。領地経営の補佐をしてくれると助かるのだが」


 酷い言い掛かりである。


「うぅ、酷いですわお父様」

「そう言う所が腹黒いと言っているのだ」

「むぅ、辛辣ですね」


 この間も説明文からボロ糞に言われたばかりだと言うのに、親にまでそこまで言われるとは思ってもみなかった。

 よし、軽い仕返しでもしておこう。


「それに、私は将来家を出るつもりですから」

「む、そうなのか?」


 ここまでの反応は予想済みである。


「ええ、ミラと一緒に・・・・・・旅をするつもりですわ」


 その言葉にお父様が固まった。

 そう、最近分かったがお父様は俺に冷たいのではなく、ミラに甘かっただけであった。いや、まあ俺に冷たい部分もあるんですけどね。ミラに甘くした分、俺に反動が返って来ている気がする。

 まあ、そんなお父様がミラの家出?出家?……を聞いて冷静で居られるかな?


「では、また昼食の時間に会いましょう」

「おい、待――」


 俺は一礼して部屋を出た。

 まだ、部屋の中で物音がするが、意図的に無視してその場を離れた。



     ◆  ◇  ◆



 時は遡る。

 襲撃の日の夜。ルナは部屋のベットで横になりながら対面にあるミラの顔を見つめていた。


「あの、佳夜君。そんなに見られてると照れるんだけど……」


 確かにミラの頬には朱がさしていた。


「ん、ああゴメン。起きてたんだ」

「うう、そんなにジッと見つめられてて寝れる訳がないよ~!」


 そう言ってミラは寝返りを打つ形で顔を背けた。


「悪い。ミラの顔に美月の面影が少し残ってる気がしてな」

「え、そうなの?」


 また寝返りを打ってこちらを向いたミラの顔をルナはジッと見つめる。


「ああ、黒髪黒目だし、顔立ちや目と鼻の配置も似てる。鼻の高さも似てるな」

「よく、そんな事覚えてるね」


 感心するようにミラは言う。もっともミラも自分では言わないが佳夜の顔を明確に思い出せるのだが。


「まあ、ミラの為に五年も頑張ったしな。生まれた頃は毎日ミラの夢を見てたよ」

「うわ、真顔で殺し文句だよ~」


 ミラは毛布に潜り込んで顔を隠した。

 今は耳まで真っ赤になっている気がしたからだ。


 少ししてようやく火照りが治まったミラは布団から顔を上げた。

 そこには、ニヤニヤしたルナの顔があった。


「うう、その笑顔殴りたい」

「暴力反対ですわー」

「棒読み止めい!」


 懐かしいノリにまた二人して笑い出す。


「それにしても、ここまで色々あったような無かった様な……」

「いや、色々あったよね」

「今日の襲撃以外に何かあったっけ?」


 ミラは思い出そうと唸る。


「うーん……あ!」


 そして何かを思いついた様だ。


「?」

「佳夜君が女の子になった」

「ぐはっ」


 気にしていた所を貫かれたルナのライフはかなり削られた。


「しかも美少女。鏡の前での決めポーズがすごく似合ってた」

「ごふっ」


 しかも、かなり恥ずかしいシーンを見られていた様だ。そしてルナのライフはレッドゾーンに突入した。


「もう、止め――」

「まあ、元々素質はあったと思うんだ。趣味が料理と裁縫と読書だし、舞台の為に作る服のセンスも良かったもんね。あのハーブティーとかも凝ってたよね。初めて飲んだ時に『あっ、コレ佳夜君の味だ』と思ってそこで確信したんだよね」


 ルナのライフはゼロになった。何かビクビクしてる。

 その状況を無視してミラはさらに話を続ける。


「あと、あの≪魔装≫だっけ?アレで作る服が完全に佳夜君の趣味と一致してたんだよね。歩き方も面影があったし、身に纏ってる雰囲気も佳夜君に似てたよ。顔に面影は無いけど行動に面影があったから気付けたんだ」


 頑張っていた演技も趣味の所為でバレていた。


「ホントに行動の一つ一つに女の子らしさが滲み出てるよね」


 ルナのライフはマイナスゾーンに突入した。


「もう、無理」


 そして、気絶した。

 今までの疲労がピークに達して限界を超えたのだ。文字通りの処理落ちである。


「あれ?佳夜君、聞いてる?おーい」


 ミラはルナの目の前で手を振る。

 無論、気絶しているルナの返事は無い。


「……」

「……」

「……寝たのかな?」


 ミラは何故か周囲をきょろきょろと挙動不審に見渡す。当然、私室であるミラとルナの部屋に他の人物の影は無い。どころか暗くて何も見えなかった。


「……いいよね」


 ミラは一人で何か自問自答した後、ルナの寝顔をじっと見つめた。


 そして――




――迷わず唇にキスをした。


「えへへ、佳夜君の初めて奪っちゃった」


 こうしてルナのファーストキスは当人の知らぬ間にミラに奪われたのだった。

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