第5話 街へ行こう!王都編 1


 朝食は卵サラダにコーンポタージュ、フランスパンに似たパンの三つだった。

 少し品目が少なく感じられたが、ルナはそこまで大喰らいではないので、十分にそれでお腹一杯になった。リステルもレーネも何も言わなかった事からこれが平時の朝なのだろうと何となく理解できた。


 ルナが朝食を完食した辺りで遅れてヴァンがやって来た。

 大欠伸をしていた様子からまだ目が覚めて間もないのが見て取れる。


「ふぅ、ご馳走様。今日も美味しかったよ」


「ありがとうございます。リステル様」


 ふと、声が聞こえたのでそちらを向くと、リステルがこの料理を作ったであろうコックに賛辞を送っていた。気配りの出来る兄にルナが感心していると、今度は横からドガッと雑な椅子の座り方をしたのが丸分かりな音が聞こえて来た。

 ルナがそちらを向くと予想通りもう片方の兄が座っていた。

 同じ兄でありながらこの差は一体何なのだろうとルナは思う。


 その後、少しの間ヴァンを見るルナの瞳には憐みの色が浮かんでいたんだとか。もっとも、図太いヴァンはそんな事を思われているなどとは欠片も気付かなかったのだが……

 それを見たルナの憐みが更に強くなったのは言うまでも無い。まあ、半分は冗談だったのが一割冗談に変わっただけだ。


 結局、その日の朝食は特に騒がしく成る事も無く静かに幕を閉じた。

 食後が少し慌ただしかった点を見るに、今日は朝食の時間がいつもより食べ始めが遅かったのかもしれない。会話が少なかったのは食べるのを優先したからだろう。

 ただ、もう少し三人と話をしたかったなと思わないでもないルナであった。



     ◆  ◇  ◆



 朝食後、早速ルナは街に出ていた。

 今日は護衛兼監視の三人はいない。ルナが撒いた訳でもなく唯本当に居ないのだ。

 完全な自由行動である。何度か探査を掛けてみたのでそれは間違いない。確実について来ている人物はいないと言い切れる。


 さて、では何故そのような事になったかと言うと、単純にフローリアが許可を出したからだ。普通なら母親が認めたくらいで外出の許可が出る筈も無いのだが、フローリアの場合だけは違った。

 ルナは知らないが結婚する前のフローリアは王国の騎士だった。それもかなり階級が高い身の上だったのだ。そのフローリアの武勇は近隣諸国にも轟くほどのモノだ。当然、その容姿も相まって騎士団内では非常に人気が高く、結婚で騎士団を退職する事になった際は非常に騎士団内が荒れた。まあ、それは置いておくとして。


 そんな訳で、そのフローリアが一人での外出を認めたと言うのはルナが既に一人前であるという証でもあった。

 だからこそ、各方面からの反論はあったものの、今こうして一人で出歩く事が出来ている訳だ。

 ルナとしては非常に幸先良い新生活のスタートである。


 観光がてらぶらぶらと街中を見ながら歩いていると何度か気になるモノが目に入って来ていた。

 それは、学校へ向かう学生――では無く、その学生の持つ魔道具だ。

 黒色もあればピンク色もあり銀色なんかもある。ではそれがいったい何故気になったのかと言うと。


「携帯?」


 そう、少し形状が違うが見た目はまんま携帯だった。電話とかメールとかするアレである。

 基本所持しているのは学生なので、恐らく学校に関連するものなのだろう。魔法学園の生徒以外にも騎士学校や軍学校、冒険者学校の生徒も手にしている為、魔法学園専用の魔道具ではないと思われた。

 ルナとしては非常にその内容が気になる所なので、帰ったら是が非でもレーネお姉様に見せて貰おうと意気込んでいた。

 ちなみに<管理神の祝福>で解析を掛けた結果がこちらである。



<魔導携帯(端末機)>

・稀代の発明家ベリオームが作り上げた伝説級魔道具の端末機。異界の知識を基に作られている。

・登録者に合った変化を遂げる。

・貯まったポイントは商品と交換が可能。

・草原に吹く風をモチーフにした絵柄が特徴的。

・権限レベル:3

・所持ポイント:1,312

・経験値:912

レア度:4

品質:C

所有者:グーノ・フォーカス



 この端末の面白い所は人によって幾つか表示が変化する所だ。

 先程解析した端末は初等部の子が持っていた物で次のモノは高等部の生徒が使用していた物だ。



<魔導携帯(端末機)>

・稀代の発明家ベリオームが作り上げた伝説級魔道具の端末機。異界の知識を基に作られている。

・登録者に合った変化を遂げる。

・貯まったポイントは商品と交換が可能。

・燃え盛る炎と剣の絵が描かれている。

・権限レベル:8

・所持ポイント:4,724

・経験値:7,940

レア度:6

品質:C

所有者:メリダ・エージェス



 レア度まで変わっていたのには素直に驚愕した。

 まさかこんなに身近な場所に成長する魔道具があったとは驚きである。手に入れた暁には是非技術を盗ませて貰おうと決心したルナであった。


 魔導携帯を気にするのも良いが、折角なので今は観光に意識を戻そうと思ったルナはまた周囲を観察する所から始めた。

 だが……


「基本伯爵領と似たり寄ったりで目ぼしいモノが無い!?」


 マップ機能があるので迷子になる事はありえないし、魔法的な観点から見た装備は重装備だ。怪我など負う事は粗あり得ない。

 結論、何が言いたいかと言うと「つまらん」それに尽きた。


 目ぼしいモノが見当たらないという状況は案外面白みがない様だ。この様子だと最初の予定通り趣味関連のお店を回る方がいいかもしれない。

 ルナはそう考えて早速向かうお店のピックアップを始めたのだった。


 その後、いろいろと悩んだ結果まずは制服の採寸をしに行く事に決めた。他のお店はまず制服を作ってくれるお店の人におススメの場所を聞いてみて近そうな所を回って行く事にした。


 ただ、鮮度的な観点から料理の素材は早めに買っておきたいと考えている。買ったらすぐに【カミルミ】の自宅にある冷蔵庫にポイっと放り込む予定だ。


「それじゃあ、向かうかな」



     ◆ ◇ ◆



「迷った……」


 迷う事は無いだろうと思った数分前の自分を殴りたい。

 正確に言うと迷ったは間違いだ。帰ろうと思えば帰り道は分かる。だが俺が言いたいのはそうでは無くて、


「服屋どこだよ……」


 そう、服屋の場所を忘れたのだった。


「はあ、とりあえず大通りに戻るかな……。ココ等辺あんま治安良さそうじゃないしな」


 おれはUターンして元の通りに戻ろうとする。

 だが、その行動は少し遅かった様だ。


 にやにやした男が俺の前に立ち塞がった。


「すみません。邪魔ですから退いて下さい」


「あ゛?何言ってんのお前。状況分かってる?」


 あー、めんどくさい。どうしよコレ。

 処分・・するには人目が多すぎるし、適当にボコボコにしても良いけど変に学校で噂になるのもなぁ……


 うーむ。


 あ。いい案って程でもないけど悪くは無いかな?

 てな訳で、早速――

 

「やっちゃえ!バー○ーカー!!」


 俺の声に合わせて影から人型が飛び出てくる。

 予想は付くと思うが出て来た人型と言うのは≪虚構の現身≫で作った俺のコピーだ。レベルを10、身体ステータスを10、スキルを2、思考を5で構成している。そこそこ消費が激しいが、俺の無駄に膨大な魔力な前では微々たるものに過ぎない。


「手始めに≪狂歌乱舞≫!」


 俺のユニークスキル≪狂歌乱舞≫。

 ユニークスキル自体は11月のあの事件の後、目が覚めステータスを確認した時に幾つか追加されているのに気がついた。

 そしてその中の一つがこの≪狂歌乱舞≫だ。細かい事をほっぽって効果を説明すると、無効化不可の状態異常を付与し、代わりに身体能力を激増させるというモノだ。

 そして、その無効化不可の状態異常と言うのがスキル名に出て来る通り、精神を狂わせる状態異常『狂化』だ。それもかなり効果の重い奴。MINDの値が10万オーバーの俺には殆ど効果が無いが一般人に使えば即廃人コースの代物である。マジで物騒だ気を付けよう。



 ……やっぱ面倒なんでこいつらに≪狂歌乱舞≫使っちゃダメですかね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る