第0話 プロローグ

 精霊の森。そこは精霊達が住み着いている自然豊かな森。

 精霊達は静かにそこで暮らし、一年に一回行われるとある行事の時以外、外界との接触を断っている。


 そして、今年もそのとある行事が行われる季節がやって来ていた。


 そのとある行事とは王立四学園の新入生オリエンテーションだ。精霊の多くは善なるものや自分に近しい存在に引かれるという特性を持っている。

 新入生に森で一日を過ごしてもらい、そこで精霊に気に入られた生徒がその精霊と契約を結ぶのだ。契約の内容は当人同士で決定する事になっており基本的には相互交助が交わされることとなっている。


 そして、今――その精霊の森は、――






――阿鼻叫喚の地獄と化していた。




「くっ、教員は生徒を守りながら転移門まで後退しろ!!」

「水だ!火を消せ!」

「うわあーーーー!!竜巻トルネードが来るぞ!退避しろおおおおおおお!!!!!」


 教員は魔法を相殺させたり防御魔法を張るので手一杯、生徒達は如何していいかもわからず恐怖に震え、逃げ惑う。だが、その逃げ惑うという行動によりカバー出来る範囲が足りなくなり次々と被害が増していく。

 その様子を文字通り上空たかみから眺める影が二つ。


「全くこの程度で取り乱して無駄に被害を増やすとは情けないですね」

「あ、あの、ルナちゃん助けてあげ――」


 ――られないの?と彼女が言い切る前にもう一人の少女は首を振った。


「ごめんなさいシャロちゃん。私は貴女と彼等を守るので手一杯なんです」

「そう、なんだ……あの」

「如何かしましたか?」

「その、今のルナちゃん、怖いよ……」


 青髪の少女は白髪の少女の言葉にクスリと笑い。


「ふふ、そうですね。今の私はスキルによって攻撃性を増してますからそう見えるのかもしれません」

「そっか……」


 そういって普段の少女では絶対しない様な口の端を吊り上げる深い笑みを見て彼女は怯えを強くする。


「まあ、心配しなくてもシャロちゃんは私の友達ですからしっかりと無事にお家へ返してあげますよ」

「うん……」


 彼女はいつもと比べ明らかに高圧的になっている少女をみて悲しくなるのだった。


「……早く何時ものルナちゃんに戻ってね……」

「シャロちゃん、何か言いましたか?」

「ううん、なんでもない」

「そうですか。まあ、ココで手持無沙汰にこの事件が収束するのを眺め続けているのもアレですし、少しは下に降りて手伝いに回りましょうか」

「え、でも、さっきは……その、いいの?」

「あら?私は今決戦を迎えようとしている彼らがどうなるのかに興味があるだけですの。折角の勝負に邪魔が入ってはいけませんから」


 少女が本当にそう思っているのか如何かは彼女にはわからないが、どのような理由であれ、自分の思いを汲んでくれた少女に、彼女は言葉や性格が多少は変わっても本質の優しい所は変わっていないのだと確信した。

 そして、それに気づいた彼女は不安顔から笑顔に早変わりしたのだった。


「ふふ、では行きましょうか。あの程度なら私の敵ではありませんから安心してついて来て下さい。では、降りますよ」

「うん!」


 そう言って少女は足場にしていた結界を解除したのだった。


「……全く帝国は私に恨みでもあるんですかね?」


 結界から飛び降りる時に少女がそんな言葉を残したのだが、それを聞いている者は誰もいないのだった。

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