第5話 シャルロット


 さて、シャロちゃんが基礎属性を持ってないのに入学できた理由のネタ晴らししておこうと思う。そして、その説明をするためには、まずシャロちゃんの正体を明かさなければいけないだろう。

 シャロちゃんの本当の名はシャルロット・イーヴェル・レストノア。この国の王女である。王位継承権は4位だ。ちなみにシャロちゃんが最初に名乗ったレベーネの姓は王家が偽名を使い、何かをする時の為に作られた貴族籍だそう。

 で、何故王女様が偽名を使っているかというと、彼女自身が女王になるつもりが無いからだそうだ。コレはヘルネス本人も認めているみたいだ。そして最後に身を守る為だそう。

 ≪雷魔法≫は王の血筋から3代まで発現するらしく、ヘルネス→シャロちゃんの御父君(1代目)→シャロちゃん(2代目)→シャロちゃんの子供(3代目)と、あと一代≪雷魔法≫を継ぐ事ができるのだ。

 ≪雷魔法≫は王家の象徴の様なものでもあるそうで、シャロちゃんを取り込みたがる貴族は結構いるんだそう。んで、俺はそのような貴族からシャロちゃんを守る護衛役を依頼された訳だ。


 もう、分かっただろうがシャロちゃんは≪雷魔法≫の才能を認められてこの学校に入学した訳だ。だが、その魔法を使うという事は正体を明かす事に繋がってしまう。だから、基礎の6属性を必死に覚えようとしてる訳だな。ジレンマだねぇ。世の中何事も上手くはいかないもんだ。


「失礼ですがチームを組むに当たってシャロちゃんの適性を見る為に≪鑑定≫させて頂きました。ごめんなさい。その魔法・・・・について誰かに言って回る事は無いので許してくれると嬉しいのですが……」

「な、んで、」


 シャロちゃんは驚きに目を向きながら咄嗟に左手首に触れた。

 ああ、それが鑑定阻害の魔道具か。<管理神の祝福>は隠蔽中のデータも表示されるので鑑定阻害が掛かっているのは一目でわかっていたのだ。この機能も大変便利である。


「大丈夫ですよ。鑑定阻害はしっかりと働いています。ただ、世の中にはそれを無効化したり突き抜いたりする手法もあるという事です。それを行った私が言うのも失礼な事ですが対策としては無効化範囲が少し違う阻害系のアイテムは複数身に着けておくのも手の一つですよ」

「あの、本当に言うつもりは――」

「ないです。私、友達を売るような真似は致しません」


 少しでもプラスのイメージが付きやすい様に優し気な笑みを意識して浮かべる。意識するのは何時もの微笑みとは少し違う聖母の様な包容力のある表情だ。


「改めて……許して頂けますか?」

「うぅ、ルナちゃんはズルいよ」

「女の子は何れも賢しいモノなんですよ。いずれシャロちゃんも出来る様になります」

「むぅ、同い年なのに」


 ふぅ、何とか許して貰えたみたいだな。というか自分で言ってて今の台詞はあざと過ぎんだろ……

 コホン。それよりシャロちゃんの魔法だ。


「ふふ、そうですね。お詫びと言う訳ではありませんが、友達としてシャロちゃんが魔法を使える様にお手伝いしましょうか?」

「いいの!?」

「ええ、構いませんよ。一応これでも私は適性外の属性魔法も使える様に特訓していますので、そこそこなら教えて差し上げる事ができると思いますよ」

「じゃあ、その、お願いしよっかな。」

「はい、承りました♪」


 あー、ハイテンション疲れるわぁ。

 よく、世の女子生徒達はこのテンション維持できるな……。もう、辛いっつの。

 といっても、仕事だから手を抜くつもりは無いんだけどな。それに事、演技において音を上げるならそれは俺じゃねぇよ。

 俺は時計をチラリと確認する素振りをした後、シャロちゃんに向き直る。


「あら?昼食からもう良い時間ですわね。少し早いですが体育館に向かいましょうか」

「あ、ホントだ。行こっかルナちゃん」

「そうですね。ところで私は練習場の場所が把握できていないので案内して頂けますか?」

「あ。あう、そうだよね。気がつかなくてゴメンね」

「いえいえ、お気になさらず」


 片付けを終えた俺はシャロちゃんの後ろについて、体育館へ向かったのだった。



     ◆  ◇  ◆



 この学校にも一応、体操着が存在する。だが、実際に実技の時間にそれを着る者は少ない。

 何故かというと、王立四学園では制服に魔法陣の刺繍が認められているからだ。確かに王国規定を基に作られている体操着はしっかりしたもので、対刃性能や衝撃吸収性を高く作られているが、魔改造された制服にはその性能で敵わないのだ。

 ましてやここは魔法学園で高い魔力を持つ者が沢山いる場だ。自分専用に魔改造カスタマイズして魔道具と化した制服の方が使いやすいに決まっているのだ。あとは単純に青単一色の体操着が気に入らないという意見もある。ハッキリ言ってダサいし。

 ただ、今の初等部の時期は体操着の方が多い。魔法学園では魔法陣の刺繍は自身でやらないといけないというルールがあるからだ。ただ、まあ当然の様に抜け道はあって。

 あくまで刺繍は・・・自分でやらないといけない訳であって魔法陣まで自分で組まなくてもいいのだ。まあ、俺は普通に自分で組んだけどさ。

 ちなみにあまりにも刺繍が下手な場合のみ代役を立てていいんだそう。まあ、そう簡単に認めて貰えないらしいけどね。当然か。


「シャロちゃん着替え終わりましたか?」

「あれ、ルナちゃんは――」

「私はコレで受けるのでお構いなく」

「そうなんだ。あれ、でも、魔法陣は?」


 ああ、背中に魔法陣が見えるのもアレはアレでカッコいいんだけどね。長時間観察されると引用されそうで嫌なんだよな。

 そんな訳で貼り合せて重ね縫いする前の布地を服屋のスフィアさんから渡して貰い。3時間掛けて縫い上げたのだ。

 ぶっちゃけシュミレーション機能で魔法陣の図面を組み上げたはいいものの、超細かくて縫うの大変だったよなぁ。


「ルナちゃん急に遠い目してどうしたの?」

「いえ、これを縫うのは大変だったなぁと思いだしてただけです。……ああ、それで、魔法陣でしたね。ちょっと待ってくださいね」


 俺はさっと制服の上衣を脱ぎ、シャロちゃんに渡す。


「この様に内側だけに縫い付けたんですよ。この量ですから糸に魔力を染み込ませる作業だけでも大変でした」

「えっと、ルナちゃん。なんで七色もあるの?」


 あ。

 やらかしたぁぁぁああああああ!!!!

 よく考えたらこの時期に六属性使える時点でおかしいですよね!!やっちまったぁぁああああ!!!それに≪雷魔法≫使えるって完全にバレたわ。


「そ、それにデカぃよぉ……」

「? 何か言いました?」

「な、何でもないよ!それよりその下着、凄いね」


 あ、シャロちゃんの顔が青くなった。というかさっきから片手で顔隠してるけど指の隙間から見えてるよね。どんだけ人の胸の発育に興味あんのさ。

 ちなみに最初の一言も聞こえてないフリしたけどしっかりと聞こえてました。なのに、なんで話題替えでそこいっちゃうかな。


「市販のだとザラついて少し痛いので自作したんですよ。色が黒と青のは単純に私の好きな色だからです。白と黒、白と青などの色違いもあります」

「そ、そうなんだ」


 シャロちゃんは相変わらず指の隙間から俺の方を覗いている。


「はぁ……そんなに恥ずかしがるのなら上着、そろそろ返して頂けません?」

「あ、ご、ごめんね.....」

「あ。いえ、別に怒っている訳では無いのでそこまでヘコまないで下さい」


 うーん、シャロちゃんの気の弱さ何とかしないとだな。

 とりあえず子供の性格は育った環境によるところが大きいからヘルネスに文句言っとくか。コレは絶対だな。

 俺はシャロちゃんから上着を返してもらい手早く着直した。あぁ、インベントリ経由ならもっと早く着替えられるのになぁ。


「よしょっと、さて、行きましょうか」

「あ、うん。こっちだよ。それでさっきの魔法陣はどんな効果なの?」


 俺はシャロちゃんの後を着いていきながら、魔法陣の効果を一つ一つ説明していく。

 俺の組んだ魔法陣は絡み合っていて精密で緻密で複雑な形になっているので効果が読み取り難いのだ。いや違うなアレは各々の魔法陣が混じり合って一つの魔法陣として成り立っている。もう融合とでもいうべきだろう。

 体育館へ向かう道すがら、俺はシャロちゃんに先程見せた魔法陣の解説を行うのだった。

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