第15話 反省会

 倒したグリーンウルフを解体し、討伐証明部位、魔石、素材となる部位を確保した後、俺達は無事目的の薬草を採取する事ができた。

 そして、少し早いが冒険者ギルドに帰還する事にしたのだが、その帰路の途中でフォレストウルフと遭遇した。フォレストウルフはグリーンウルフの進化個体で一匹または番で行動する魔物だ。

 今回遭遇した個体は運良く番だったので丁度いい戦闘訓練の相手となってくれた。ちなみに俺が戦闘に入ると一瞬で終わってしまうのでシャルル君同様に加減して戦闘するというルールになった。ただ、ピンチになったら助力して欲しいとのこと。

 都合いいなぁ……と思わないでもないが、まあ、強くなって貰った方が守る必要がなくなって楽でいいかと自己完結した。一応、へルネスから金貰ってるからな。お守しないと。


 で、遭遇したフォレストウルフの番はシャルル君が一体を抑えている間にシャロちゃんとヴァイオレットの二人掛かりで片方を倒すという作戦で討伐する事が提案された。正直、連携?と思わないでもない作戦だが、急造のチームなら正解の作戦だろう。

 ただ、一つ言わせて貰いたいのはその急造の連携を真面な連携に高める為の前日行動なのだから、少しくらい無茶したっていいと思うのだ。いや、思うのだ、じゃなくてはっきり言ったわ。


 ……まあ、そんな訳でそこまで接敵までの時間が残っていなかった事もあり、俺が司令塔となって即興で戦闘に興じる事となった。


 戦闘の内容だが、シャルル君を正面に据えて攻撃を防いでもらい、両サイドから抜けようとすればヴァイオレットが鞭で遮り、二人が抑えている間に俺とシャロちゃんが魔法で仕留めるという展開にした。クライン君はもしフォレストウルフが俺とシャロちゃんの方に抜けてきた時の護衛係だ。

 そして、そんな中で俺はしっかりと手加減のルールを守るためにオーバーキルの攻撃魔法ではなく、支援魔法や妨害魔法などをかけるのに徹した。後は本当に威力を絞って撃った初球魔法により牽制したくらいだ。

 ちなみに止めを刺したのはしっかりシャロちゃんの攻撃魔法であった。当然ながら過剰火力禁止令を出されている俺は殺ってない。


 その後はグリーンウルフの時と同じくフォレストウルフを解体して、証明部位、魔石、使える素材を回収。再び帰路についた。

 ああ、そうそう、今更だが素材は各自で分けて持っている。

 俺のインベントリにポイッはしていない。理由は分かれて行動するときのことを考えてらしい。これはシャルル君が言い出した事でヴァイオレットが何とも言い難い表情をしていたことに思わず笑いそうになった。

 恐らく俺に任せてしまいたいけどシャルル君の言い出した事だから文句も言う気になれない……でも、持ちたくない……という感情の鬩ぎあいがあったのだろう。尚、俺はアイテムボックス(インベントリ)の所有者本人なので遠慮なく放り込ませてもらった。

 その時のヴァイオレットの顔は見ものだったな。当然の如く突っかかってきたので戦闘中に動きにくいやら何やら言ってはぐらかしておいた。


 その後は何事もなく無事に冒険者ギルドに着き、依頼の完了を報告を済ませる事ができた。

 で、依頼の報酬と素材を売った金銭だが、少しの話し合いで山分けに決まった。ただ、俺的には色々なものに使える魔石が欲しかったのでその分の査定額を引いた金額と魔石を譲って貰えることになった。


「それにしても予想より早く依頼が終わってしまいましたね」

「確かにそうですね……」


 現在の時刻はお昼過ぎといったところだ。

 まだまだ、御者に伝えた時刻までに余裕がある。


「これから如何しますか?解散します?それとも反省会でも致します?」

「反省会したいです!!」


 シャロちゃんが食いついてきた。というか反省会に食いつくってどれだけ友達がいない人生を送ってきたのさ……。なんか切なくなった。


「あはは……えっと、皆さんもそれでいいでしょうか?」

「ん。問題ない」

「私も構いませんわ!」

「あ、はい。僕も大丈夫ですよ」


 全員の了承を得たので佳夜(神無)の時、シャルル君達に連れられて来たカフェでコーヒーブレイクと洒落込む事にした。コーヒーはないけど。というか反省会か。


 取り敢えず各自適当なメニューを注文する。

 各自が選んだメニューは、俺がチョコレートケーキにアップルティー、シャロちゃんがバナナパフェにアップルティー、シャルル君がアップルパイにアイスティー、ヴァイオレットがDXパフェセット、クライン君がモンブランにグリーンティーだった。

 それにしてもDXパフェセットとか頼むバカって実在したんだな。パフェ自体は嫌いじゃないがDXとかおなか壊すだけだろうに。余談ながらチョコレート以外は全てこちらの人が見つけた食品なので日本にいたころとは全く共通性のない単語だったりする。まあ、味も見た目も同じなので呼び方は変えなくてもいいだろう。尚、チョコレートは日本風の発音でチョコレートだ。違和感半端ない。


「さてと、それでは反省会を始めましょうか。反省会の形式は順番に各自が思った注意点を挙げて、その課題に皆でどう解決するかを話し合いをする……というものでよろしいでしょうか?」

「はい。大丈夫ですよ」

「はーい!」

「まあ、妥当なところですわね」

「それでいい」


 あれ、というか今更だけど何で俺が仕切ってんだろ?

 ……ああ、そうか会話の主導権を取ろうと頑張った結果か。あれ、俺なんか間違えてるような気が……。ま、まあ、間違いなく目的は達成されているしOKとしよう。


「では、まず発案者の私から挙げさせて頂きますね。

 まず、シャルルさんですが皆さんに役割を果たさせる為にかなり力を抑えていたようでしたね。今回は各々の実力を見る為の場でしたのでその判断は有難くもありながら、その結果シャルルさん本人の実力があまり把握できなかったのは残念でした。取り敢えず見させて頂いた範囲での注意点を挙げさせて頂きますとやはり重さでしょうか。シャルルさんの場合は実力が優れているので低姿勢で構えるなどの工夫であまり弾き飛ばされるような場面は見られませんでしたが、これから重量級の敵と戦うような事になった時、吹き飛ばされて敵を止めておくという行動に不都合が生じる可能性は高いと思われます。対策としては金銭の問題が絡むのでおいそれと簡単には言えませんが、やはり鎧などを購入して身に着けるのが一番の早道だと思います」

「うっ。ぐっ、はぃ……」


 一息にシャルル君の注意点を挙げきるとシャルル君も思うところがあったようで素直に受け入れてくれた。


「次にヴァイオレットさんですが、左右に鞭というよりも蛇腹剣ですか、まあ、そこはいいです。蛇腹剣を左右に振るとき正面のシャルルさんに当たらない様に気を使われていましたね。とても、いい判断だと思います。ですが、その所為で蛇腹剣をふるった後の逆サイドへの牽制が遅れているのが度々目につきました。今回は私がカバーしたので何も問題ありませんでしたが、いずれこの問題には直面するはずです。差し当たっては、蛇腹剣の引き戻し機能の向上、攻撃中の魔法使用などが弱点克服への一助となるのではないかと思います」

「い、言われなくてもわかってますわ!今家の者に命じて改良中ですの!」

「そうでしたか。では、後の課題は攻撃中の魔法使用ですね」


 見栄なのは明らかだが俺は大人なので触れないでやる。そう、見た目は子供でも精神は大人なのだ!

 ……うん、言ってて自分で悲しくなったわ。……次、シャロちゃん。


「シャロちゃんは……そうですね。比較的よく動けていたように感じます。一体一体しっかり対処していてくれたので不確定要素が減りとても楽に指示を出すことが出来ました。ありがとうございます」

「うん!」

「そして、シャロちゃんの課題ですが、まず、ヴァイオレットさんと同じく移動しながらの魔法使用ですね。これが出来るだけで非常に戦略の幅が広まると思います。

 次に範囲攻撃の習得ですね。今のところシャロちゃんは単体を攻撃する術しか持っていませんので、まだできることが少ないのは分かりますか?ふふ、分かっているようですね。そして、選択肢を増やすという観点ではまず先に即時発動できる遠距離攻撃を覚えるのもありかと思います。まあ、これは先に挙げた移動しながらの魔法使用ができるようになれば問題ありませんね。魔法を発動待機状態で留めておけばいい訳ですから。

 今回シャロちゃんには、シャルルさんが転がした魔物の止めを刺す役や魔法使い役として動いて貰いましたが、何れは後衛の護衛役や中衛として戦闘の安定化を行う役回りなどにつくことになると思います。その時に如何動くかをイメージしてみるのもいいかもしれませんね」

「うん……ルナちゃん。私頑張るよ」

「はい。応援しています」


 ふぅ、最後はクライン君か。

 と言ってもなぁ……。今回は護衛役に回ってもらったからあんまり注意すべき点も課題も挙げられないんだよな。というか喉乾いたな。アップルティーまだかな?

 ちらりと店の奥に視線を向けたがまだ来るような様子はなかった。

 となると、先にクライン君の課題をどうするか決めないとな……うーん。


「最後はクラインさんですね」

「ん。よろしく頼む」

「今回の事前練習で一番役割に忠実に動いていたのはクラインさんだと思います。護衛という役割は常に気を張り続けていなければいけない上に前方で行われている戦闘に参加できないもどかしさを感じ続ける非常にストレスのたまる謂わば外れな役回りです。それを文句ひとつ言わず最後までやり遂げる精神力は素晴らしいものだと私は思います。

 そして、課題ですが……申し訳ありません。今申し上げたように今回あまりクラインさんの戦闘を見る事が出来なかったのでクラインさんの課題を考える事が出来ませんでした」

「そうか……」

「ですので、今度の授業で一度ペアを組みませんか?その時にしっかり課題を挙げて見せます。シャロちゃんもよろしいですか?」

「うーん、いい……よ」

「頼む」


 さてと、まあ、こんなものかな。

 

「では、次はシャルルさんどうぞ」

「えっ……あー、えっと。全部ルナさんが言っちゃったので……」

「あ、あら?」


 全員の顔を見回してみるとヴァイオレットでさえ渋々頷いている。

 えーっと、やっちゃったかな?


「お待たせしました。アップルティー二つ、バナナパフェ一つ、アップルパイ一つ、アイスティー一つ、DXパフェ一つ、グリーンティー一つです」


 ふう、助かったぁ。


 そこからは和気あいあいと学校や普段の私生活の話などをして食事を終え、各自解散した。

 思いの外、早く予定が終わったので、俺はスフィアさんの服飾店や青果店、精肉店などがある市を回ったりして帰ったのであった。

 何か忘れてる気がしないでもないが今日は割と疲れたので早く寝ようと思う。

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