第3話 学校初日


 あー、行きたくないな……

 絶対にもう友達グループで来てるよね。今の俺って完全に典型的なボッチコース辿ってるしね……


「はぁ……」

「お嬢様、大丈夫ですか?ご機嫌が優れないのでしたら今すぐ引き返しますが」

「いえ、大丈夫です」

「そう……ですか」


 今の会話から分かる様に今俺はその学校に向かっている。

 本当は全く以って行きたくないが、ヘルネスから依頼を受け、そして金も受け取っている関係上、行かない訳にはいかない。


「(もう少し風邪で寝込んでいたかったですね……)」

「お嬢様?何かおっしゃいましたか?」

「いえ、何でもありません」

「そう……でございますか」


 俺は御者に適当な返事を返しながら本のページを捲る。まあ、開いているだけで殆ど読んでいないのだが。

 はぁ、憂鬱だ。昨日、メインウェポンを仕上げに掛かった所為で寝不足だし少し休むか。

 俺は御者に学園へ着いたら起こす様に伝え、フカフカの座席で横になるのだった。



     ◆  ◇  ◆



 初等部1年B組。

 そこがルナのクラスだ。そして、仕組まれたかの様に濃い面子が集まっている。

 知っているところだと、シャルルやヴァイオレットなどが在籍している。従者の二人は2学年上のクラスの様だ。

 さて、かれこれ今日は学校開始から3日目である。当然、既に幾つかのグループが出来上っていた。

 各々の子供達はその仲が好いグループで固まって楽しそうに話をしている。


――ガラリ


 静かに扉を開ける音が教室に響く。

 何人かが次は誰が来たのかと入り口に視線を向け――息を呑んだ。

 そこには優しげな微笑みを浮かべた靡く程長い綺麗な青髪を持った美少女がいた。


 少女はそのまま教室に入り扉を閉めると窓際の席へ向かう。


「すみません。お隣宜しいですか?」


 青髪の美少女――ルナが声を掛けたのは銀髪のこちらも美少女だ。


「え、あ、はい!その、私の横なんかでよければ。ど、ドウゾ」

「ふふ、そんなに緊張しなくてもいいんですよ?」


 ルナは席に着くとインベントリから筆記用具を取り出して机に並べ先程読んでいた本を開いた。


「あ、そう言えば……初めまして私はルナルティア・ノートネスと申します。先日まで風邪をひいて寝込んでいたので今日が初めての登校日ですね」

「え!風邪ですか!そ、その、大丈夫ですか?」


 目に見えて狼狽える少女に小動物的可愛さを感じたルナは思わず頬が緩むのを感じた。

 そして、少し性の悪い悪戯を思いつく。


「ええ、ちゃんと完治しておりますから私からうつる心配は御座いませんよ?」

「あ、その、そうじゃなくて……」

「あら?もしかして私の心配をしてくれたのですか?まあ、嬉しいです!貴女お名前は?」


 ルナはちょこんと指と指の先を合わせながら笑みを浮かべる。

 大変可愛らしい仕草だが狙ってやっているのであざとさ100%である。誰も気がついていないが。


「え、え?あ。しゃ、しゃる、シャロ・レベーネです!」

「シャロちゃんですね♪よかったら私のお友達になってくれませんか?」

「え!お友達ですか!?あ、あの、私なんかで――」

「えぇ、勿論構いませんよ。何方かというと私はシャロちゃんだからこそ友達になりたいと思ったんですよ!」

「ふ、ふえぇぇ」


 それは大変微笑ましい光景であった。片方の腹黒さを除けば。

 その後もルナはニコニコと微笑みながらシャロとの会話を続けた。ちなみに会話の内容は昨日一昨日とルナが休んでいた時のクラスの話だ。

 やる気になれば会話運びの上手いルナは巧みに相槌を打って、シャロとの仲を深めていく。


「それでね!先生が――」


「昨日はオリエンテーションの説明を聞いてね――」


「シャルル君とクライン君が――」


「今日は何するんだろ~」


 などなど他愛も無い会話を続けていると


――ガラリ


 また教室の扉が開く。それにしてもこの扉一々音が響き過ぎではないだろうか。


「あ、あの子がシャルル君だよー」


 シャロの視線を追ってルナが見た先には以前ギルドで出会った【神童】の少年シャルル・メルガノスがいた。ついでにヴァイオレット・サウィスも居る。

 ルナの透き通る瞳がシャルルをしっかり捉えた時、視線が重なった。

 シャルルとルナが数秒ほど見つめ合う。

 ルナはふっと口元に笑みを作ったあと一方的に視線を切り、またシャロと話し始めたのだった。


「へぇ、そうなんですか。あの二人共随分と背が高いですね。」

「あはは、それはルナちゃんが低す――何でもないです」


 ルナに対して禁句を発そうとしたシャロは彼女の迫力ある黒い笑みを見て口を噤む。賢明な判断であった。




「さて、そろそろ授業が始まりますね。どんな内容か少し楽しみです」

「んっと、そんなに変わった事は無いと思うけど……。あ、そう言えば今日から実技が始まるんだよね?体操服持ってきた?」

「体操服……えぇ、持ってまいりましたよ」


 嘘である。表面上取り繕っているがアレそんなのあったっけと急いで時間割表を写したメモウィンドウを開いていた。


「シャロさんこそ忘れていませんよね?体操服」

「勿論!ほらっ!」


 そう言ってシャロはルナに体操服を入れた袋を見せる。


「ふふ、それで中が別のモノだったら面白いですわね」

「え、そ、そ、そんな事無い筈!?」


 慌てて袋の中身を確認するシャロ。

 中には当然、しっかりと体操服が詰められていた。


「よかったぁ、持って来てた。怖かった~」

「よかったですね。はぁ……」


 あわよくばシャロの体操着を見て≪魔装≫で再現するつもりだったルナは小さく見えない様に溜息を吐く。人生何事もうまくいかないモノである。


――ガラリ


「席に着けー。ホームルーム始めんぞー」


 先生が来た事で教室は自然と静かになるのだった。



     ◆  ◇  ◆



「お前らの中でもうオリエンテーションの班決めた奴はいるか?」


 ちらほらと手が上がる。

 当然、今日来始めたばかりの俺には未だ班を組むメンバーなどいない。

 はぁ、まあいいや。とりあえず……


「シャロちゃん。まだ決めてないのなら一緒に組みませんか?」

「え、いいの?」

「勿論です。それとも既に何方かとお組みになっていたのですか?」

「そそ、そんな事ないよ!!」


 どっちだ。いや、まあ多分、俺が来た時も一人だったし組む相手がいなかったんだろうけど。


「それにしても男女半々で4~6人ですか……シャロちゃん。宛はありませんか?」

「えっと……」


 いや、まあ女子(俺)とも話すのにテンパってるシャロちゃんに男子の知り合いが居ない事くらいわかるんだけどさ。一応だよ。一応。


「クライン君……とか?」


 え、居たんだ。男子に知り合い。


「その方はまだパーティーを?」

「組んでなかったと思う。聞いてくるね」


 シャロちゃんは魔導携帯を制服のポケットから取り出すと例のクライン君にメールを作成しだした。


『ねえ、クラインくん、もう班きまった?』


――ぴろり~ん♪


『まだ』


 みじかっ。


『班いっしょに組も?』送信


――ぴろり~ん♪


『了解』


 短かっ。


「いけるって言ってるよルナちゃん!」

「という事はコレであと男性一人を誘えばそれで最低人数は集まる訳ですね?さて、誰を誘いましょうか……」


 首を傾けながら唸る。

 俺の知り合い……。あの二人しかいないか。


「一応、私の方で声を掛けておきますか」

「えっと、誰を誘うの?」

「ふふ、そうですね――


――シャルルさんとヴァイオレットさんです」


 まあ、あの二人の事ならある程度――一方的に――知ってるしな。

 善は急げとばかりに次の休み時間俺はすぐに二人の元に向かったのだった。

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