第16話 ノートネス邸のお菓子事情
「ん~。はぁ……よく寝た」
昨日はシャルル君達オリエンテーションパーティーでの事前確認を終えた後、ぶらぶらと街を散策して幾つかの素材を購入して帰ってきた。
買ったものは主に裁縫と料理に使う材料で、特に食材は結構な量を購入してきた。それこそ昨日のクエストの報酬から足が出るくらいにはかかったな。
最近、騎士団やメイド連中が遠回しにお菓子を強請ってくるので結構な量の材料を消費するのだ。流石に3時のおやつに使う食材を勝手に厨房の冷蔵庫から使う訳にはいかないので渋々自腹を切っている。お陰で【カミルミ】で薬草類の生産体制を敷かなければならなくなった。さらに言えばルナとしてそれらの薬草を持っていけないので態々神無としてギルドに出向かないといけなかった。
「さて、今日は何作りましょうか……」
なんだかんだ言ってお菓子を作る俺はすごいいい奴だと自画自賛したいところだが、使用人達にいいように使われてるだけな気もしてなんか虚しくなってきたな。
……。
取り敢えず身支度を整えて食堂に向かうか……。
◆ ◇ ◆
「おはよう御座いますリステルお兄様」
「おはようルナ。今日は如何するんだい?」
挨拶をした後リステルお兄様の対面の席に着き早朝の会話を始める。
いつも通りの質問に俺は今日の予定を順に話していくことにした。
今日は早朝から騎士団の詰め所に顔を出すつもりだ。そこで一汗かいた後、昼食をとり、お菓子作りに入る。そして、騎士や使用人にお菓子を配り、三日後にある新入生オリエンテーションの準備をするつもりである。その後は晩御飯を食べて、いつも通り自室で刺繍や【カミルミ】の確認や調整を行うつもりだ。
当然最後の所は言えないので刺繡や読書をすると伝えている。
「……といった流れです」
「うん、いい一日だね。ルナのお菓子は美味しいから僕も楽しみにしてるよ」
「はい!出来上がったらお部屋にお持ちしますね!」
「ちなみに今日は何を作るつもりなんだい?」
「それがですね……。色々と材料は揃えているんですがまだ何を作るかは決めていないんですよ。リステルお兄様は何か食べたい物はありますか?」
困ったら人の意見を聞くのが楽でいい。
メニューを決めるのも楽しいけどアレンジを考えるのもそれはそれで楽しめるからね。
「そうだなぁ。今日は口当たりの良い食べやすいものを食べたいかな。ルナは焼き菓子以外の物を何か作れるかい?」
「焼き菓子以外ですか……」
となると冷やして固める系か。
「ゼリー、羊羹、プリン、アイスクリーム、チョコレート……」
うーむ。しっくりこない。
カカオが殆ど出回っていないのでチョコレートは珍しいだろうが以前味付けでチョコ味の物を作った事があるので今回は却下かな。
お餅なんかがあったら生チョコや雪見だいふくなんかが作れるんだけど肝心のもち米がないからなー。あぁ、雪見だいふくが食べたい。
……こほん。今日なんかだと動いた後に食べるお菓子になる訳だから甘いものが食べたくなるだろうしそっち方面で何か考えよう。砂糖よりも蜂蜜とかがいいか。メープルシロップもあるしホットケーキとか……ああ、あれ完全に焼き菓子だった。
んー。如何するか。洋風がダメなら和に走るか?
「みたらし団子、あんころ餅、煎餅、善哉、最中」
まず餅がないのであんころ餅と煎餅は無理だがみたらし団子ならいけるか?片栗粉はあったはず。
「そうですね。みたらし団子を作ろうと思います」
「みたらし団子?また変わったものを作ることにしたんだね」
「折角なので変わったものにも挑戦してみようかと……。あの、多少は御目溢しして頂けますか?」
「ふふ、ルナも緊張するんだね」
「お兄様ご冗談を……私はいつも初めての事には緊張しています」
そう言うと、リステルお兄様にはははと笑って誤魔化された。
俺だって人並みに緊張したりする。まあ、今回のみたらし団子は前世で何度か作った事があるのでそこまで緊張はしてないのだが……
……。
ま、まあ。俺だって舞台に上がる前なんかは緊張したものだ。緊張しない訳じゃない。……あれ緊張したか?
……。
◇ ◆ ◇
朝食後は予定通り騎士団の訓練場に向かうのだ一度自室によって服を変えた。
騎士団の訓練に参加するときは主に黒が基調の≪魔装≫を纏うように決めている。それは以前、白魔力を基調の≪魔装≫で出向いた時に騎士の一人に怪我を負わせたのが原因だ。
熟練の騎士に相手の隙をつくのが得意な者がいて、その人と戦ったときに綺麗に隙を突かれて一撃を入れられたのだが、白魔力つまり反射の力が働いて腕を痛めてしまったのだ。運の悪い事にその時の攻撃は突きだったんだよなぁ。
突きは力を反射させると諸に腕に衝撃が跳ね返ってしまうのだ。その為、騎士のおじさんの腕というか手首は案の定折れてしまっていた。
幸いにも外見では判断しにくい折れ方だったので無詠唱で手早く治し事無きを得たが、その時の経験から衝撃を吸収して留める闇魔力の≪魔装≫を使うように心がけていた。
さて今日騎士団に呼ばれた理由だが普段のような鍛錬をメインにしたものではない。如何やら今日数名新しい騎士を迎えるそうなのだ。
面白そうなので見学していいかと聞いたら是非と言われた。なんでも調子に乗ったのがいたら
そうこうしているうちに訓練場に着いた。
既に訓練場には厳粛な空気が流れている。早速俺は裏口からスッと気配を殺して中に入り見学させてもらうことにした。
気配は消したまま姿だけ現して騎士団長に手を振る。少しして向こうもこちらに気づいたようで軽く会釈された。一部騎士団員がそれに気づき視線を追ってこちらを向いたので再び姿を隠した。
それをみて俺の意図を何となく察したのか騎士団長が話を始めた。
「本日より新たに20名の騎士候補生を迎える!諸君らは多数の応募から選ばれた優秀な人材だ。だがしかし!ここにいるのはさらにその中から選ばれた精鋭のみである!諸君らの中から正真正銘の精鋭たる騎士になることが出来るものは恐らくこの片手で足りる程度の数しか出ることはないだろう。それを理解した上で弛まぬ努力を続けるが良い!訓練を乗り越え本物の精鋭が何名残るか楽しみにしている!」
短いが力のある言葉を残した騎士団長は後ろに戻っていった。
次に前に出たのは副団長。こちらの言葉はすでに終えているようで今日これからの一連の流れを説明しているようだった。
それにしても午前は本当に基礎鍛錬しかしないんだよな。地味にきついだろうから騎士候補生の人たちには頑張ってもらいたいものだ。
折角なら午後の訓練も観たいしお菓子の準備を今から始めるのもありかな?昼食作りで厨房も慌ただしいかもしれないが俺が手伝えばその分早く終わるだろうし早く終わらせて早めのお菓子作りに取り掛かるとしよう。うん、そうしよう。
「おはようございます。厨房長」
「おお!これはこれはルナ様。今日はお早いですね」
取り敢えず何を手伝えばいいのか分からないので中華鍋を振るっている厨房長に声をかけることにした。
厨房長はガタイの良いおじさんで今年で46になるらしい。本人はまだまだ若いと張り切っている。実際トップに立つにはまだ少し早い年だし若いというのもあながち間違ってはいない。30はおじさんおばさんではありません。いいですね?
「それで、今からお菓子作りですかい?」
「いえ。最近、お菓子作りしかしていませんので少し普通の料理もしてみたくなりました」
「ほうほう、今日は何を作るつもりで?」
「あ、そうではなく。お菓子も作るつもりなのですけど普通の料理もしたいなと……」
「そうでしたか。では、昼に一品付け足しますかい?」
「いえ、そこまでして頂くなくても……あくまでお手伝い程度にと思っていたのですが……」
「お気になさらず。ですがルナ様がそう仰るなら何か考えますので少し待ってください」
あれ、気を使わないように持っていった結果逆に気を使わせてないかコレ?
厨房長には結構お手伝いして貰ってるか極力迷惑は掛けたくないんだよな。
「あの、やっぱり迷惑でしたね。ごめんなさい。また、お昼過ぎに参ります。それでは――」
「ちょ、ちょっと待ってください。ぜひ、俺の場所を手伝ってください」
「え、ですが、迷惑では……」
「いえいえいえ、迷惑とかでは全くありませんのでどうぞお手伝いください!」
あ、あれ~?退散しようとしたら失敗したぞ?
冷や汗をかく厨房長だが、こちらもどう対応していいのかわからないんだが……。
う、うーむ。迷惑掛けるだけ掛けて退散するのはいくら何でも酷過ぎるし、ここはしっかり働いて自分の失敗を取り返すことしよう。
「あの、ありがとうございます。私、頑張りますね」
「は、はい。一緒に頑張りやしょう」
さて、それじゃ早速張り切って昼食を作りますか!!
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ストックが尽きましたのでこれより不定期更新になります。
作者はあまり書く速度が速い方ではりませんのでかなり遅くなると思いますがのんびり見て頂けると幸いです。
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