第25話 虚飾の大罪者 2
「佳夜……君……?」
「ああ、久しぶりだな。美月。いや、今はミラって呼んだ方が良いのか?」
俺の姿を見たミラが驚愕を顔に張り付けて俺の顔を見上げる。
少ししてハッとしたミラは俺の質問への答えを返す。
「ううん。今は美月って呼んでほしい」
「……分かった。
――それじゃあ、こいつ等に制裁を下すか」
俺は≪
「おいおい、暗殺者。敵の前で固まるとか……お前等、それでも本職か?」
俺は挑発する様に、否、挑発そのものを小馬鹿にする笑いと共にメルフェ達に投げ掛けた。
「なにぉ、バカにしてぇくれてるのかしらぁ!」
案外簡単に挑発に乗ってくれたメルフェが両手に二本ずつ取り出したナイフを投げつけてくる。
「≪
俺のスキルが発動し、ぼやけた影の様なモノが俺の前に現れる。
そして、メルフェが投げた四本のナイフは影に突き刺さり止まった。それと同時に影は役目を終えてドロリと崩れ落ちた。
「≪虚構の現身≫」
俺の言葉に従い、再び影が生み出される。
その影は足元のナイフを二本拾い上げ、メルフェに切りかかった。
「邪魔ぁ!」
メルフェは影の鈍間な一撃を簡単に潜り抜け、影を横一線に切り裂く。
「隊長!避けて下さい!」
メルフェは部下のその一言を聞き、瞬時に横に跳んだ。
ほんの少し遅れて先程メルフェがいた場所を二本のナイフが通り抜けていた。メルフェから見て影が俺の体と被るのを見計らってナイフを拾い上げ投げつけたのだ。
「ちっ、余計な事を」
俺は思わず苛立たし気に余計な事を言った男を睨み付けた。
その瞬間、男はびくりと震えて崩れ落ちる。男が≪催眠術≫の発動範囲内に居た為、俺が≪催眠術≫と≪幻術≫のスキルの合成で四肢が八つ裂きになる幻覚を見せたからだ。≪
「気を付けろ!コイツ恐らく≪魔眼≫持ちだ!全員、目を合わせるな!」
「むっ」
メルフェの部下の一人が叫んだ。
推測は間違っているが、対処方は正しいという何ともやるせない叫びだ。
「聊か数が多くて面倒だな……一気に減らすか≪魔装:反射鏡≫、光よ≪
「何のつもりかしらぁ!」
俺は魔法陣の展開数を稼いでいる間、メルフェが投擲してくるナイフを全て≪無魔法≫で捌く。
≪閃光≫の魔法を発動してから約10秒、以前フローリアお母様に使った時は5秒だった為、そろそろいいだろう。
「――≪ショックウェーブ≫!」
かなりの量の魔力が持っていかれる。
だが、それに文句は無い。何故ならその魔法は消費した魔力に見合った威力を俺に見せつけたからだ。
――ドッ、ゴワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
次の瞬間、衝撃波が森を駆け抜けた。
大地が剥がれ、太々とした木々が空を舞う。
その魔法は中心に居た俺と美月を除いて周辺の全てを破壊した。
巻き込まれた襲撃者達などは木の葉の様に吹き飛んだ。
「うっわ、想像以上の威力」
「か、佳夜君?この規模の自然破壊はやり過ぎなんじゃないかな」
二人して若干及び腰である。
俺はビクビクしながらマップを確認する。周辺一帯――大体100m圏内――が荒野になっていた。生き残りは二人、メルフェと≪魔眼≫の警告をした男だ。
「コレで二人も生きてるとか……異世界、半端ないな」
「いや、この災害引き起こした佳夜君が言うのそれ?」
懐かしいノリに二人して噴き出す。
落ち着いた俺は、また≪虚構の現身≫を発動させ影を四体作り出した。
埋まっているメルフェ達を掘り出して色々と尋問する為だ。
「行って来い」
影の
「さてと、コレで――」
俺は大鎌を手放して咄嗟に美月の背後に飛び込む。
――ギャリリ!
「――ッ!危っな……」
白手袋で弾いた――正確に言うと白属性の属性特徴『反射』で斬撃を防いだ――短剣を見て思わず呟いた。本当に今のは危なかった。
防げたのは偶々で、いつの間にか美月の背後に回ったメルフェが美月目掛けて短剣を振り下ろしたのを偶然視界の端で捉えたからだ。
「なん――!?」
短剣を弾かれて胴ががら空きになったメルフェに俺は肉薄し、
「吹き飛べ!」
スキル≪格闘術≫の派生技術である≪掌波≫を放った。
≪掌波≫は発勁の様な技術で、体内に衝撃を通す技術だ。元々、薄い服を着ているメルフェには余り意味が無い効果だが、俺の目的は≪掌波≫のもう一つの効果である強烈なノックバックだ。
更に言うと俺の≪掌波≫は自分の側へ帰って来る筈の衝撃まで白手袋で反射している為、通常より威力が高い。
結果、メルフェは盛大に宙を飛んだ。
40m程も吹き飛び、≪ショックウェーブ≫で凪倒された木の残骸に勢いよく背中から突っ込む。
「ふぅ、今のは
≪虚構の現身≫でメルフェを連れて来させる為に位置を確認した時には間違いなく残骸の下にいたのだ。
「佳夜君、今の何?」
「いや、俺にもよく分からない」
「……そうじゃなくて、アレを吹き飛ばした技の事なんだけど」
美月はアレと言って残骸の上で倒れているメルフェを指さす。酷い言い草だな……いや、まあ美月を襲ったんだしアレで良いか。
「ああ、今のは≪掌波≫って言って――」
俺は美月に≪掌波≫の説明をしながら、改めて≪虚構の現身≫を発動させる。先程と同様にメルフェともう一人の生き残りを尋問する為だ。
「よし、連れて来たか」
影が連れて来たメルフェともう一人は気絶している様で体に力が入っていなかった。まあ、そっちの方が都合がいい。
俺は二人を≪黒鎖≫で縛り上げてから<管理神の祝福>を使い、二人が確実に気絶しているのを確認する。よし、問題無い。
「美月、悪いけど耳を塞いでてくれるか?」
「? えっと、うん。分かった」
俺は二人の耳元に近づくと刷り込む様に一定の抑揚のない声で同じ言葉を呟く。
「―――、―――――――――。―――、――……」
人には聴き取り難い声で繰り返すのは≪黒魔法≫と≪催眠術≫を使った洗脳の文言だ。
「……――。死を呼び戻すは我が言霊。汝らの魂は我と獄に縛られる。汝ら我に隷属せよ」
長い呪文が終わると同時に俺は手を鳴らした。
――パーーン!
「うぐっ……」
「うぅん……」
俺が手を叩く音を聞いてメルフェの部下とメルフェ本人が目を覚ます。
「目が覚めたか?」
「――っ!お前は!」
「なぁにぃ……煩いわねぇ……」
部下の反応は早いがメルフェは眠たそうにしている。……こいつ今の状況分かってるのか?
「まあ、いいy……いいか。とりあえず、誰に命令されたのか吐け」
「言う訳が――ボスだ」
「ボスよぉ」
うん、二人共しっかりと≪隷属化≫の魔法が掛かっているらしい。
「ボスの本名は?あと、誰に依頼されたのかいえ」
「何方も、知ら、ない」
部下の方は≪従属化≫の魔法に抗おうとしているが、無理に抗っても≪幻肢痛≫が発動するだけで意味が無い。
「ボスの名前はドランよぉ。依頼主はぁ知らないわぁ」
「ちっ、使えないな」
「ねぇ、佳夜君。いつまで耳を塞いでおけばいいの?」
「あ」
後ろを向くと耳を塞いだ美月がこちらをジト目で睨んでいた。
「もう良いぞ」
「?」
しっかりと耳を塞いでいる様で何と言ったか分からなかったらしい。俺は耳から手を放すようにジェスチャーで伝える。今度は無事に伝わった。
「ねぇ、コレ取――」
「勝手に喋るな。お前達は俺の聞いた事にだけ答えろ」
メルフェが何かを言おうとしたが、強制的に口を封じる。
すると、無理矢理≪黒鎖≫から抜け出そうと暴れ出した。
「はぁ……暴れるな」
「むぐぅ!?」
言いつけを破り暴れようとした事で≪幻肢痛≫が発動した様だ。
「さてと、次は――」
俺は聞くべき事のリストアップを脳内で始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます