狂想の舞台劇

雪桜兎

第0章 管理神の書斎

第0話 プロローグ

 

 二つの影が舞う。


「はっ!」

「ふっ!」


 突き出された白と黒の剣同士が擦れ、鉄と鉄のかち合う音が響く。

 二、三、四と打ち合いは続き、五度目で鍔迫り合いになる。


「貴様! 姫を何処にやった!」

「言う訳が無いじゃないです――っか!!」

「くっ……」


 俺は目の前の憎き白騎士を蹴り飛ばす。

 白騎士はそれに合わせて自分から後ろに跳び距離を取った。衝撃は逃がされたが、それでも確かに肉を打つ感触を感じた。

 どうやらしっかりとダメージは入っていたようで、白騎士は腹部に走る鈍い痛みに思わず膝をついた。俺は白騎士に近づき止めを刺すために剣を振り上げ……


「コレで終わ――」

「レスタ様!」

「なっ、リーシャ姫!?見張りは何をやってい――」

「そこだーーーーー!!」


 俺は聞こえる筈の無い声に思わず振り返る。その隙に乗じて白騎士の剣が俺の心臓を貫いた。

 目に映るのは確かに俺が捕らえた筈のリーシャ姫。この国の第3王女で白銀の髪を持つ美姫だ。

 幼き俺は彼女に一目惚れして求婚した。だが、彼女はそれを断り続けた。そして先日ついに目の前にいる憎き白騎士と婚約しやがったのだ。

 そこで怒った俺は彼女を誘拐し俺の城へと無理矢理に連れ帰り幽閉した……


 と、いうのがこの物語の設定で、今は白騎士が姫を取り返すクライマックスシーンなのだ。こてこてで使い込まれたような設定だが、それでも使い続けられるのは常に一定の人気が存在するからだろう。

 そして、お察しの通り俺が悪の貴族役です。ちなみに白騎士役が一つ上の先輩でリーシャ姫役が幼馴染の美月みつきである。


 物語はご想像の通り、白騎士が悪の貴族こと俺を倒して姫と結ばれハッピーエンド!……になる筈だった。だが、現実という物語はとんでもない方向へと進んでいく。


「カフッ……」


 体に激痛が走った。俺は訳が分からず眼だけを動かして自分の体を見下ろした。


――痛い


 どうやら白騎士の持つ剣が俺の心臓に突き刺さっているらしい。当然、俺と先輩の持つ剣は偽物レプリカで、確かに完成度は高かったが本物では無かった……筈だ。


――苦しい


 血がせり上がっていくのを感じた。気管が血に塗り潰されて息が出来ない。俺は間違いなく即死コースだと悟る。


――熱い


 全身を焼くような痛みだ。

 俺は体から力が抜けていくのを感じた。

 先輩は物語通りに一歩後退り俺の倒れるスペースを空けた。そこへ体を支える力を持たない俺は当然の様に前のめりに倒れ込む。その時、先輩と目が合った。


――嗤っていた


 既に霞んでいる目でも何故かその表情を何故か明晰に読み取る事が出来た。歯噛みしたくとも力が一切入らない。

 まだ、かろうじて機能している耳に先輩あいつと美月の声が聞こえた。どうやら物語通りに舞台は進んでいるらしい。リアリティーを出す為に血糊で演出する予定があったのでそれが裏目に出たのだろう。


「糞がぁ……」


 何事もあいつの思い通りに進むんでいるのが分かった。

 気に入らない。

 だが、そんな俺の意思とは関係なく意識は沈んでゆく。


「だれ……でも……いぃから……たす、け……て……く……れぇ……」

『誰でも良いから助けてくれ~~~!!!』


 俺の死に際の言葉に知らない男の情けない声が重なった気がした。

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