第2話 風邪はすぐには治らない
翌日、普通に動ける程度まで回復した。
ここまで回復すればあとは火・光混合属性の支援魔法で免疫力を強化してやる事でどうとでもなるだろう。
「聖火よ、内なる魔を燃やし、力と成れ≪セイクリット・フレイムアテンド≫」
うん、初めて使った魔法だけど思ったよりいい魔法だな。かなり体の調子も良くなってるし、身体能力も結構上がってる。この感じは固定強化かな?
付与魔法使いの豆知識の様なモノだが、支援魔法はおおまかに分けて二種類ある。先程述べた固定強化と割合強化だ。
文字通り固定強化は決まった数値分の力が被対象に足される、割合強化も文字通りで決まった割合の実力に被対象を引き上げるのだ。当然の事ながら強化値や強化率、持続時間は使用者の実力に依存している。
俺なんかが使う場合は基本的に固定強化の方が断然いい。ただ、ステータスが化物並みに高いシャルル君なんかに使う場合は割合強化の方がいいだろう。
まあ、そういう小難しい話はその時の使用者が考えればいいのだ。つまり何が言いたいかというと、その人物の実力を見極める方法が無い奴には支援職は出来ないという話だ。
まあ、ともかく。
これで学校にも行けるだろう。明日からは。(流石に今日は行かせて貰えないと思われる)
さて今日は何をしようか。とりあえず病気の治癒魔法の作成だろ?
あと時間があれば今作っている杖?の仕上げもしてしまいたい。今のままだと振り難いし。あぁ、昨日貰った音楽も聞かないと。
あ、変装用の虚飾アバターも作っておかないと。思ったよりやる事は一杯だな。あぁ、護衛対象に持たせる結界発生の魔道具も作らないと。ただなぁ、これに関しては身に着ける当人を見てみない事にはどんなものを作るかのインスピレーションが沸かないんだよなー。
他にも畑の手入れや≪魔装≫のイメージトレーニング、魔力操作の訓練やりだしたら
「とりあえず杖と治癒魔法を優先しましょうか」
精一杯伸びをして体を解すとベッドに腰かける。手元に制作中の杖?を出し、持ち手の箇所の鑢掛けを始めた。
鑢掛けを選んだのは寝起きの為ミスをしてもそのミスを一番修正しやすい作業だからだ。
ちなみに杖の鑢掛けは意外と繊細な作業だ。ある程度の摩擦が無いと杖を打撃武器として振れないので、かなり細かい調整やそれを施す技術が必要になる。
「ん……まあ、こんなもの……でしょうか?」
制作中の杖はかなり大型の物の為、屋内で振る事は出来ない。だから手触りと軽く持ち上げた感覚で図る必要がある。だから未だ仕上がりに不安がある。
「まあ、考えても仕方ないか。次に行きましょう」
あ、素が漏れたな。気をつけないと。
次は杖に使うオプションの布をインベントリから引きずり出す。縫いかけで止まっている魔法陣を完成させるためだ。この魔法陣の刺繍だがかなり過酷な作業となっている。本来は。
布と糸に魔力を染み込ませる関係上、一度縫い始めると手を止めてはいけないというのが魔法陣刺繍の鉄則だ。ただ、時間から隔離された空間であるインベントリを仕える俺の場合は別だ。好きな時に最高のコンディションで自由な刺繍作業が出来るのだ。
『硬化・Ⅰ』『切断・Ⅰ』『潤滑・Ⅱ』『吸収・Ⅱ』『強奪・Ⅲ』『調和・Ⅲ』『並列・Ⅲ』『合成・Ⅲ』『聖域・Ⅳ』の9つが既に付与された魔法陣の効果だ。組み込んだ効果は俺がよく使う属性効果の補助をメインにしている。
ココから組み込める魔法陣の数は精々あと3つか4つ程度だろう。さて、何を組み込んだものか……
考えながら魔法陣の動作チェックをする。
まず布に土属性の魔力を流し込み『硬化』を発動させる。布がピシッと伸びて固まった。
その上から風属性を込め『切断』を発動する。インベントリから引っ張り出したリンゴで切れ味を試してみると予想以上に手ごたえなくすっぱり割れた。
魔力の通りをよくしたり切れ味をさらに高くする『潤滑』は、継続戦闘時以外あまり使わないであろう為に今回は置いておく。
次は闇属性を流し込み『吸収』を発動する。同時に『調和』を発動。布は周囲から魔力を吸収し自らにも使いやすいよう魔力のタイプを『調和』する。吸収効率を上げた布は周囲の魔力が希薄になるまで、一時的ながらも大量の魔力が使える様になる。
あとは大量に発動した効果を『並行』で処理して、『合成』で単一の機能にする事で俺の必要処理量をさげる。今、現在はココまで出来上っている。
ちなみに出来上ってはいるが使わなかった『強奪』と『聖域』は、限定状況下に効果を発揮するタイプのモノだ。
『強奪』は魔力系の罠などの無効化に使用し、『聖域』は防衛戦や護衛対象の保護などで使う予定のものだ。
さて、本当に何を付与しようか……。
適当に<
単純な属性付与?いや、でもそれなら自分でなんとか出来るか。
ならスキルの補助?まあ、悪くは無いかな?とりあえず杖の効果の隠蔽は付けておこうと思う。ただ、全ての効果を自在に隠す為に刺繍するのは一番最後になるかな。あとついでによく使う≪幻術≫の効果強化も付け加えておかないと。
「あと、二つ三つですね」
うーん。『使用比率の高い魔法陣』検索っと。
「……あ。詠唱補助に効果増幅ですか。完全に存在を忘れてましたね……」
TOP1の詠唱補助や2の効果増幅どころか6までどれも使っていなかった自分に愕然とした。ちなみに7位の魔法陣は硬化だった。ただし杖本体に刻んで杖を折れにくくするために組み込まれるらしい。
「とりあえず基礎4属性(火・水・土・風)に特殊2属性(光・闇)、固有1属性(雷)あとそれらの派生属性の詠唱補助を刻んで……」
これで、あとは一枠くらいかな。
回復効果強化は既に過剰回復気味だから必要ない。火力増強も同じく過剰火力気味だから必要ない。属性強化も火力増強と同じ理由で必要ない。
はぁ、こうなると本当に使える物が無いな。強化系で良さそうなモノがまずないのも問題だ。適当に画面をスライドさせながら溜息をもらす。
「あら?これなんか良さそうですね」
『光陰』文字通り光と影を操る魔法陣らしい。これなら幻術と組み合わせて色々と面白い使い方が出来そうだ。魔法陣の方は少し複雑な模様だがまあ何とかなるだろう。
さてと、それじゃ取り掛かりますか。
俺は裁縫道具を取り出して魔法陣の刺繍を始める。
刺繍タイプの魔法陣の効果は使われた素材と作成者の魔力、後は魔法陣を縫う腕の三つで決まる。この内問題になるのが素材だ。だが偶然に知り合ったヘルネスが大量に必要と成る材料を手に入れえ来てくれたためその問題も如何にかなった。
ならあとは作るだけなのだ。俺は集中を高め手早く針を進めていく。
時々布が擦れる音だけが響く空間で僅かに自身の息遣いを感じる。
心臓の音が一定のリズムを刻む。手がそれに合わせて自然と動く。
――そして気がつくと。
「あ、ら?もう夕方ですか」
結局、魔法陣の刺繍しか終わらなかった。一日って早いな……としみじみ思うのだった。
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