第4話 班結成


「こんにちは少しお時間宜しいですか?」

「えっと、僕ですか?」


 休み時間。早速俺はシャルル君に声をかけていた。

 彼なら人柄も戦闘方法もある程度知っているから安心してパーティーに誘えると思ったのだ。


「初めまして私はルナルティア・ノートネスと申します」

「えっと、シャルル・メルガノスです」

「早速ですが宜しければ私と班を組んで頂けませんか?」

「ちょっと!なんですの貴女!シャルル様とは私が組みますの!!」


 横から出てきたのはこちらも人柄、戦闘能力共に知れた人物ヴァイオレットだ。

 今の台詞でなんとなく分かる様にお嬢様口調、ツンデレ、シャルル君大好きな女の子の彼女だが、メインウェポンに癖の強い蛇腹剣を使用する程度には戦闘慣れしている。

 ちなみに金髪でツインドリルだ。ドリルもコルネも嫌いじゃない。

 ふむ、丁度いいな。


「あら、ヴァイオレットさん。私貴女も誘おうと思ってましたの。宜しければ貴女も私と班を組んで頂けませんか?」

「えっ、わ、私もですの?」

「ええ、勿論ですわ」

「そ、そう。それなら許してあげない事も無いわ!」


 一々、上から目線だな……。

 家の格は対等なんだから問題にならないように気をつけてくれよと思わずにはいられない。

 それはそうと彼女と喋っていると若干、言葉遣いがお嬢様に寄るんだよな……。まあ、嫌いじゃないけどさ。この口調。劇でよく美月が演じてたのを思い出すなぁ……


「ふふ、ありがとうございます。あとはシャルルさんですが……。如何でしょう?」

「えっと、ヴィオがいいなら僕もいいよ」

「よかったです。コレで班の人数が揃いました」


 俺は二人に残りの班員であるシャロちゃんとその知り合いのクライン君の事を伝える。


「この様に今5人メンバーが集まったのですが……あと一人分枠があるのですがどうしましょうか?一応、まずは全員の意見を聞いてみたいと思っているのですが……」

「うーん。僕は今のメンバーでも大丈夫だと思うな」

「私もそれで構いませんわ」


 ちなみに俺も同意見だったりする。

 というか見渡してみた感じそこそこ実力があるのはいるが無理してこちらから誘おうと思うレベルじゃ無い。

 まあ、こういうのは全員の意見を聞いたっていう体裁が大事な訳だからちゃんと残りの二人にも聞いておかないとな。


――ゴーンーーゴーンーーゴーンーー


 味気ないチャイムを聞きながら俺は席に戻った。

 先程まではHRの後の準備時間。これからの授業が本番である。



     ◆  ◇  ◆



 結論から言うと二人共OKとの事だった。

 授業の方も、こちらも結論から言うと、クッソ簡単だった。

 いや、まあ年齢を考えると自然なんだけどね?みんななまじ見た目が成長してる所為もあって違和感がね。


 それに国語なんか脳内に直接言語をインプットしてるから間違えようがないし。国語で唯一点数を落とす可能性があるのは長文問題くらいだろう。

 帝国の方の言葉遣いや、エルフ、ドワーフ、ドラゴンなんかの言語も網羅してる俺に国語を勉強する意味とは何なのだろうか……。


 数学はまだ四則演算に入ったばかりだし、まだないが社会の歴史など<世界記録アカシックレコード>で一発だ。そんななかで日本と違い、それでいて価値があるのは古代言語と道徳だろうか?


 いや、まあ。古代言語エンシェントも出来るんだけどね。魔法陣を編むのに古代言語は深く関わって来る。そうなると本当に作ってる人から最低限の下地を学びたいわけですよ。

 そうだな。今の状況を例えるなら最高の装備と深い知識を持った科学者に運動しろって言っているようなものかな?効率のいい走り方も最高の装備の活用法も知識として理解してはいるが本職と比べるとどうしても見劣りするというか何と言うか……。

 まあ、説明書を読んでやるよりも誰かに教えて貰いながらやる方が簡単にできるよって話だな。


「あの、ルナちゃん」

「如何かしまして?シャロちゃん」


 肘をついて顎を支えながら窓外を見ているとシャロちゃんに声を掛けられた。


「食堂の場所わかる?」

「えっと……ああ、もうそんな時間でしたか」


 昼の12時。まだ、午後には魔法の授業が残っている。

 そうなると当然、昼食を挟むわけだ。ちなみに学食は全て無料である。正確には入学金の諸々に含まれているのだとか。


「そうですね。まだ分からないので案内して頂けますか?」

「うん、任せてよ!」


 元気良く立ち上がったシャロちゃんはたったったったと小走りで教室の前まで走って行く。って、シャロちゃん早い早い。待ってまだ俺筆記用具片して無いからね!?


 そんなこんなで食堂まで案内して貰ったのだが……。


「あう、間に合わなかったの」

「まあ、凄い人ですね」


 見るに堪えないレベルの長蛇の列。コレは並びたくないな。


「仕方ありませんね。あちらの席にいきましょう」

「うん。席位は確保したいもんね……」


 うわ、凄い落ち込みよう。


「確かココは各自で持ち込んだものも食べて宜しいのでしたよね?」

「そうだけど……私、何も持って来て無いよ?」


 寧ろ見渡す限り、各自で何かを持って来ている人の方が少ないように思える。

 まあ、弁当持参の人は食堂以外の場所で食べているんだろう。今からココで食べようと思っている私たち……俺達の方が珍らしいと思われる。

 俺は黒い空間を開く動作をして――アイテムボックスの再現――テーブルクロスと茶器を取り出す。バージョンアップした俺のティーセットだ。


「ふふ、本格的な食事ではありませんが先日焼いたクッキーがあるのですが如何でしょう?」


 ちなみに本格的な食事もインベントリに収納されているのだが、普通の・・・アイテムボックスはそこまで高性能では無いので出すつもりは無かった。


 俺は何時もの青薔薇茶ブルーローズティーと新作のアッサムを用意して淹れる。余談ながらこのティーポットは中の液体の温度を一定に保つ魔道具だったりする。お値段約28万エルと結構お高かった。もう、製作法は調べ終わっているので最悪壊れたとしても何とかなるだろう。直すもよし、新しく作り直すもよしだ。というかそうでもないと高価な日常品魔道具を持ち出してきたりしないのだが。


「どうぞ。少し熱いので気をつけて下さいね」

「え……あ、うん。ありがとぅ」


 ついでに小カップにミルクを注いで渡す。

 中央のケーキスタンドには既に蜂蜜クッキー、シフォンケーキ、サンドウィッチが用意されたものを取り出した。


「ふふ、さぁ優雅なお茶会としましょうか?」



     ◆  ◇  ◆



 うん、二度と食堂でお茶会はしない。俺はそう心に誓った。

 何故なら。

 一にまず空気が最悪。これは雰囲気という意味合いでは無く物理的なものの方だ。折角の紅茶の香りが他の料理の匂いと混ざって残念なモノに成り下がっていた。仕方が無いのであの場では≪エアコントロール≫を使い誤魔化したが折角の優雅さが崩れ去った。

 ニに視線だ。俺達のやっている事が珍しかったのか、それとも俺自体が珍しかったのかは知らないが、周囲の生徒の不躾な視線がずっとこちらを向いていて非常に不快だった。シャロちゃんなんかは完全に怯えてたしね。

 最後に音だ。当然の事ながら大勢の人が集まる食堂は非常に煩かった。思わずイラつきに任せて≪静寂空間≫の魔法を使用する所だった。まあ、もしそんな事をすれば逆に目立ってしょうがなかっただろう。確か≪静寂空間≫って中等部の序盤~終盤にかけて習う魔法だった筈だし。


 そんな訳で非常にイラつく騒音に悩まされながらの昼食を終えて教室に戻って来た。うん、教室はそこそこ静かだ。落ち着く。


「そう言えばシャロちゃん」

「ふぇ、なんです?」


 如何やらシャロちゃんは先程のシフォンケーキがお気に召した様で、一口食べた後はずっとこの様に上の空だ。見てて面白いし今度また焼いて来よう。となると食堂の皆さんと騎士たちの分も焼かないとだから……また、結構な額が飛んで行くなぁ……。うん、お父様やヘルネス辺りから何らかの理由を付けて出してもらう事にしよう。

 そんな事を考えているとシャロちゃんがまた上の空だった。放置しすぎたかな?


「あ、ごめんなさい。考え事をしていました」

「ぇ?あ、えっと、うん」


 ……こいつ聞いてなかったな。

 まあ、いいや。今は質問を優先しよう。


「それで、午後の魔法の授業はどんな事をするのでしょう?」

「えっとね。今は魔力操作と属性変換のやり方を教えて貰ってるよ」


 うん、基礎の基礎だな。


「それが出来た人から次の課題が与えられるんだ~」

「へぇ、そうなんですか。ちなみにシャロちゃんは何処まで出来るんですか?」

「えへへ、私はまだ属性変換で詰まってるの……」


 俺はシャロちゃんに<管理神の祝福>を発動し、何となくその理由を察した。


「シャロちゃん。貴女には基礎四属性(火・水・土・風)、特殊二属性(光・闇)共に適性がありませんね?」


 俺の言葉が正解だったからかシャロちゃんは大きく目を見開いたのだった。

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