第1章 幼児期

虚飾の大罪者編

第1話 <管理神の加護>

 

――身体中が痛い。

――全身に圧迫感を感じる。


 ……。


 少しして圧迫感が消えた。だが、まだ体の異常は残っている。


――苦しい。息が出来ない。


 後頭部を鈍器で殴られたような痛みが襲った。


「けほっ……けほ……」


 喉に詰まっていた何かが取れた。よかったコレで息が出来る。


――暗い。


 どうやら今の俺は目が開かないらしい。うん、赤ん坊って思ってた以上にキ、ツ、イ……

 静かに俺の意識は闇へと沈んでいった。



     ◆  ◇  ◆



 ここのところずっと意識が浮いたり沈んだりを繰り返している。身体が自由に動かせないのは辛いが、何処かの誰かさんの所の様に不眠不休で社畜ばりに働かなくていいのはありがたい。

 そう、何処かの誰かさんの所の様に!

 当てつけの様に二回思考した。例の何処かの誰かさんにこの思いが届いてくれていれば幸いだ。


 ……。お腹減った。


「おぎゃー、おぎゃー」


 若干だけ棒読みのように感じるが問題無いレベルだろう。


「●×▽◆―*!」


 聴き取り難いが声が聞こえた。うん。何て言ってるかさっぱりわかんねぇや。


「おぶえぇぇぇえええええん!」


 泣く演技をする。というか泣こうと思えば簡単に涙が出た。

 速足で誰かが近づいてきたのが分かった。俺の母親かな?


「×●×●、▼◆、△○◎□✖―」


 口に何かが入って来る。

 俺はそれを必死に吸った。あ、やば。息できな、い……



     ◆  ◇  ◆



 最近ようやく、目が見える様になった。ついでに言うと首も座った。

 そして、……あ、ヤバい漏れそう。


「おぎゃー、びえーん」

「はーい、✖□○いき△すよー」


 何となくだが、言葉は理解でき初めていた。こんな所で神術語を覚えた経験が役に立つとは思ってもみなかったなぁ。

 ……。ふぅ。

 感謝はしない。そんな事をすれば調子に乗りそうだから。代わりに、好き放題扱き使いやがって。と思っておこう。


 ……。

 

 ……。


 つまんない意地張ってごめんなさい。お願いしますので言語理解系のスキルを下さい。

 そんな事を思っていたら視界の端に手紙のマークが入ったアイコンが現れた。モニターの時と同じ拡張現実かな?俺はじっとそれを見つめる。

 ……。残念、何も起こらない。


(あーっと……クリック!点け!起動!開封!

 よし、開いた!)


 どうやら開封と念じるのが正解だったらしい。地味に不便である。

 目の前にリストが表示された。当然、選択できるのは今届いたメールの一つだけだ。

 俺は先程届いたメールを念じて選択した。どうやら向こうで常に行っていた思考制御を上手く使う事で操作できるようになっているらしい。

 目の前にメールの本文が表示された。近い。もう少し後ろまで下がれ。よし。



≪メール≫

題名:やぁ、久しぶりだね。顔見えてないけど。

本文:まずは、おめでとう。この手紙を無事に読んでいるという事は<管理神の加護>を無事使いこなせたという事だね。

 ああ、それともうわかっていると思うけど一応書いておくね。この機能は<管理神の書斎>で君がやっていた様に思考制御を活用する事で使用する事が出来るよ。先に書いておけって?はは、全て教えてあげるほど甘くは無いのだよ!

 それと、――



「ばぶあぁあああーーーー!!」


 俺は思わず、メールの途中に挟まれていたウザさ100%の文を読んで発狂した。

 当然の様に乳母がやって来た。何というかごめんなさい。今は特に何もないんです。

 俺は感情を落ち着かせてメールの続きを読み始めた。



――このメールを読み終えれば幾つかの機能が追加されるよ。勿論、ヒントはないから自分で頑張って調べてみてくれ。

 ああ、そうそう。美月ちゃんの魂はこっちで一度保護して、その後すぐにそっちへと送り出しておいたよ。君の近場に凄く良い物件があったからね。

 さて、美月ちゃんが何処に生まれるか、だけど……聞きたいかい?聞きたいかい?

 仕方ないな~。聞いて驚け!何と君の妹だ!おめでとう!出産は今から大体二年後くらいだね。――



「……!?」


 吃驚した。ふざけて「いい物件で☆」と頼んだ記憶はあったが、まさかそこまで身近に転生させてくれるとは思ってもみなかった。

 ……仕方ない、感謝の気持ちとして先程の事は水に流そうじゃないか。

 後、神様。メールだと性格変わって無い?内心で突っ込みながら、俺は再びメールを読み始めた。



――それと、美月ちゃんには君の事を殆ど話していないよ。言ったのは君も第二世界に転生してるって事だけ。だから、君の事を話すタイミングは任せたよ。

 ああ、それから。あまり問題は起こさないでくれよ。後始末が面倒くさいからね。

追伸:ま、二人揃って楽しくやりなよ、応援してるからさ。あと、大きく動き出すのなら18歳以降をお勧めするよ。



 後半、よく意味の分からない追伸だった。まあ、何か意味があるのだろう。一応、頭の片隅には留めておくか。そう考え俺はメールを閉じた。


《≪音声アナウンス≫の機能が実装されました》

《≪ステータス≫の機能が追加されました》

《≪インベントリ≫の機能が追加されました》

《≪時計≫の機能が追加されました》

《≪パーティー≫の機能が追加されました》

《≪マップ≫の機能が追加されました》

《≪オプション≫の機能が実装されました》


「ばぶっ!?」


 連続して流れる音声アナウンス。芸が細かい事に聞き逃し対策として視界の右端上部にも文字として表示されていた。

 右下のメールアイコンの上に3つのアイコンが増えていた。表示されたのは≪ステータス≫≪インベントリ≫≪パーティー≫だ。

 ただし、最後のパーティーはアイコンが暗転していて使用不可状態になっていた。何か解放条件でもあるのだろうか?



≪パーティー≫

・必要レベル 5

・メンバーに選択できる相手がいません。



 ……。条件見れるんだ。

 すぐに俺は表示を消し、レベルの確認の為に≪ステータス≫を開いた。



≪ステータス≫

名前:ルナルティア・ノートネス

レベル:1

性別:女

種族:人間ヒューマン

HP(生命力):3/3(+1)

MP(魔力):35622/35622

ST(体力):3/3(+1)



 ……ダメだ。突っ込みどころが多すぎる!!

 ――て言うか、え!?何!?俺、女なの!?今まで気が付かなかったよ!?

 下で気づけよって?無茶言うな!身体は殆ど動かない上に下半身の感覚が無いからわかんねーよ!!あと、下向こうにも首が上下に動かないんだよ!!

 それと魔力!え、何コレ。明らかにおかしいのだろ!あと、もうちょっと表示が欲しい!



≪ステータス≫

・必要レベル 3

・<管理神の加護>または<管理神の祝福>の必要レベル 2



 そうですか、それが条件ですか。ありがとうございました!!


「ゼぇ……ぜぇ……」

「○△※□✖大丈夫ですか!?」


 あ、そう言えば言語は!?


《一件のメールを着信しました》


 とりあえず開いてみる。



≪メール≫

題名:ごめん、忘れてた。



 おいっ!!あと、さりげなく考えてる事を読んでんじゃねぇ!絶対どこかで見てるだろ!



本文:言語については<管理神の加護>のレベルを上げれば何とかなるよ。

追伸:あと、思考はこれからも楽しく読ませて貰うね。




「ばぶぁぁあああーーーーー!!(こらーーーーーー!!)」

「ど、ど、ど、どうしましょう!?○△※□✖がー!」


 あ……乳母さん。まだ居たんだ。


 ……。


 迷惑かけてホント、ごめんなさい!

 ……よし、寝るか。

 俺は罪悪感から逃れる様に眠りについた。



     ◆  ◇  ◆



 俺が生まれて四ヶ月が経った。何故そんな事が分かるのかというと、乳母さんが言っているのを聞いたからである。

 ついでに俺が生まれた10月12日には≪時計≫機能に付属した≪カレンダー≫の機能で『ルナルティアの誕生日』と書き込んでおいた。さらに細かく言うと毎年表示で設定してある。便利機能万歳だ。

 そんな事を考えながら俺は寝返りを打った。


 ……。知らない女性と目が合った。16いや、17歳くらいか?

 彼女は入り口で固まったままジッとこちらを見ている。何か怖い。

 ……一向に動く気配が無い。はぁ、仕方ない。とりあえずこちらからアクションを起こしてみるか。


「あぶぅ?」


 とりあえず、何もわかってないかのように小首を傾げてみた。

 ……あ、胸を押さえて倒れ込んだ。


「か、か……」


 か?


「可愛いすぎる!」


 いや、あの、そんな事より早く起き上がって貰っていいですか。乳母さんがあたふたしてるんですけど。


「こ、こんな可愛い子が私の娘だと!?」


 え!?お母さん!?若すぎない!?


「おい、本当にこの子は私の娘なのか!?」


 乳母に掴みかかるお母さん。目が血走ってる。怖い。

 乳母さんも俺と同じ意見なのか、首が捥げそうなくらい全力で頷いている。


「はは、少しは落ち着いたらどうだい?フローリア?」


 扉の向こうから30過ぎくらいの男性が出て来た。何だろう。スゲー、渋い。俳優さんみたいだ。

 雰囲気的にこの人が俺のお祖父さんかな?


「あぅ、あなた。うう、恥ずかしい」


 あ、あなたぁああ!?え、この人もしかしなくても俺のお父さん!?マジか!!

 あ、ダメだ。テンション上げ過ぎた所為で疲れたのか、逆に眠くなってきた。


「ふわぁ~……へぶしッ!」


 扉から流れ込んで来た2月の寒気に俺は体を震わせた。寒い。

 誰も扉を閉めてくれる気配が無いので、俺は自分で毛布を掴み顔近くまでずり上げる。四か月経っても相変わらず腕を上げるのが辛い。


「ふふ、可愛らしい子ですね」


 また、新しい人の声が聞こえた。気になって俺はそちらを向こうとするが、残念な事に睡魔に打ち勝つ事が出来ず、そのまま寝落ちしたのだった。

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