第2話 <管理神の祝福>


 目が覚めると知らない女性の顔が間近にあった。金髪金眼の美人である。22歳くらいかな?

 ジッと二つの瞳が俺を捉え続けている。ええっと。誰?

 俺はコテンと首を傾げた。


「ごめんなさいね。もう少しで終わるから動かないで待っててね」

「あぶぅ~?(何が?)」


 何がと聞くとニコリと微笑まれた。いや、あのマジで何がですか。

 恐らく俺の反応を見てただ微笑んだだけなのだろうが、立場が違う俺としてはどうしても意味深な微笑みにしか見えなかった。完全に被害妄想である。


《≪ステータス≫の≪情報操作≫が解放されました》


「ばぶっ!?」

「きゃッ!」

「セリル!大丈夫か?」


 驚いた金髪美人さん――セリルさんにお祖父……じゃなかった、お父さんが駆け寄る。


「ええ、あなた。大丈夫よ。きちんとこの子のステータスは確認できたわ。

 そこの貴方、この子のステータスを書くから紙とペンを持って来て頂戴」


 乳母さんに指示を出すセリルさん。

 ん?ステータスが確認できって言ったよな……もしかして見られた!?

 俺は焦るが何もできない。焦った理由は<管理神の書斎>から引き継いできたスキルを見られたと思ったからだ。


 あれ?俺はそこで先程の文にとある疑問を抱いた。

 ……おい、待てこら。あなた?え、何?もしかしてお父さん重婚してる?

 ダメだ、どんどん俺の中でのお父さんの評価が下がっていく……


「こらルナ。お母さんを驚かせちゃ駄目だろ」


 挙句、俺に注意ときたか。もしかして駄目親父なのか……

 せめて、あと3は評価を上げてから出直してきてください。ちなみに現在の評価は10段階評価の3だ。それもほぼ容姿だけでの評価である。


「おーい、聞いてるかー?ルティアー?」


 ペチペチと俺の頬っぺたを叩いてくる駄目親父。おいこら、それは女性に対する扱いじゃないだろ。

 こういった時だけ自分の性別を持ち出す俺であった。


 その後、駄目親父は俺に対する行動を見咎められ、妻二人に連行されていったのだった。

 嵐の様にやって来て、好き勝手して帰っていった親父に俺は内心開いた口がふさがらなかった。

 そこで、どっと疲れがやって来た。ああ、眠たい。そう言えば俺のステータスがどうとか言ってたよ、う、な……

 そこでいつも通りに限界が訪れ、俺は意識を手放した。



     ◆  ◇  ◆



 春がやって来た。俺は生まれて七ヶ月になった。

 大きく変わった事が四つある。

 

 まずは一つ目。何と!ハイハイが出来る様になったのだ!やったね!

 ただし、体力が無いのですぐにへばるのが難点である。


 次に二つ目。<管理神の加護>を色々試していると新しい表示の仕様が使える様になった。

 それは、HP・MP・STのゲージ表示だ。視界の左上に三本のバーが並んでいる。透けているので向こう側も当然見える。余談だが、左下には位置マップが表示されている。俺が思わずゲームかよ!と叫びそうになったのも仕方ないだろう。

 ちなみにマップは中央に俺を表す黄色いアイコン。そして、その周囲に認識してある地形の表示がされている。

 あとは認識している人物を表示する機能がある。味方は青、敵は赤、何方でもない場合は白だ。今は部屋の中に一人、部屋の前に二人の青反応がある。一人は乳母で二人は護衛らしい。

 え?何で俺に護衛なんかが付いてるか?

 実は俺の実家であるノートネス家は貴族なのだ。それも伯爵家である。

 それを知った時、俺はポカンと口を開け阿保面をさらしていたと思う。とにかく、最近驚く様な出来事が多すぎる気がする。ちなみにその時、周囲に人はいなかったのである意味では問題無い。

 では、どうやって調べたかと言うと。それは三つ目に繋がる。


 それでは三つ目。<管理神の祝福>のレベルが10になった事だ。まずは先に判明した<管理神の祝福>の効果を説明しておこうと思う。

 <管理神の祝福>は<鑑定>のスキルを強化したようなものだ。

 まず<鑑定>だが見たモノの情報を調べる能力だ。当然、スキルのレベルが高ければ高いほど分かる情報量も多くなる。そして何より重要なのが調べるモノとスキル使用者の格の差だ。

 それにより、調べるのに必要な時間は変わる。ちなみに、あまりにも使用者と対象の格の差がかけ離れていた場合は『鑑定不能』や『unknown』などと表示されるらしい。

 では、<管理神の祝福>はどういったものか説明しようと思う。<管理神の祝福>は対象の情報を調べるのではなく世界にアクセスして情報を引っ張り出してくるのだ。言ってしまえば情報の横流しである。

 ちなみにその時、コレ、大丈夫か?と心配していたら久しぶりに神様から連絡が来た。問題は無いそうだ。

 ただ、これは<世界の祝福>にリンクした機能の様で<管理神の祝福>だけだとそこまで便利な能力ではないらしい。

 あと、<管理神の祝福>+<世界の祝福>に似たような機能が<管理神の加護>にも存在した。≪|世界記録(アカシックレコード)≫という機能だ。この間、<管理神の加護>がレベル5になった。その時に開放された機能がこれだ。

 ただし、まだ使えない。条件に権限レベルが足りませんと出た。よく分からなかったので、それを<管理神の祝福>で調べてみると、



<権限レベル>

・≪|世界記録(アカシックレコード)≫を利用するために必要な権限のレベル。

・権限レベルの高さによってアクセスできる深度が変わる。

・権限レベル1……<管理神の加護>レベル10で開放

 権限レベル2……<管理神の加護>レベル20で開放

 権限レベル3……<管理神の加護>レベル30で開放

 ――以降『詳細不明』



 と出た。残念な事に今の俺の<管理神の祝福>で調べられるのはここまでらしい。

 俺はその日、頑張って<管理神の加護>と<管理神の祝福>を上げる事を決意した。

 閑話休題。

 かなり長く脱線していたが、そろそろ本筋に戻ろうと思う。<管理神の祝福>がレベル10になった事で変わった事はもう一つある。一度だけだが<管理神の祝福>で調べた事柄を連鎖で調べられるようになったのだ。

 つまりどういう事かというと、まずは俺に<管理神の祝福>を使う。



<ルナルティア・ノートネス>

レベル:7

性別:女



 すると、こんな感じで表示される。この表示にさらに<管理神の祝福>を使えるようになったのだ。ちなみに、使うとこんな感じで表示される。

 ああ、今回は『ノートネス』を連鎖で調べた。



<ノートネス(家)>

・ノートネス家はレストノア王国に連なる貴族家の一家である。爵位は伯爵位を賜っている。



 少し情報が絞られている気がしないでもないが十分に使える機能である。あとになって試してみた所ここからさらに連鎖して調べる事は出来なかった。うぅ、レストノア王国が気になる……


 そして、残るは四つ目だけだ。では、発表しようと思う。

 なんと、食事が母乳から離乳食に切り替わり始めたのだ!久しぶりに固形物を食べた時には思わず涙が零れたね。

 それに焦った乳母さんがすぐに離乳食を母乳に切り替えてしまったのはまた別の話だ。あれは悲しい事件だった……


「あぐ、うんぐっ。あぐあぐ、むぐぅ」


 今では母乳と離乳食を半々で交互に与えて貰えるようになった。うん、でも流石にどっちも飽きたかな……



     ◆  ◇  ◆



 久しぶりにお母様達がやって来た。駄目親父は公務でいない様だ。よし。

 俺は少し可動域の広がった手で握りこぶしを作った。そのポーズが取りたかっただけで深い意味は無い。


「きゃー、ルナちゃん今日も可愛いい!」


 俺の動きを見てフローリアお母様が悶える。うん、お母様も相変わらず可愛いらしいですね。

 最近のフローリアお母様は普段使いの堅い軍人の様な喋り方を俺の前で取らなくなっていた。何と言うか……親馬鹿である。


「ルナちゃん、ぎゅー」


 俺を持ち上げて抱きしめるフローリアお母様、それを苦笑いしながら見ているセリルお母様。

 いつもの事なので俺はされるがままになる。

 うぐ、背の低さの割に大きなフローリアお母様の胸に埋もれて息がし辛い。く、苦しい。


「フローリア、ルナちゃんの顔が真っ赤になってるわよ」

「はふっ……はふっ……」

「わっ!る、ルナちゃんしっかりしてぇえええ!!」


 次はがくがくと揺すられる。うう、頭が揺れて気持ち悪い。


「揺らし過ぎよ!今度は青くなってるから!!」

「ど、ど、ど、ど、どうしましょう!」

「貴方も落ち着きなさい子供には良くある事よ」


 相変わらずの慌てっぷりの乳母さん。それとセリルお母様……こんな事、よくあって堪るか!!

 だから俺は、仕方なく切り札を切った。


「うぅ、ふおーいあ」

「「「!?」」」


 そう、初めて意味のある言葉を喋ったのだ。コレで少しは静かになる筈。なるよな?

 ちなみに今は俺が生まれてから10ヶ月目である。


「今……喋った」

「ええ、喋りましたね」


 お母様たちが固まっている。乳母さんも壁際であたふたしている。


 ……。


 部屋に静寂が訪れた。ふぅ……寝るか。

 俺はおすわりした状態からそのままコテリと横に倒れ、寝台に寝そべった。


「え!?寝ちゃうの!?」

「はっ!落ち着きなさいフローリア!」

「で、でも、セリルさん!ルナが喋ったんですよ!?」

「だからといって赤ん坊に無理をさせるつもり?」

「うっ……」

「起きたらまた話してくれるわ」

「うぅ……確かに……」

「それでは私達はここで。後は頼みましたよ」

「……あ。は、はい!」


 壁際でまだ慌てていた乳母さんも復帰したらしい。

 俺は寝台の上で去っていくお母様達を見つめる。セリルお母様はこのままフローリアお母様が部屋に残ると俺を起こしかねないと危惧したのだろう。恐らく正しいので非常にありがたい。

 俺はお母様達が出て行った扉が完全に閉まったのを確認して開いていた薄目を閉じた。


 その日は前世の夢を見た。子供の頃、美月と薔薇園に行った時の夢だ。確か色々な品種の薔薇を見て美月が大喜びしてたんだっけ?

 ……ああ、早く美月に会いたいな。

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