第6話 街へ行こう!王都編 2


「≪狂歌乱舞≫」


 ルナのその言葉を切っ掛けに影が男たち目掛けて突貫する。

 影はまず手始めに一番近くにいた男の顔面に拳の一撃を見舞う。ドゴッと言う効果音と共に男が吹き飛ばされるのを後目に、影は背後から迫っていた攻撃に対して半身をずらす事で対応する。

 そして影はそのままの動きで裏拳を放ち不意打ちをしたチンピラの一人の顎を打ち抜いて気絶させた。これで残りは四人だ。

 

 残りの四人は影を取り囲む様に陣を組む。

 ……一人ぐらいルナを気にしていた方が良いと思うのだが誰も気を配る気配はない。あまりのお粗末さにルナは敵の事ながらに頭が痛くなってきた。


「はぁ……≪ウォーターボール≫」


 ルナは頭を押さえながら水の球を一つ作り出して手近なチンピラ目掛けて放った。


「冷っ、ハベシッ!」


 結果、水球はチンピラの無防備な後頭部に直撃する。

 そして、隙だらけになった所で影が蹴りを放ってノックダウンさせた。残り三人。


「なっ……てめえ!――っふべ!」


 ≪ウォーターボール≫を使って隙を作り出した俺に食って掛かろうとしたアホ一名が、影に踵落としを喰らって沈んだ。残り二人。


「くっ、くそっ」


「おい、ずらかるぞ!」


 ここに至ってようやく勝てない相手に挑んだと気付いたチンピラ二名が仲間を置いて逃亡を図ろうとするが時既に遅し。


「はぁ……逃がす訳無いじゃないですか……」


――ジャラリ


 いつの間にか二人の足首に巻き付いていた黒い足枷が二人の逃亡を阻害する。

 当然この足枷はルナが≪魔装≫で作り出したモノだ。黒、つまりは強奪の特性を有しており。


「あ……あぁ……」


「う……」


 体力、魔力共にルナに危険域ギリギリまで吸われた二人は一瞬で失速し地面に這いつくばる羽目になる。残り零名。状況終了である。


「……全く歯ごたえ無かったな」


「き、君大丈夫なのかい?」


 今頃話しかけて来た野次馬の一人にルナは微笑みを浮かべて「大丈夫です」と返す。

 ただ、その表情は笑っていてもその目は笑っていなかった。あくまで伯爵令嬢として相応しい態度――つい先ほどの揉め事の件については突っ込んではいけない――を取っただけで、大男達に襲われそうになっている女の子を見かけて衛兵も呼びにいかないような人達に必要以上の愛想を振りまく必要はないと内心では思っていた。


 ルナ自身、揉め事が起こっていても大半はスルーするだろう。だが流石に小さな女の子が攫われそうになっているのを黙って見ている事は無いと言い切れる。要は何が言いたいかと言うと、こいつ等は気に入らないただそれだけの単純な話である。


 人間の好き嫌い何て所詮個人の主観問題だ。他人にどうこう言うつもりも無ければ、逆に他人にどうこう言われる筋合いも無いとルナ自身は思っている。

 だからこそ、ルナは野次馬共に何かを言う事は無いし、野次馬たちに何か言われた所で気にするつもりも無かった。


 ルナが適当に野次馬をあしらっている間に影が男達の後始末を終える。

 もっとも、後始末と言っても殺してポイッでは無く、精々邪魔にならない様に路地裏に捨てポイッしたぐらいだ。


「さてと、後始末も終わったようですし、そろそろ移動するとしましょうか」


 パンパンとコートに着いた埃を払ってルナは再度移動を開始する。

 うざったそうな野次馬は闇属性の隠蔽を利用して撒いた。ついでにこれからの移動中は常に隠蔽を低効果で張り続ける事に決めた。

 低効果なのは、効果を強くし過ぎると向かいから来る人に気付いて貰えずぶつかってしまうからである。本気を出せばぶつかった事にさえ気づかないレベルの効果が出せるが、体格が小さいルナの場合、確実に押し負けるて転がった所に追撃が加えられる未来しか見えないので、人通りの多い道ではおいそれと高効果の隠蔽を使えなかったりする。効果が弱すぎても、強すぎてもダメとは……地味に不便な能力である。


 ルナがもういっその事、屋根伝いに移動しようかなと思い始めた所で目的の服屋に着いた。服屋の外観は案外こぢんまりした店である。


「本当にココであってるのか、な?」


 思わず素が出かけたが、それ程にその店は他店と変わり映えしないお店なのだ。ルナが思わず口に出したようにココであっているのか本気で心配になるレベルの地味さだ。

 少しだけ扉を開けて中を覗いて見ても特に変わった所は無い。


 ルナは小声ですみませーんと言いながら中に入る。そのこそこそしている様子は如何にも怪しかったがまだ子供という事で誰の気にも止められなかった。


「誰もいない……」


 待合用の椅子があったのでルナはそこに座って店番の人が来るのを待つ事にした。


……


…………


………………


「誰も来ねぇ……」


 ルナはあまりの暇さに、はぁ……と溜息を吐く。

 その後、大きく息を吸い。


「す~……すみません何方かいらっしゃいませんかーーー!!」


 あまり行儀の良い行動ではないがこの場合は致し方ないだろう。と言うか店番一人いないとは不用心すぎる。


「んぁー?はいはい、何方ですか――ッ!」


 寝癖だらけの髪の気で奥から出て来た女性はルナを見て固まった。

 それを見てルナは非常に嫌な予感を覚える。

――そう、コレは、まるで、


「きゃーーー!!カワイイ、可愛い、かわいいぃぃいいい!!」


 昨日のレーネお姉様と同じ表情じゃないか!?――と。

 そして、絶叫に続く行動である抱き着き突進を予測したルナは、椅子から飛び降りて瞬時に回避行動を取った。


――ドッ!ガランガッシャーン!!……コン。


 ルナが回避した結果、女性は椅子と商品に激突し大崩落が巻き起こる。


「うわぁぁ……」


 それを見たルナの感想がコレであった。半分は自分の巻き起こした事なのに何とも他人行儀な感想である。余談だが最後に地味に落ちて来た機材が頭に当たって痛そうだったと付け加えておく。


……つんつん


「あの、生きてますか?」


 商品の山から辛うじて出ていた部分である足をつつきながらルナは質問する。


「あうぅ、だ、大丈夫です」


 どうやら無事だった様だ。

 もぞもぞと女性が這い出て来るのを見ながら、ルナは少し埃っぽくなった店の換気をする為に扉と窓を開ける。


「はぁ……全く。初対面の人に飛び掛かるとかレーネお姉様もこの人も何考えてんのかな」


 二日続けての惨事に思わず毒舌になるルナであった。



     ◆  ◇  ◆



「こほん。改めましてリノ・スフィアです」


 居住まいを正して自己紹介する女性に俺は白い目を向ける。


「うぅ、そんな目で見ないで下さいぃ」


 あの後、片付けを手伝わされた身にもなって欲しい。俺、何も悪い事してないよね?


「対価を要求します」


「うっ」


「はぁ……まあいいです。改めましてルナルティア・ノートネスです。よろしくお願いしますね。

 それで、そろそろこのお店に来た用を済ませようと思うのですが、一応聞いておきますが制服の採寸を行っているのはココであっていますよね?」


「あっ、ハイ。ココであってます!」


 話題が逸らせれて嬉しかったのか笑顔になる女性――スフィアさん。分かり易いな……


「それでは、採寸をお願いします。別室に移動した方がいいですか?」


「あ、はい。こちらです」


 スフィアさんに連れられて店の奥に移動する。

 幾つかある部屋の中の一つに入れられ少し待たされる。

 少しして戻って来たスフィアさんの手の中にはメジャーなどの採寸に使うと思われる道具があった。


「お待たせしましたー!それじゃあ図りますね。あ、服脱いでもらっても良いですか?」


 指示に従って俺は上の服を脱ぎ捨てる。


「ぐへへ……へぶっ」


 スフィアさんの何となくミラを連想させる反応にチョップをかます。


「早く終わらせて下さい」


「うぅ、分かりましたー……」


 非常に残念そうな声を出すスフィアさんを意図的に無視して早く採寸を終わらせて貰う。


「はい、これでお終いです」


「やっと、終わりましたか……。はぁ、地味に疲れました」


「あんまり溜息ばかりついていると幸せが逃げますよ?」


 余計なお世話ですという意を込めた視線でスフィアさんを睨み付けるとすぐにシュンとなった。

 コレはまた面倒な人と知り合ったなと思うと俺は、また意図せず溜息を吐いてしまったのだった。

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