第4話 私は、何も、見なかった


 あの後、俺のささやかな歓迎会が行われた。途中からお姉様が参加して一気に賑やかになった気もするがそこは突っ込まないでおく。

 その歓迎会はなんと夜中の9時まで続いていた。いや、まあ楽しかったんだけどね。

 っで、今の俺の状態はと言うと……


「うぷっ……」


 もろに二日酔い状態だった。

 おいこら!七歳児に酒飲ました阿保はどいつだ!

 あの、阿保姉レーネ馬鹿兄貴ヴァンか!リステルお兄様が介抱してくれてなかったら部屋にさえ戻れなかったぞ!


「あー、クソ。光よ≪キュア≫」


 ふう、スッキリした。これで完全に酒精は抜けたかな?

 一応、法律で禁止されてないと言っても酒瓶二本分は多すぎだ。流石にあの量は酔う。切実に≪毒耐性≫または≪酒精耐性≫のスキルが欲しいです。


 俺は早速、痛む頭を振りながら着替えを始める。

 ああ、そう言えば昨日通された部屋は俺の部屋という事で確定しているらしい。やったね、これで好き放題改造できるぜ!

 ちなみに両隣の部屋には誰もいない。最高の立地?である。


「ええっと、ただ今の時間は……6時ですか。さてと、使用人の誰かが呼びに来るまでまだ時間があるだろうし……あの結界に手を着けますかね?」


 俺はチラリと昨日は入れなかった部屋の扉を見る。


「じゃ、早速<管理神の祝福>発動っと」



<隠蔽結界>

・対象を隠蔽する黒属性の結界。結界魔法と儀式魔法が使用されている。現在は工房の扉を隠蔽中。

対象:封印された工房の扉

魔法威力:10

魔法強度:14

魔法難度:7

発動対象:精神力12以下の存在

無効化対象:資格保持者

使用者:ヘルネス・K・イーヴェル・レストノア、その他。


<封印結界>

・対象を封印する白属性の結界。結界魔法と儀式魔法が使用されている。現在は工房を封印中。

対象:工房

魔法威力:5

魔法強度:20

魔法難度:10

発動対象:工房の扉

無効化対象:資格保持者

使用者:ヘルネス・K・イーヴェル・レストノア、その他。


<警報結界>

・使用者に侵入者を知らせる風魔法の結界。分類上は結界魔法に分類される。現在は工房を監視中。

対象:工房

魔法威力:1

魔法強度:5

魔法難度:3

発動対象:使用者

無効化対象:資格保持者

使用者:ヘルネス・K・イーヴェル・レストノア


<排除結界>

・無効化対象以外を排除する次元属性の結界。結界魔法と儀式魔法が使用されている。現在は工房の周囲一帯を排除対象に指定している。

対象:工房

魔法威力:21

魔法強度:15

発動難度:13

発動対象:工房侵入者

無効化対象:資格保持者

使用者:ヘルネス・K・イーヴェル・レストノア、その他。



 魔法威力、魔法強度、発動難度は魔法関連のモノを鑑定した時にのみ表示される限定表示だ。

 まず、魔法威力が文字通り魔法の威力だ。攻撃力と言い換えても良い。

 魔法威力21だと無効化に必要なMIND値は大体21000以上になる。最近、<ステータス>の表示を弄ったので今はMINDでは無く精神力の表示だが今その件は置いておく事にする。

 次に魔法強度だが、これも文字通りで魔法の硬さだ。その魔法の破壊または無効化時に上回らなければいけない防御力だと思えば分かり易いと思う。

 そして最後に魔法難度だが、これはアイテムのレア度と同じ様なモノだと思って貰えればいい。つまりは、難度3の≪警報結界≫が一般的な魔法で、難度7の≪隠蔽結界≫が非情に珍しい魔法。難度10の≪封印結界≫が伝説に出てくるような魔法で、難度13の≪排除結界≫に至っては神話に出てくるような魔法と言う事だ。



――さてと。



 ……あれ~?なんかコレ思ったよりヤバそうな結界なんですけど。

 もしかしてコレ屋敷の人達全員、気付いてない?しかも使用者のヘルネス・K・イーヴェル・レストノアって……現国王なんですけどぉぉおお!?


「ヤベぇ、どうしよコレ。思ってたのと違う意味で色々ヤバいんですけど」


 ……とりま放置で。

 また今度、余裕がある時に調べていきましょう。

 確か君子危うきに近寄らずって奴だ。……あれ、合ってたっけ?うん、多分あってた筈。

 よし、俺ハ結界ナンテ見テナイヨ!



      ◆  ◇  ◆



 メイドさん――名前は知らない――に呼ばれて食堂に向かうと、そこには優雅に佇んでいるリステルお兄様とレーネお姉様がいた。


「おはようございます。リステルお兄様、レーネお姉様」


「ああ、うん、おはよう」


「おはよー!」


 落ち着いた返事を返したのがリステルお兄様で、明るい返事を返したのがレーネお姉様だ。

 私はとりあえず、リステルお兄様の横に座る。あ、今日は昨日座ってた席じゃないんだ。あの並び結構好きだったんだけどなー。


「お兄様達は今日、学校でしたか?」


「うん、そうだね」


「うう、カワイイ妹と離れたくないよー」


「レーネお姉様、まだ酔ってますか?≪キュア≫掛けましょうか?」


「酔ってないです!」


 ちなみに学校は基本週五日で、土・日が休みだ。昨日は日曜である。


「それで、ルナは今日如何過ごそうと思ってるんだい?」


「そうですね……」


 ふむ、俺は如何するか。

 次にミラに会う時の為に何かお土産?プレゼント?まあ、どっちでもいいか。とにかくそういうのを何か用意しておきたいからそれ関係でいろいろ見て回るかな?

 あとは、ギルド行ったり、食材見たり、調べモノしたりかな?早目に調べておきたい事もあるしね。

 あとは、あとは……


「折角、王都に来たので観光を少しと、後は制服を仕立屋さんに注文しに行こうかと思ってます」


「注文?呼べば来てくれるのにかい?」


「はい。まあ、ついでなのですけどね?少し製作現場が見たいんです」


「へー、ルナは変わったモノに興味があるんだね」


「裁縫が趣味の一つですから。あまり高度なモノは出来ませんが少しなら魔法陣の刺繍も出来ますよ」


「うんうん、凄いね。立派なお嫁さんになりそうだ」


 あはははー、お嫁さんとか無いわぁ。

 俺は思わず苦笑いしそうになるのを堪えて話を続ける。


 それにしても、ヴァンお兄様遅いな。

 深酒しすぎて酷い二日酔い状態だったりするのかな。

 それとも、ただの寝坊か?


「それにしても、ヴァンお兄様遅いですね」


「そうだね。いつもなら、もうそろそろ来てもおかしくない時間なのだけれどね?」


 壁に架かった時計を見ながらリステルお兄様が言う。

 今の時刻は……7時12分か。確か登校時間が9時だった筈だ。何時に出れば学校に間に合うんだろう。ここも、確認しておかないとな。

 そんな事を考えながらレーネお姉様の方を向くと膨れたレーネお姉様がいた。


「えっと、レーネお姉様?」


「如何したのルナちゃん?」


「何か怒ってません?」


「ルナちゃんが私を無視してお兄様とばっかり話してるからって怒ってなんかないもん!」


 もんって……お姉様もう14歳ですよね?そのような年は終わってると思うのですが……

 うん、まあ年の事に突っ込むと不毛な争いに発展しかねないし置いておこう。俺なんて前世の年齢を合わせたら17+7で24歳だしな。ミラなんて……何故だろう、これ以上考えるのは不味い気がする。

――!?俺の察知系が途轍もない危険を知らせている。マズい、コレは不味い。まずい拙いマズ過ぎる。だ、大丈夫、俺は年上好きですよ?ですのでミラさんマジで落ち着いて下さい!


 ……。


 ほぅっ、栗立った肌が徐々に落ち着いて来たのを感じて思わず溜息を吐きそうになった。


「えっと、ルナちゃん顔が真っ青だけど大丈夫?」


「はい、大丈夫です。私は寝込みやすいのでその影響かも知れません」


「そうなんだ。まあ、それならいいんだけど……」


 落ち着いたがこの話題は拙い。

 すぐに話題を変えないと。何か……ああ、そう言えば。


「そう言えばお姉様。ココから学校までってどのくらいかかるモノなのですか?」


「うーんと、一時間くらいかな?」


「成程、一時間ですか……」


 一時間か。

 制服を着るのに五分。色々な仕度をするのに十分。余裕をもって十五分で合計三十分前に準備を始めれば問題ないかな?ああ、教室に向かったりの移動を十分ぐらいと考えてそれも合わせると四十分前の方がいいかな?

 ってアレ?それだと7時20分には準備を始めないといけない筈なんだけど……

 俺はチラリと二人を見る。急いでいる様子は特にない。


「ルナ、準備なんかの諸々を含めて一時間なんだよ」


 悩んでいるとリステルお兄様が説明してくれた。なら、普通に十五分前行動で7時45分に準備を始めればいいのか。

 まあ、当分の間、色々勝手が分からない時はレーネお姉様に頼るかな?

 お姉様なら優しく教えてくれそうだし、ね?

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