第3話 兄姉


 食堂の手前まで着いた。

 メイドさんから聞いた話では既に兄姉達は中で待っているそうだ。

 そして、その食堂の扉の前にはメイズさんが立っていた。

 

「エルネご苦労様です」


 メイズさんが俺をココまで連れて来てくれたメイドさんに声を掛ける。へぇ、エルネさんって言うんだ。覚えておこう。

 それに対してエルネさんは一礼して扉に向かった。

 二人が扉の取っ手に手を掛ける。うわ、緊張してきた。落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち……


「お嬢様、坊ちゃま、妹様がおいでになられました」


 メイズさんがノックと共に扉へ向けて声を掛ける。

 間髪入れず男性特有の低い声が扉の向こう側から帰って来た。

 よかった。メイズさんの言葉の途中で通せと言う声を拾えたので恐らく許可はちゃんと下りたと思う。

 逆にこれで下りて無かったら泣ける。


「それでは、お通しします」


 その言葉の後、メイズさんとエルネさんが扉を開いた。

 おぉ、息ピッタリ。左右どちらの扉もほぼズレのない移動速度で開いてたな。って、入らなきゃ。

 俺は急いでいる風に見えないよう気を払いながら速足で部屋に入る。


――そこには三人の人物がいた。


 一人は、灰色の髪をオールバックに纏めた活発そうな男。

 そして一人は、優しげな碧眼の瞳に美しく流れる様な緑髪の女性。

 最後の一人は、短く茶髪を切りそろえた男で理知的で落ち着いた雰囲気を放っていた。


 三人の人物の何れもが美女、美男子と言って差し支えない。一瞬、気圧されそうになったものの一瞬で持ち直して俺は意識して儚げな微笑みを浮かべる。


「初めまして、お兄様、お姉様。お初にお目に掛かりますルナルティア・ノートネスと申しま――ふぐっ!?」


 カーテシーで俯いた瞬間に何かが俺に衝突した。

 弾き飛ばされた俺はその柔らかい何かに押しつぶされる。


「きゃぁぁあああああーーーー!!!可愛い、カワイイ、かわいいいいいいい!!!!!可愛過ぎる!!!ねぇ、本当にこんなカワイイ子が妹なの!?」

「レーネ、少しは落ち着いたらどうかな?」

「無理!」

「即決かい……」


 何となく理知的な方の兄がガックリと肩を落としたのが感じられた。

 ――と言うか痛い!フローリアお母様と違って少し足りてないからか、ゴリゴリしてるからね!?息は出来るけどさぁ!?


「むむっ(ちょっ)!?ふむむっふむむっ(痛い痛い)!むむぅうう(離して~)!!」


 俺は必死にジタバタと手足を動かすが締め付けが強すぎて動けない。

 くっ、こうなったら――強硬手段に出るしかねえ!


「むむ(無よ)、むむむむぅ(≪バースト≫)!」

「キャッ!?」


 無属性下位魔法≪バースト≫。効果は御覧の通り体表から魔力を発して接触している相手を吹き飛ばす魔法だ。ただ、魔力を放つだけなので殆ど処理工程を必要としない便利な魔法である。

 ちなみにこの魔法一般人が使うと魔力切れでバタリなんだとか。


「はぁ、はぁ、ち、窒息死するかと思いました……」

「痛たたた……」


 俺は酸欠で立っていられなくなり思わず床に膝と手を着いてしまう。ああ、また手を洗いに行かなくちゃ……

 そしてこの混沌とした場に、


「あー、如何すんだコレ?」


 活発そうな男の声がポツリとこだましたのだった。




 食事は一度、身形を整えてから行う事になった。うぅ、地味にお腹減ってたのに。あー、それと準備してた料理人達も別の意味で涙目だろうね。電子レンジが無いから温め直しは出来ないからなー。

 まっ、作り直し頑張って下さいっと。


 よし、これで服の着崩れ無し。十分くらい経ったし、そろそろ人が呼びに来る頃かな?

 今は部屋の椅子に腰かけて≪箱庭の理想郷ガーデン・オブ・ユートピア≫にいる配下に指示を出している。具体的にはパペットやフェアリーなどの家事や植物の育成を担当しているグループに指示だし中だ。

 俺の世界【カミルミ】は生まれて数年の小世界だが、それでも数年経った今、少しずつ広がってきている。この間、全方角47マス目を開放した所だ。一マスにつき10km程あるので今の【カミルミ】は一辺470kmの正方形のような形となっている。ここまでいくと管理も結構大変なのだ。

 更にタチの悪い事に使役している生物の食い扶持を俺が用意しないといけない為、管理が倍しんどい。

 実際、今は指示するだけでもある程度なんとかなっているが、初めの頃――始めて一年間くらい――は何から何まで自分でやらないといけなく、大規模な畑や田んぼを一人で用意し管理するというかなりの地獄を味わった。


――トン、トン、トン。


「どうぞ」


 迎えが来たので俺は開いていた≪箱庭の理想郷ガーデン・オブ・ユートピア≫の管理画面を閉じた。


――がちゃり


「失礼します。お食事の準備が整いました。食堂への移動をお願いいたします」

「ええ、了解しました」


 メイドさんが入り口のドアを抑えてくれているので急ぎ足で通り抜ける。

 いい加減お腹がすいていた俺は速足で食堂に向かうのだった。その時、移動速度がメイドさんの歩く速度と同じだったのは気がつかなかった事にしておく。足が短い訳じゃないもん!ちっさいだけだもん!……ぐすん。



     ◆ ◇ ◆



 今度は普通に扉が開いていたのでそのまま素通りし、先程三人が座っていなかった席の一つに着く。具体的にはお姉様の対面の席だ。また抱き着かれて痛みを味わうのは御免である。

 それと、如何やらまだ誰も来ていない様なので大人しく座って待つ事にする。


 二分後、落ち着いた雰囲気の方のお兄様が来た。名前は知らない。


「えっと、初めまして?でいいのでしょうか。ルナルティア・ノートネスです。気軽にルナとお呼びくださいお兄様」

「おや、これはこれは。丁寧な挨拶をありがとう。宜しくねルナ。僕はリステルだよ」

「はい、よろしくお願いします!リステルお兄様!」


 最近大放出中のアルカイックスマイルを発動する。

 これで、よい第一印象を与えられたと思いたい。


 そこからは他愛無い話をしながら後の二人を待った。




「ああっと……うん、すまん。遅くなった」


 約十分後、遅れてもう一人のお兄様が現れた。

 物凄く居心地悪そうな顔をしている。どうしたのかな?


「気にしてないさ。ね、ルナ?」

「はい、私も気にしてません。リステルお兄様とのお話楽しかったですからね!」

「ほら、ヴァンも立ってないで早くお座り」

「ああ、うん」


 相変わらず居心地悪そうな顔でヴァン?お兄様も椅子に着いた。

 ……あ、もう一回自己紹介しておくか。


「改めましてルナルティア・ノートネスです。ルナとお呼びくださいねヴァンお兄様」

「あー、ヴァントネアだ。よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」


 今回は笑顔じゃなく頭を下げておく。なんかこっちの方がヴァンお兄様には好印象に取られそうな気がする。


「さて、それじゃあ話の続きをしようか」

「はい!」

「……」


 あ、ヴァンお兄様がまたさっきの表情に戻った。




 ヴァンお兄様が来てから十数分。

 未だにレーネお姉様は来ていない。


「ふむ、レーネが来ないね。何かあったのかな?」


 リステルお兄様が使用人に聞こうと席を立った所でメイズさんが入って来た。


「御歓談中失礼します。レーネお嬢様は現在メイド長から折檻を受けておりますので当分こちらに来る事が出来ないでしょう。その為、今ここに居る皆様のみで先に昼食を取っておいてほしいとの事です」


 あまりな内容に全員が微妙な顔になった。


「あーっと、何とも締まらないが……まあ、折角だし食事の前に一言だけ言っておこうか。

 ――ルナ、ようこそ王都へ」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 分かりにくかった方もいると思いますので補足を。

長男:リステル 落ち着いたイケメン。眼鏡が似合いそう。騎士学校の高等部に通っている。文武両道。17歳。

長女:イルレーネ(レーネ) 可愛いモノ大好き。魔法学校の中等部に通っている。実はそこそこに頭が良い。容姿がかなり優れている。下級生からの人気が凄い。14歳

次男:ヴァントネア(ヴァン) 見た目通り活発で好戦的。だが人一倍仲間想い。文武両道な兄にあこがれを抱いていたりする。結構強い。でも、ルナの方が強い。魔法無しでもルナの方が強い。13歳。時たま覗く八重歯が特徴的。なんか犬っぽい。

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