第8話 それぞれの実力

 その後の授業は俺達の模擬戦をみて興奮した生徒たち同士の模擬戦だった。

 ふふ、意外と小さい子達が「やぁ!」や「たあ!」といった声を上げてチャンバラをしているのは見ていて微笑ましかったな。

 俺も一通り皆の授業風景を眺めた後、シャロちゃんと模擬戦をした。ちなみに先にシャロちゃんと組んでいた子はシャルル君と模擬戦をしている。相手の交代を申し出た時の彼女の反応はそれはもう見て分かり易いもので……シャルル君モテモテだな。喜んで代わって貰えました。

 今も向こうからキャーキャー言ってる声が聞こえてくる。


「シャロちゃん。肩に力が入り過ぎています。そこまで強張っていると逆に武器を落としやすくなりますよ。こんな風に……!」


 そこそこ強めの力でシャロちゃんの剣を跳ね上げると武器が吹き飛んで行った。

 うーん、シャロちゃんは剣を何処かで習ったのか、基礎が出来ていない事もないんだが少し改善点が多いんだよなぁ。本でも読んで覚えたのかね?


「ぅくっ……」

「あ、ごめんなさい。ついやり過ぎてしまいました。手を見せて下さい」


 考え事をしていた所為で力加減を間違えたのか、それとも弾く時の力の入れ方を間違えたのかシャロちゃんは手首を捻ったみたいだ。軽く上から撫でて患部を確認し≪ヒール≫で直した。


「次は気をつけます。それで、まだ続けますか?」

「ううん。もう終わりにしようかな」

「そうですか。それならシャルルさんの戦い方を見ていれば参考に……なりませんね。アレでは」


 完全に御飯事おままごとだな。

 シャルル君が相手の女の子に合わせてるからか完全にお遊びなんだよな。俺、ふざけてる時以外にアレやられたらぶち切れる自信あるわぁ。


「あら。あの子の戦い方などは参考になるかもしれません」

「あの子?」

「いえ、あの方です」


 危ねっ。お嬢様キャラに意識が入り過ぎてついあの子って言ってしまった……

 シャロちゃんの発言に対しては意図的な勘違いで誤魔化しておく。


「あ!クライン君!」

「あぁ、あの方がクラインさんでしたか」


 ん?シャロちゃんの戦い方に似てるな。

 いや、シャロちゃんの戦い方がクライン君に似ているのか。

 先程の休み時間で聞いた事だがクライン君はシャロちゃんの従兄だそうだ。<世界記録アカシックレコード>で調べてみると従兄という事・・・・になっているだけで本物の従兄では無い様だ。又従兄はとこではあったけどね。貴族の血縁関係は入り組んでて面倒くさいわぁ。

 

「あとあくまであの戦いは参考で真似しようと思ってはいけませんよ?」

「え?な、なんで?」


 やっぱり真似しようと思っていたのか。


「あの方の戦い方は攻撃型の戦い方です。それも力で押すタイプの。それは分かりますね?」

「えっと……うん」

「先程打ちあってみて分かりましたが、シャロちゃんは余り力自慢ではありませんよね。それなのにあの戦い方は少し無理があります。シャロちゃんの場合なら身軽で取り回しの効き易い短剣などの方が向いていると思われますよ」


 「短剣かぁ」と呟くシャロちゃんから視線を外して他の人達の様子を見る。

 やはり目に留まるのはヴァイオレットだ。俺も≪鞭術≫の派生の派生の≪鎖縛術≫を使うから彼女の鞭の扱いが一定の鎌度まで達しているのが見ていてわかる。というか並の冒険者より強いんじゃないかな。シャルル君に着いていってるだけあるよね。


 と、シャロちゃんがコッチをちらちら見てる。


「そうですね。一度、使ってみますか?」


 さっとインベントリから以前魔改造用に買った短剣を取り出してシャロちゃんに手渡す。


「わぁ、綺麗」

「淑女の嗜みです。ではなくて」


 まあ確かに色とりどりの魔石は綺麗だよな。

 ちなみに鞘に結構えげつなく理不尽な仕組みがしてあるので渡すときに鞘は回収した。


「軽く振ってみてください」

「こう……?」

「いえ、もう少し入れ込む感じで……そうです。そういう感じです。あと、下斜めの切込みはこうですね」


 少しじれったくなったので俺はシャロちゃんの手を後ろから掴んで動作を身体に教え込む。

 よくフローリアお母様にこうやって教えて貰ったんだよな。


「ぉぅ……じゃなくて、こんな感じ?」

「そうです、そうです。いい感じですね」


 子供だから別に小さいも何も無いと思うんだが。そんなに反応されるとかえってこっちが恥ずかしいわ。……男子にはやらないように気をつけよう。


「ごめんなさい。くっついて暑かったですね」

「いや、その、大丈夫……」


 何だこの誰も得をしない状況。

 女子にもやるものじゃないな。……特にミラにはやらない様気をつけよう。


「とにかく。一度やってみましょう。どうぞ一度振るって来てみてください」

「……うん。って、え?」

「はい、何時でも構いませんよ」


 俺はシャロちゃんにどうぞと言わんばかりに両手を広げて見せる。


「で、でも、危ないんじゃ」

「大丈夫ですよ。幾ら向いていると言っても、今日使い始めたばかりの人に当てられるほど私は甘くありませんわ」


 まあ、こういってもすぐには振ってこれないよな。

 ……仕方ない。


「それでも心配というなら私も斬りかかれば対等ですか?」


 そう言って闇属性で作ったアイテムボックスの入口っぽい空間から真剣をチラリとみせて軽く脅してみる。


「ぁう……分かった。行くね」


 ふむ、思っていたより落ち着くのが早い。それに決断力もある。俺が何と言っても引かないのを感じ取ったか?

 案外、シャロちゃんには戦闘の才能があるかもしれないな。


「ふふ、はい。それでいいのです。それに先程も何時でも構いませんよ?」


 何時でもの部分で不意打ち気味にシャロちゃんの短剣が振られる。狙いは胴か。

 取り敢えずまだ反撃はせずに軽く後ろに跳んで回避する。

 続けざまに斬り払いが放たれたのでそれも肩の可動域の外に移動する事で回避する。

 シャロちゃんは払いを放った体勢から回転して、もう一度斬り払いを放とうとした。流れとしてはいい流れだが……コレは頂けないな。

 体勢が崩れた相手に対して威力の乗った一撃を放てる回転斬りだが、その実、崩れていない相手に対しては唯の隙だ。

 そんな訳で俺はシャロちゃんの背中を蹴り飛ばして距離を取る。って、危なっ。


「シャロちゃん。武器を持ったまま俯せに倒れてはいけません。自らの武器が刺さって死ぬなど笑い話にもなりませんからね?倒れる時は背中からまたは武器を持たない側の肩から、それを意識して覚えておいてください」


 完全に今のコースだと左肩を切っていただろう。

 まだ子供のシャロちゃんは軽いから軽く切るだけで済むだろうが、大人になればそうはいかないだろう。下手な癖が付いたらいけないからね。

 今度、シャロちゃんには受け身の仕方を覚えて貰おう。

 っと、そろそろ落ち着いただろうし身体を放しても大丈夫かな?


「短剣は素早さが売りの武器です。始めは小刻みなダメージを相手に蓄積する事だけに意識を向けるといいと思います。そうですね……」


 俺は何か例を見せる為の練習台を探す。

 お、アレでいいか。あの藁人形。あとはシャルル君で。


「一撃の威力などは……少し貸してくださいね。この様なッ!形で補う事ができます」


 シャロちゃんから短剣を受け取って、ギミックを発動する。

 短剣に施したギミックは魔力による刀身の延長だ。魔力の刀身は反りを大きめにしたものを設定しているので鞘にしまえば疑似抜刀術の様な事も出来る。

 コレを使えば、30mほど離れた場所にある藁人形も斬れるのだ。何より俺の魔力の刃なので切れ味が異常に良くなるのも利点だな。


「如何です?この様に魔道具を使って補う方法などもあります。他にも……シャルルさん少し宜しいですか?」

「えっと」

「シャロちゃんに少し短剣の扱いを見せたいのでお付き合いしてもらいたいのですが」


 ついでに先程、模擬戦相手を変わって貰った女の子にも少しの間だけと言ってお願いする。ただ、納得していなさそうだったので、シャルル君に次の時間も彼女と組んで教えてあげられない?的な事を頼んであげた。すると、態度が逆転した。女子怖いわー。


「では、お願いしますね」

「はい、こちらこそお願いします」


 丁度、女の子の模擬武器が短剣だったので彼女から短剣を借りた。

 模擬武器があるなら無理して本物を使う必要はないしね。

 尚、コチラを凄い形相でちらちら見てくるヴァイオレットは無視する事とする。女子怖いわー。


「行きますよ。≪ラッシュ≫」


 スキル≪格闘術≫の高速連撃を短剣を持ったまま発動する。


「うわっ」


 驚いた声を挙げながらもシャルル君はしっかりと反応している。流石だ。

 ただ、コレはシャロちゃんに戦い方のお手本を見せる模擬戦だ。全て避けたり防がれていては困るのだ。


「≪足払い≫≪スラッシュ≫≪ラッシュ≫≪インパクト≫≪デットリーミキサー≫」

「うぇ、ちょ、まっ」


 足払いをジャンプして避けた所で下方からの切り上げスラッシュを放ち、それを防いだ盾を腕ごと跳ね上げる。

 そのままラッシュで体のいたる所を模擬短剣でなぞり、打ち上げられた体勢から無理矢理戻してきた盾に柄頭で衝撃打インパクトを放つ。

 再び盾を吹き飛ばしたところで腹部に回転突きの≪デッドリーミキサー≫を放って終わりだ。


「この様に短剣は相手を置き去りにするほどの高速の連撃が取り柄です。本当に強い一撃は絶対に当たるタイミングで放つものですよ。分かりましたか?」


 そう言って振り向くと、シャロちゃんと女の子が大きく口をあけたままコクコクと頷いていた。……しまったやり過ぎたな。

 そう思いながらも俺はシャルル君の治療を優先した。結構いいの入ったしね。模擬武器でも痛いモノは痛いのだ。

 治療の為に体操着の上を捲るとかなり沢山の傷跡があった。うわ、青痣痛そ。

 あまりの傷跡の多さに少しサービスして疼きそうな過去の傷も幾つか直してしまった。まあ、バレていないと祈りたい。

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