第7話 街へ行こう!王都編 3


 体を解す為に柔軟運動をしている時に俺はココに来たもう一つ、いや、もう二つの目的を思い出した。


「あ、そう言えばスフィアさん。おススメの食事処ってありますか?折角なのでそこで昼食を取ろうかと思うのですが。あと、布と毛糸見せて下さいませんか?」


「え?食事処と布?」


「毛糸も忘れないで下さいね?」


「……えっと、何に使うつもりなの?」


 ……?ああ、こんななり――如何にもお嬢様風な厚着を着た見た目――で裁縫をするとは思われないか。裁縫は慣れていないと指刺す人もいるだろうし。

 セリルお母様とかは難なくこなしそうだけど、フローリアお母様は刺すのが目に見える様な……いや、偏見はよくないな。


「裁縫に使うんですよ?(ニッコリ)」


「あ、ハイ」


 少し圧を込めた笑顔を向けると逃げる様にスフィアさんは商品を取りに行った。


 少しして。


「こ、こちらが商品になります!」


「ふむ……。あれ?これ、もしかしてシルク?」


「へ?あ、はい。そうです」


 シルクか……。まさかこんな所であっさりと見つけられるとは。伯爵領の布地屋さんは全部回ったけど何処にも置いてなかったんだよね。


「あの、これってどの位あります?」


「ええっと、ちょっと待ってくださいね」


 また別室に走って行くスフィアさん。一々大変と言うか面倒だな……。


「カタログみたいなモノってないんですか?」


「かたろぐ?ですか?」


 ……ああ、こっちカタログってないのね。

 こういう時、地味に不便だよなぁ。中途半端に転生者か転移者が伝えたと思われる異世界の技術や知識が混じってるから困り物だわあ。


「じゃあ、メニューはありますか?」


「えっと、ごめんなさい。メニューは作って無いです……」


 ふむ、やっぱりメニューと言えば伝わるのか。メニューは食事処で何回も見てるし、こっちにもあるのは確実だからな。


「ふーん、そうですか……。

 それで、シルクの在庫ってどの位ありました?」


「えっと、それと同じ大きさの物が二つとそれの両辺を10㎝ずつ大きくしたものが四つありました。あと、縦200、横100の物が一つ……ですね」


 今手に持っている布が大体縦75横60くらいだから……


「では、コレを二つと少し大きくしたものを一つ。あと、最後に出た大きいのを一つ貰えますか?」


「はい!あ、でも、かなりのお値段になると思うのですけど……。お金って……」


 金か。幾らくらいあったかな?

 俺は視線でウィンドウを操作し≪ステータス≫の所持金を表示する。


 ……2,815,700エルか。結構あるな。

 ちなみにこのお金。【カミルミ】で作ったものを佳夜の姿で色々と街へ売りに行っていたら自然と貯まった金額だ。土地位なら買えるかな?


「お金は多分大丈夫です。スフィアさんが阿漕な値段設定をしない限りはですけどね?」


「はは、大丈夫ですよ。そこは。

 コレでもそこそこ信頼されてるお店ですからね。具体的には学園の制服作成を任されるくらいには信頼されてます」


 胸を張って言うスフィアさん。無い胸がさらに強調されて少し可哀想な気分になった。

 まあ、それは置いといて。


「それで幾らくらいになりますか?」


「うーん、これくらいでしょうか?」


 そう言ってスフィアさんは紙に数式を書き出す。



  96,400×2

――――――

 192,800

+324,500

――――――

 517,300エル



 うーん、やっぱ結構するな……


「糸も買うので少し安くできませんか?」


「うっ、コレでも結構ギリギリで――」


「あー、さっき飛び掛かられた時に挫いた足が痛いですー」


「分かりました!五万エル負けるので不敬罪は勘弁してください!あと、糸も買って下さい!」


 身代わり早!

 あと、さり気無く、さり気無く?まあいいや、最後に願望入ったな。

 いや、まあ、買うけどさ。


「それじゃあ、色々見せて貰えますか?出来れば普通の物とは別に少し特殊な糸も見たいです」


「はい、分かりました!急いで取ってきますね!」


 スフィアさんは颯爽と走り去っていった。いや、一々走らなくても……。

 ……暇だな。ティーセットでも広げて待つか。


 十分後。


「はぁはぁ、も、持ってきました」


「お疲れ様です。あ、紅茶飲みます?」


「はぃ……頂きます……って何処から持って来たんですかコレ!?」


「私、≪アイテムボックス≫のスキル持ってますから」


「え!?」


 まあ、驚くわな。確か獲得出来る確率は一万人に一人だっけ?

 ちなみに本当はそのようなスキルは持っていない。<管理神の加護>の≪インベントリ≫機能を≪アイテムボックス≫と偽っているだけだ。実際の俺の初期スキルは<管理神の書斎>で培ったモノを除けば属性魔法のみだ。まあ、三属性でも十分な才能らしいんだけどね。


「そんな事よりも、どうぞ。自家製なのでお口に合うかは分かりませんけどね?」


「えぇ……そんな事って……。あ、美味しい」


 ふう、気に入って貰えたようで何よりだ。いつも他人に自家製の何かを出すときは緊張するなぁ……

 ……ヤバい、思考がホントに年寄りのそれになって来てるな。なんか普通に凹むわぁ……


「はぁ……」


「え!?いきなりどうしたの!?」


「いえ、何と言うか私って年寄り臭いなって思っただけです……」


「何処が!?」


 スフィアさんが華麗にツッコミを入れてくれるが正直、相手にするのも面倒なくらいに憂鬱だった。確かに見た目は幼女かもしれないが精神年齢は17+7で24歳それに<管理神の書斎>での五年を足して30歳くらいか。いや、でも二年間眠ってたから28くらいかな?

 うん、まあそれくらいならまだおばあちゃんおじいちゃんじゃない……と思いたい。


「いえ、趣味が料理、裁縫、ガーデニング、魔法開発ですから……」


「あっちゃ~。確かにそれは同年代の子には理解され難いかもね」


 ん?

 ……ああ、虐められてると勘違いしたのかな?

 確かにこれでひ弱やら虚弱が付属したら格好の的だろうしな。今の俺、見た目も弱そうだろうし。まあ、ステータスとかはアレ・・過ぎるんだけどな。


「あー、その、虐められてるとかそういうのじゃないですよ。ただ、自分で自分を鑑みてみると年寄り臭いなと思っちゃって」


「ああ、そういう事かー。ごめんね、早とちりだった」


「いえ、お気持ちは嬉しかったです。

 ただ、私はこれでもかなり強いので虐められる事は無いと思いますよ。と言うか思いたいですね……。流石に外的要因はどうしようもないですから」


 俺は言葉にしながらつい前世の事を思い出してしまう。

 実際あの事件で俺にできた事はかなり少なかっただろう。何かが出来た可能性はあったかもしれないが、それはほぼ全ての事柄に対策をするようなものだ。人間、全ての事に気を回す事など不可能なのだ。

 もっとも、今の俺ルナは幸運な事に出来る事が多い。だからこそ、今世では色々なモノを取りこぼさない為に出来る限りの事柄は先回りして潰していくつもりだ。

 まずは、今日の最後にあの・・事を調べないとな。


「っと。そう言えばいいお店は思いつきました?」


「あ。そう言えばそうでした」


「……もしかして考えて無かったんですか?」


「あ、ははは……こ、ココとかおススメですよ?」


 絶対それ今考えただろと思ったが、話がややこしくなりそうなので突っ込むのは我慢した。


 そんなスフィアさんは戸棚から地図を引っ張り出し、ある位置に丸を書きこむ。

 その位置は王城のある中心部と外周部の丁度境目に位置する観光街の一角だ。


「店の名前は、えっと……『疾風はやて』だったかな?」


疾風はやてですか……あ、そう言えばこの地図って何処かに売ってますか?」


「確か商業ギルドで売ってたと思うけど……。折角だし、それ旧式でもう使わないと思うから必要ならあげるよ?」


「え、いいんですか?」


「さっきの賠償金とお手伝いしてくれた対価って事で」


「じゃあ、遠慮なくもらっておきますね」


「うん、そうして。地図は使う人が持ってればいいものだもんね。二枚も必要ないです」


 俺はこの時、この人真面な事も言うんだなとスフィアさんの評価を少し上方修正した。

 決して物で釣られた訳では無い。

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