第1話 入学式当日

 入学式当日。

 本日の天気は生憎の雨模様。もっとも俺はそこまで雨が嫌いでは無いのだが。

 まあ、そんな事は置いておいて。現在、わた……俺はベッドの上に寝転がっている。


……入学式?

 一度回復して、また体調を崩した私にそんな事をいうんですの?ヨョョ……


「こほっ……本格的に病原菌を殺す為の魔法を、ケホッ……創った方がいいかもしれませんね、こほっ、クチュン」


 薄紙でズビーっと鼻をかもうとして止める。

 残念な事に俺のというかルナの肌は非常に弱い。鼻なんてかんでいると一溜まりも無いだろう。いや、まあ切れたら治せばいいだけなんだけどさ。

 これまでもケアの足りない部分は水魔法で瑞々しいもち肌にしたり、回復魔法で肌荒れや日焼けを消したりしていた。染みなんかも水魔法で取り除いている。

 ただ、化粧水とかで何とか出来る所はモノに頼っても良いと思うのだ。そしてその逆もしかり、物を使った場合に結局回復魔法を掛けないといけないなら、元から魔法で如何にかすればいいと言う訳だ。


 そんな訳で俺はこの強敵たる鼻水に対抗する魔法をウィンドウを使って作成していく。流石に病原菌だけを狙って死滅させる魔法よりは簡単に創れる筈なのだ。


「とりあえず脱水……いや、それだと不純物が残りますし……除去?いえ、それだと鼻をかまなくて済むだけで結局鼻に薄紙をつける必要が……分解して尿に混ぜ込む?それはそれで発動にかかる手間と制御が凄まじい事になりそうですし……うぅ」


 それでなくても酷いのに頭痛が悪化した気がする。

 ……とりあえず今は諦めて鼻をかもう。うん。

 とにもかくにも、小難しい事を考えるのは風邪が治ってからの方がいいな。よし、今は早く風邪を治す事に専念しよう。


「光よ、連複せよ≪オートキュア≫」


 単純な魔法でキュアを十秒ごとに一回繰り返すという魔法だ。

 一回に込めた魔力量で発動時間が決まる。とりあえず1,000MPほど注ぎ込めば翌朝まで楽に過ごせるのは確認済みだ。

 常に一定の制御能力が必要なのが欠点だが、逆にそれはメリットでもある。常に一定の連続処理なので寝ていても発動し続けていられるのだ。脳への負荷を考えなければ。

 大抵の人間は不可に耐え切れず飛び起きてしまうのだとか。制御の訓練にも使える良魔法と俺は認識している。まだ、王都の教会で作成中の魔法の原案を≪世界記録アカシックレコード≫で見つけてそのまま使ってるのだが……これ完全に機密文書だよなぁ。

 まあ、最悪の事態に陥ったらヘルネスが如何とか言い訳しよう。うん。


「あら?」


 噂をすれば本人が来たようだ。

 俺は無魔法で部屋の扉の鍵をかける。

 数秒後、隠し扉からヘルネスが飛び込んでくる。


「――打ち貫け!≪ボルテア≫!」


 雷属性初級魔法≪ボルテア≫殺傷能力の低い電撃の魔法だ。まあ、若干アレンジは加わっているが。


「どわっ!?」


 む、これでも避けられたか。途中で分散して枝分かれする仕様を組み込んでみたのだが飛び散った電撃は全部避けられてしまった。ちなみに分散させた事によって威力は静電気位になっている。

 まあ意図的に威力を上げて一発一発の威力を元のレベルまで上げる事も出来るんだけどね。


「はぁ、ノックをしなさいと何度言ったら……で、今日は如何いったご用向きでしょうか?私これでも風邪なので手早くお願いしますね」

「ほい、見舞いっすよ」


 そう言って投げられた空間収納袋を俺はインベントリに収納してそこの詳細欄から中身を確認する。


「コレは……ああ、用意して欲しいとお願いしていたブラックツリーの原木と獅子毒大蠍の毒針ですか。まあ、エンジェルラビットの尻尾とミスリルゴーレムの結晶核、デスタイラントの背骨、それに次元の針まで用意できたんですね。流石というべきなのでしょうか?少し驚きです」

「流石に煉獄の熱結晶やら隕鉄、オリハルコンなんかは無理だったんすけどね」

「まあ、その辺りはダメ元なので気にしなくても良いですよ」

「そうっすか」


 思いの外集まった材料に思わず頬が緩むのを感じる。コレはありがたい。これなら作りたかったが素材が足りなくてできなかった魔道具が幾つか作れそうだ。


「ふふ、ヘルネスお爺様ありがとうございます♪さて、お帰りは後ろのドアですよ」

「あの、最近そのお爺様呼びに寒気がする様になったんで止めて貰ってもいいっすか!というかお見舞い受け取ったら即追い出すってヒドい!?」

「まあ、私も貴方にお爺様づけで喋るのは嫌だったので構いませんけどね。ところでヘルネス知っていましたか、お帰りのドアは後ろですよ?」

「まだ言うんすか!?」

 

 その後も風邪がうつるからなどと言ってヘルネスを無理矢理追い出した。正直もう眠かったのだ。


「お昼はいいとしても夜は食べなぃ……と……」


 俺の意識は自然と闇に沈んでいった。



     ◆  ◇  ◆



――トントン。

 ノックの音で目を覚ました。

 窓の外を見ると夕方くらいだろうか?


「ぅん、はい。何方でしょう?」

「ランデスでございます。ルナ様」

「アルデハンドでございます。ルナ様」

「ゴリアテでございます。ルナ様」


 ……ああ、騎士団の連中か。

 ちょこちょこ顔出してたら懐かれたんだよなぁ。


「どうぞ、お入りください」

「「「失礼します!」」」


 何やらぎこちなく入って来る三人を見つめながら要件を待つ。


「……」

「「「……」」」


 おい、なんか言えよ。


「……こ、コチラ騎士団一同からルナ様へのお見舞いの品でございます」

「まあ、ありがとうございます!」


 綺麗に可愛らしくラッピングされた箱の紐をほどき、包み紙を開けると、中にはポーションと音楽プレイヤーらしきものが入っていた。


「あの、コチラは?」

「コチラは色々な音を録音できる魔道具でございます。また、その録音した音を再生する事も出来る代物です。魔携――魔導携帯の略――と連動してお使い頂ける優れものとなっております。ただ、それだけですと聊か物足りないと思われますので、僭越ながら既に100曲ほどの音楽を入れさせて頂きました。各曲ごとに評価をつける事ができますので、お申し付け頂ければその評価を鑑みてルナ様の好みに沿った曲を追加させて頂く所存です」

「えぇ、そうですか」


 思わず、長い!というツッコミを入れそうになった。まあ、堪えたが。

 ちなみに話の合間で箱の中のまだ見れていなかった部分を確認すると、端の方に取扱説明書とイヤホンがあるのを発見した。ご丁寧にシルバーとブラックが用意されている。主家の者の好みを把握しているのは流石というべきなのだろうか?いや、こいつら騎士だよね?うーん。

 まあ、とりあえず置いておくとして。


「ふふ、素敵なプレゼントありがとうございます♪試しに一曲聴いてみたいのですがおススメは御座いませんか?」

「おススメで御座いますか?」

「えぇ、3人とも聞かせて頂けると嬉しいですわ」


 そう言うと三人で相談し始める。おい、三人とも答えて欲しいとは言ったが意見を揃える為に相談しろとまで言って無いぞ。


「決まりましたルナ様」


 やはり、俺と一番初めに模擬戦を行ったアルデハンドがまとめ役の様だ。

 ちなみにこのアルデハンド他の同期連中と比べて断トツで強い。最近はさらに鍛えだしたのか、剣筋が鋭くなりもう剣では半分くらいしか勝てそうにない。やはり剣は苦手だ。使うならやっぱり長柄の武器かリーチの長い武器がいい。

 槍、大剣、鞭、鎖鎌、大鎌、弓のどれかならほぼ確実に嵌め殺せるとは思う。魔法を使えば勝負にさえならないだろう。

 っと、話が脱線した。

 俺は下げていた視線上げて改めてアルデハンドの顔を見つめる。うん、舞台映えしそうな端正な顔立ちだ。


「やはり『蒼月のルミナリス』がよろしいかと」


 『蒼月のルミナリス』かぁ。もしかして俺に気を使って選曲した?

 いや、自意識過剰っぽいから聞かないけどさー。


「ふふっ、分かりました。後程聴いてみます。……はぁ、すみません。少し疲れてしまいました。短い時間ですがまた少し眠りますね」

「はっ、御休みなさい。ルナ様」

「はっ、御休みなさい。ルナ様」

「はっ、御休みなさい。ルナ様」


 おー、ぴしりと揃ったな。

 俺は軽く手を振って三人を見送ったのだった。


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