狂想の舞台劇

第7話 模擬戦

「うっ、く！」

――敵対象がスキル≪魔力操作・Ⅱ≫を発動。

　シャルル君は空中に障壁を作り出し、それを足場にして回避した。

　ただ、障壁が割れない様に勢いを足で殺したからかかなりの負担が掛かった様だ。

　それにしても、悪くない判断だ。誰かに戦い方を習ったのかな？

　放たれた槍が少し前にシャルル君のいた場所、つまりは障壁を穿つ。

――バゴン！

　一瞬で障壁は捩じ切られ霧散した。

　今ので威力の確認も出来た訳だ。ただ、障壁ばかりみていると――

「――背中が空いてますよ？」

「がっ――」

――自身のスキル≪大鎌術・Ⅲ≫が自動発動。

　――パッシブ≪鎌の心得≫が発動しました。

――自身のスキル≪鎖縛術・Ⅲ≫が自動発動。

　――パッシブ≪鎖の心得≫が発動しました。

　身体を捻りながら回転して鎖鎌の片割れを投擲。それでシャルル君を打ち落とす。

　うーん、遠心力をつけても重さが無いからそこまでのダメージは入らないか。今度、魔力で重くなるギミックでも組み込んでみるか。

　俺は鎖鎌を引き戻してそのままインベントリに収納する。

――自身のスキル≪鞭術・Ⅱ≫が自動発動。

　――パッシブ≪鞭の心得≫が発動しました。

　続いて鞭を取り出してシャルル君を追撃。

　シャルル君は鞭の着弾点を先読みして再び障壁を展開した。

　鞭を撓らせて着弾点を変える事も出来るが、今回はあえてそれをせず障壁の上に叩き付ける！

「ぐっ――」

　鞭の先に錘が付いていない所為かやはり威力が出ないな。

　障壁を割る程度の威力しか出なかった。

　……仕方ないか模擬戦専用の非殺傷武器だもんな。

　思わず溜息を吐きたくなるのを堪えながら、逆サイドから鞭をもう一振りする。

　鞭の一撃は流石に起き上がっていたシャルル君に回避された。

　ただ、かなりギリギリな回避だったのを見ると上手くやれば当てれない事もなさそうだ。まあ、鞭は打つまでのプロセスが長いから使いにくいんだよね。て訳でチェーンジ。

――自身のスキル≪剣術・Ⅱ≫が自動発動。

　――パッシブ≪剣の心得≫が発動しました。

　ちなみに≪剣術・Ⅱ≫スキルは今のところ進化させるつもりはない。

　俺は細剣も長剣も大剣も使うから偏らせると逆に戦いにくくなるんだよな。

　まあ、いい。それより、シャルル君だ。

　俺は取り出した長剣をシャルル君に向けて構える。

「ふふ、次はそちらからどうぞ？」

「……行きます」

　シャルル君は険しい顔で剣を上段に構えた。

　そんな怖い顔しなくてもいいのにね。笑えとは言わないけど、もう少し気を休めたらいいのに。

「我、【強欲】なる者成り。≪強欲の魔手≫。≪ヴォ―パルストライク≫！！」

――敵対象がスキル≪強欲の魔手・Ⅳ≫を発動しました。≪真贋・Ⅲ≫により看破されたステータスとスキルの25％が触れられるたび一時強奪されます。

　――自身のステータスの内、約1％が強奪される可能性があります。

　――自身のスキルの内、約2％が強奪される可能性があります。注意してください。。

――敵対象がスキル≪剣術・Ⅱ≫を発動。武技≪ヴォ―パルストライク≫を使用しました。

　≪ヴォ―パルストライク≫は高速の突進突きだ。

　魔物や対人慣れしていない敵にはとても有効なスキルだが……

「私の様な毎日、騎士様たちと訓練している相手には悪手ですね」

　一直線にしか飛んでこない突きなど的でしかない。

　俺は半身ずらして突きを回避。そのまま伸び切った腕を取って背負い、地面に叩き付ける！！

――自身が≪格闘術・Ⅲ≫を手動発動。武技≪柔術：一本背負い≫を発動しました。

「ガハッ――」

「終わりです。≪デスぺランス≫≪スパイクダート≫月よ≪加重力≫」

――自身が≪格闘術・Ⅲ≫を発動。武技≪蹴術：デスぺランス≫を発動しました。

――自身が≪弓術：Ⅱ≫を発動。武技≪スパイクダート≫を発動しました。

――自身が≪月魔法・Ⅴ≫を発動。魔法≪加重力≫を発動しました。

　肺上を≪加重力≫で重くした右足の膝で抑え込み、左足で≪デスぺランス≫――捻りを加えた踏みつけを発動する。ただ、顔に当てると真っ赤な華が咲く事間違いなしなので、すれすれの地面を抉った。

　更にあとでまだ避けれたなどといわれるのも嫌なので≪アイテムボックス≫に偽装したインベントリから矢を取り出し≪スパイクダート≫――手投げ矢のスキルで逆サイドの地面も抉っておく。

――自身のスキル≪剣術・Ⅱ≫が自動発動。

　――パッシブ≪剣の心得≫が発動しました。

　あとは喉元に剣の切っ先を突き付ければそれで終わりだ。

「降参してくださいますね？」

「ぁ……うん。参りました」

　俺は立ち上がると掛かっていた全ての魔法を解除し、武器をインベントリにしまって行く。槍は……後でいいか。遠い。

「お疲れ様です。立てますか？」

　俺は手を貸してやりシャルル君を起こす。

　ふむ、漏らしても無いし、緊張で動けなくなってる訳でも無い。優秀だな。

「よければ使って下さい」

　俺はインベントリに常備している日用品の中からタオルを取り出して手渡し、自分は先生に報告しに行く事にした。

「先生。ご満足頂けましたか？」

「うむ！二人共、大変素晴らしい戦いだったぞ！！皆、ルナルティアとメルガノスに拍手だ！」

　戦闘の衝撃が強過ぎたのか拍手は疎らなモノだった。

　うーん、騎士達の拍手はアレはアレでおべんちゃら感が強いから好きじゃないけどこういうのもあんまりなぁ。

　それにしてもみんな静かだな。ああ、折角だからこの際にクラスでの地位を確立しておくか。

「皆様、今回の戦闘は私もシャルルさんも小さい頃から訓練しているからこそできたモノです。恐らく初めからこの戦闘を基準に訓練しても上手くはいかないでしょう。ですがいつか皆さんと一緒に肩を並べて戦えるようになると私は信じています。苦しくても諦めずに私達と頑張っていきましょう！」

　出来るだけ厭味ったらしくならない様に気をつけて皆を鼓舞する。あとは様付けからさん付けにかえて皆との距離を縮めるのを狙う。これで数日分の遅れは取り戻せたと思いたい。

　お、今度はしっかりした拍手が返って来た。やっぱりこういうのがいいよね。

　まあ、これで本当の友達が数名作れれば儲けものといった所だな。あ、そうだ。

「シャルルさんそちらのタオルは差し上げますので自由にお使いください」

　視界端にタオルを使ったはいいが如何するべきか迷って唸っているシャルル君が映ったのでそう伝えておく。

「コホッ、では先生授業の続きをお願い致します」

「うむ！ルナルティアは端で休んでいていいぞ」

「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせて頂きます」

　……如何やら咳払いが風邪のモノと勘違いされたっぽい。

　無理に言い訳するよりも素直に教師の言葉に従った方がこちらにも都合がいいのでみんなと距離を取って腰かける。地面に座るのは嫌なのでインベントリから取り出したイスに座った。

　ついでに肘置き代わりの机も出しておく。テーブルクロスをひいて、ティーセットを出せば、今すぐにお茶会も出来そうだ。あー、ショートケーキ食べたい。今度作るか。

「……あれ、今更ですけど……あの先生の名前何て言うんでしょう？」