第26話 虚飾の大罪者 3
メルフェ達から大体の必要な事柄を聞き終えた俺はと言うか、俺達はメルフェ達をこれからどうやって
「面倒だし普通に殺すか」
「うん、それでいいんじゃないかな」
二人して殺人に躊躇が無い。
いや、二人共、以前は持ち合わせていたのかもしれないが既に今はその考え方も変わってしまっているだけだ。
そう、二人は異世界と言う場所は命が日本にいた頃と比べて極端に軽い場所と理解しているのだ。だからこそ、後に不安要素を残すつもりは無い。
そうして、二人はあっさりと行動を起こす事に決めた。
「世界は凍る、世界は停まる、そして世界は崩壊する。
最下層の監獄に光は、熱は、届かない。
地獄の門を潜り抜け、監獄に沈むモノ共は未来永劫、光を、熱を、希望を、感じる事は出来ぬであろう。
獄に在り、その最下層に眠る監獄の名は――」
俺は詠唱を終える。
その頃には既に周囲は銀世界と化していた。まだ、魔法を発動してさえいないのにだ。
メルフェ達はそれを見て何か言いたげな顔をしていたが、俺はメルフェ達に何も言わせるつもりは無かった。
そして、俺は最後の終幕の言葉を紡ぐ。
「――≪
魔法が発動したその瞬間、メルフェ達はこの世から消失した。
◆ ◇ ◆
メルフェ達の処理を終えた俺は、この後の事柄を考えていた。
「さてと、とりあえず美月を家まで送るか?」
「え?佳夜君もう行っちゃうの!?」
俺の言葉に美月は驚いた顔をする。
「いや、だから家まで送るってだけで、どうせその後合流するんだから……」
「合流するってどういう事?」
「はぁ……もう俺の正体と言うべきか?まあ、俺が誰に転生したかは気が付いてたんだろ?」
俺の言葉に美月は別の意味で驚いた顔をした。どうやらバレていないと思っていたらしい。
実際、俺もついさっきまで気が付いてはいなかった訳だしな……
「佳夜君、気付いてたの!?」
「いや、まあ気付いたのはついさっきで、しかも≪虚飾の仮面≫――新しく手に入れたクラスのクラススキル――が発動しない事で偶々気づけたんだけどな」
「そっか、それでも……気づいてたんだ」
俺が新しく手に入れたクラス【虚飾の大罪者】は大罪者シリーズと言う世界で一人しか取得できない特殊クラスシリーズのうちの一つだ。大罪者シリーズには【暴食・色欲・強欲・憤怒・嫉妬・怠惰・傲慢】の七つが存在し、互いが互いにこの者は大罪者だと一目見ればわかる様になっているらしい。
さて、みんなが思っただろう。「あれ?【虚飾】は?何処に行ったの?」と。そう、七つの大罪に【虚飾】の罪は含まれないらしい。正確に言うと危険すぎて大罪者シリーズの中から追放されたのだとか……。理不尽な……
まあ、そこは置いておくとして……何故、取得できない筈の【虚飾の大罪者】を俺が取得できたのかはよく分かっていない。更に言うと確かに強いがそこまで危険視されるほどのモノでも、モノ、で、も……あ、あれ?使い方次第ではかなりえげつない能力かも知れない。
今、俺が使える【虚飾の大罪者】のスキルは二つだけしかない。
そして、その二つとは≪虚飾の仮面≫と≪虚構の現身≫の事だ。何れも説明が面倒なモノが多いので<管理神の祝福>を使った解析結果を表示する事にする。
≪虚飾の大罪者≫
・転生者専用クラス。
・元・大罪者シリーズ
・全てを欺き、騙し、化かす者。詐称や騙り、演技が得意。胸の内が読めない者が多い。
・敵味方全てを欺くその能力故に危険視され過去のクラス保持者は大罪者達の中から追放された。
・大罪者シリーズは前世の死因によりその役割が嵌められる。
・大罪保持者は他の大罪者を見極める事が出来る。逆に既に大罪者シリーズから外された【虚飾】を見極める事が出来る大罪者はいない。
現保持者:ルナルティア・ノートネス
保持者前世死因:理不尽な恨みにより
≪虚飾の仮面≫
・スキルレベル6
・【虚飾の大罪者】専用クラススキル
・保持者であるルナルティア・ノートネスに適合した形で発現したオリジナルスキル。
・演じたモノを再現できるスキル。スキルレベルが上がる事によって発動条件は緩和される。
・再現時のステータスは隠蔽対象と偽装対象の基礎ステータスを足して2で割った数値となる。スキル・固有能力は両対象の保持スキル・固有能力の使用が可能。重複スキルはレベルが高いモノが優先される。称号・加護は隠蔽対象が元々所持していたモノのみが発動される。
『発動条件』
・発動時に三つの対象を決める必要がある。
・まず最初に隠蔽対象を決める必要がある。しかし、現在は能力にロックが掛かっている為に『自分』以外を対象に選択する事は出来ない。
・次に効果の発動対象を選択する必要がある。効果の発動対象は600m内の意思を持つ存在の内一人が発動対象となる。発動対象に隠蔽対象の正体が発覚した時点でスキルの効果は無効化される。
・そして最後に偽装対象を選択する必要がある。偽装対象は1.合計20時間以上の肉体的接触、2.対象の魔力を対象の魔力最大値の1/10以上吸収または強奪する、3.偽装対象の本名を知る、の以上三つ全ての条件を満たしたモノから選択する事となる。例外として前世と現世の自身の姿だけは最初から偽装対象に選択できる。また、その場合ステータスは変化しない。
『現在対象』
隠蔽対象:ルナルティア・ノートネス
発動対象:ゴートン
偽装対象:水無月 佳夜
≪虚構の現身≫
・スキルレベル48
・【虚飾の大罪者】専用クラススキル
・保持者であるルナルティア・ノートネスに適合した形で発現したオリジナルスキル。
・虚構の存在を生み出すスキル。スキルレベルが上がる事によって発動条件は緩和される。
『発動条件』
・虚構の存在にはレベルと容姿、身体、思考、スキルの5つの項目がある。
・レベルは文字通り現身そのもののレベルと現身の持続時間を表し、容姿は現身を≪虚飾の仮面≫の偽装対象の容姿に似せる事が出来る。
身体は現身の身体能力を表しており、思考は現身に意思を持たせたり細かい指示を出せるようになる項目だ。また、魔法などの能力値は思考に振った数値に依存している。
そして、スキルは≪虚飾の仮面≫の偽装対象のスキルのうち数値分を指定して使用する事が可能になる。
・各項目の数値はレベルの数値分だけ他の項目に数値を振る事が出来る。逆に各項目の数値はレベルの数値分以上振る事は出来ない。
・項目に振る事が出来る数値上限はスキルレベルと同数。消費する魔力は数値×10の固定消費。数値は全て1につきレベル10相当。
(例)
・現身A=レベル1+身体1+思考1=キャパ3。
この場合、スキルレベル――48――から消費したキャパ――3――を引いて残りの割り振り数値残量は45、消費魔力は30となる。そして、現身Aはレベル10相当、ステータスレベル10相当の存在として設定されている。持続時間は10分。ここからさらに別の現身Bの作成も可能である。
長い。そして、見ての通り【虚飾の大罪者】の説明書きでは、かなり言いたい放題されている。詐称や語りが得意て……それに、いつ俺が味方まで欺いた!
……。
……いやさ、ミラに正体隠してたのも必要だと思ったからだし、フローリアお母様達に俺達が転生者だと話さないのは話して不気味がられるのが嫌なだけだし、≪詐欺術≫のスキルレベルが異様に高いのだってずっと赤ん坊の演技をし続けて来たからの筈だ。うん、その筈だ。間違いない。つまり、俺は悪くない!!
俺は改めて自分の行ってきた所業を思い出して開き直ったのだった。
ああ、そうそう。現在の発動対象のゴートンさんは街の外周部に店を構えているおじさんだ。全滅させるつもりだったので、頭上を通りすがった時に指定しておいたのだ。
「んじゃ、そろそろ行くか」
「うぇ!?」
俺は美月を持ち上げる。
その恰好は所謂お嬢様抱っこである。美月の反応にニヤニヤしながら、俺は街までの道のりを駆けた。
◆ ◇ ◆
「よっと」
貴賓街の路地裏に降りた俺は≪虚飾の仮面≫の偽装を解き、ミラを連れてゼノ達の元へ向かう。
既にゼノはリノスさん達と合流している様で三人で一か所に固まっていた。
「あー!やっと、見つけましたー」
俺は間延びした声で三人の元へと走り寄る。
「お、お嬢様!」
テーゼさんが俺……では無く、ミラを見て驚いた声を上げる。リノスさんは腕の怪我が酷く気絶している様だ。
テーゼさんはミラに近づいて周囲をくるくる回っている。反応がフローリアお母様と同じだ……。この世界の人達は怪我の心配をする時に周囲を何周も回るのだろうか……
俺がどうでも良い事を考えている間にテーゼさんのミラチェックが終わった様で、ホッとしたテーゼさんは道に座り込んでいた。
「あ、そうでした。我は彼の者に対して光の癒しを求める≪ハイヒール≫」
リノスさんに近づいてとりあえず簡単な治癒魔法を掛けた。コレで痛みはマシになるだろう。
流石に路上で部位欠損まで直せる治癒魔法を掛けるほど阿保では無い。後日、遠くから遠距離で治癒魔法を掛けるとしよう。神の奇跡か何かだと勘違いしてくれるだろう。
「水よ≪ウォーター≫」
リノスさんの頭の上に手をやって掌から水を出す。
「……」
……起きない。
「水よ≪ウォーターボール≫」
「ぶわぁ!?何すか!?襲撃ですか!?」
起きた様だ。
あと、襲撃はもう終わった。
その後、リノスさんを除いた他の三人と一緒にびしょ濡れになったリノスさんを笑った後に、俺が神殿を飛び出していった後どうなったかを一部虚偽を含んだ内容で話始めた。
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