第14話 障害排除

 グリーンウルフ達が迫ってくるのを感知した俺は、エンドロンドを地面に着けたまま詠唱を開始する。


「土より、出でし、槍よ、我が、敵を、穿て≪アースランス≫」


 グリーンウルフ達の反応を示す光点の数歩先に魔法を展開。

 そして、発動。発動のタイミングで光点の位置が全て重なり大半が赤から黒に変わる。残りもその場から動かなくなった。

 マップだよりで発動した≪アースランス≫――地面から槍が突き出してくる魔法――は、的確に群を殲滅したらしい。


「グルアアアアアアアアアア!!!」


 と思っていたのだが……殲滅したというのは思い違いだったようだ。

 如何やら一匹、生きの良いのが混じっていたらしい。体を縫い付けた土槍を破壊して、雄叫びを上げながらこちらへと再度移動を開始した模様だ。


「一匹仕留め損ないました。来ます」

「はい!」

「了解」

「分かってますわ!」

「うん!」


 シャルル君達の気合は十分という感じだ。

 この分なら援護だけでいいか。恐らく≪アースランス≫の魔法でいいぐらいのダメージを負っているはず。


「炎よ、彼の身を、燃やせ≪パワーライズ≫

――風よ、彼の者の身を包み、運びたまえ≪ソフト・ウィンド≫

――光よ、癒したまえ≪ヒーリング≫」


 最低限の補助をかけたタイミングで一回り大きな群れのボスと思わしきグリーンウルフが飛び出てきた。警戒していた個体と同じ個体の様だ。

 脇腹に大き目な傷を負っているところから見るに先程の土槍はしっかりと敵を捕らえていたらしい。


「先手必勝!行きます!!≪ブラスター・ストライク≫!!」


 言葉通りシャルル君が飛び出てきたグリーンウルフの先手を取って≪剣術≫スキルの技能≪ブラスター・ストライク≫を使用した。

 ≪ブラスター・ストライク≫は突きの剣技で高速の突進突きを行うというものだ。まあ、言っては悪いがフローリアお母様のそれと比べると悲しくなるほど練度が低いように思える。

 これでも優秀な方なんだろうがなぁ。やはり、達人の技は凄い。【塔】の特務部隊員は伊達じゃないらしい。あれ、気がついたら目の前だから本当に怖いんだよな。お陰様で防御がとても得意になりました。笑えねえ。


「グルァア!」

「はあああ!!!」


 流石に正面からの突きは爪で防がれてしまったようだ。

 ただ、大罪スキルで増強した筋力は流石な様で防いだ爪を上に弾き飛ばしていた。その隙にヴァイオレットが腰のレイピアを抜き、喉元を貫きに――って、やば。


「≪魔装:黒鎖・展開数2≫!!」


 服の中に常に潜ませている黒球を即座に黒鎖に変換し、ヴァイオレットとその反対側・・・から走り込むシャロちゃんに伸ばす。


「≪狂歌乱舞≫!はぁっ!!クラインさん代わりに!」


 二人の胴体に巻き付けた黒鎖を勢いよく引いて、二人をグリーンウルフから引き離す。


「グルォォオオアアアアアアアアアア!!!!!」


 次の瞬間、グリーンウルフの咆哮が放たれ近くにいたシャルル君が吹き飛ばされる。しっかりと盾を構えていたので問題はない筈だが、衝撃によるスタンを喰らって動けなくなっているようだ。

 その状況を俺のそばで見ていたクライン君は先程の言葉を理解してすぐさまシャルル君のカバーに入った。


「≪魔装:黒鎖・閉界≫」


 俺は二人を引っ張るのに使った黒鎖を元の球状に戻し、服の裾から中にしまう。


「二人はクラインさんの援護に入ってください。シャロちゃんはあまり接近せずに魔法で支援を!私はシャルルさんの治療に向かいます!」

「なっ、待ち……」


 俺は素早く指示を残し、シャルル君の基に駆け寄った。

 彼の体を起こして傷がないかを急いで確認する。


「怪我はなさそうですね。衝撃により意識を失っているだけですね」


 そう口で言いながらも、内心ではかなりイライラしていた。

 何故ならステータス上に『気絶』とは表示されていなかったから。気付いててわざと起きるつもりがないらしい。俺の実力を見るためか?

 ふむ、少し制裁を加えないといけないようだ。


「仕方ありません。我慢して下さい。ふっ!」


――パシンッ!!


 子気味良い平手打ちの音が響いた。気絶していないのだから状態異常回復の魔法など使う気はない。何なら≪衝撃ショック≫の魔法陣魔法でもぶつけてやろうかと思ったくらいだ。

 ちなみにビンタは演技下手がムカついたので、かなり強めに行かせてもらった。その程度の演技で俺を騙そうとは100年早い。もっと腕を磨いて来て貰いたい。


「さあ、シャルルさん起きてください」

「……」

「仕方ないですね。もう一撃……」

「――はっ!?僕は吹き飛ばされて!」


 白々しい。

 如何やら二発目は避けたかったようだ。まあ、かなり力込めてはたいてやったからな。どれ位かというと一般人が受けたら本人の意思とは関わらず首が捻じれるくらいの威力といっておく。


「大丈夫そうですね。今はクラインさんがグリーンウルフのボスを抑えてくれています。急いで加勢しましょう」

「は、はい!」

「ふふ、では行きますよ!」


 俺が参加しなくてもシャルル君が復帰すれば倒せる筈だが、待つのは面倒なので俺も加わってさっさと倒してしまうことにする。

 シャルル君の一歩先を行く程度のスピード駆け出した俺は数秒もかからずグリーンウルフの元へとたどり着く。


「クラインさん交代です!」

「……分かった!」


 グリーンウルフのひっかき攻撃を後ろに飛んで回避したクライン君とすれ違うように入れ替わる。


「≪フルスイング≫!」


 本来は≪剣術≫スキルの大剣技なのだが、使用武器に細かい制限がない技なのでエンドロンドでも使用できる。

 下手に旗布で首を狩り飛ばしてしまわないように杖の先端で下から顎をかち上げる。心配しなくても最後は後ろから走り込んでいる彼が決めてくれるはずだ。


「シャルルさん!」

「任せて下さい!!

――≪ヴォーパルストライク≫!!」


 ≪ヴォーパルストライク≫は≪ブラストストライク≫の上位互換の技だ。威力も速度も≪ブラストストライク≫より上である。ただ、射程が≪ブラストストライク≫よりも短く、使い慣れていないと足に負担がかかるので先程は≪ブラストストライク≫を使ったのだろう。

 杖を振り上げた態勢で斜め後ろに飛んだため命中の瞬間は見えなかったが、次に俺の視線がグリーンウルフのボスを捕らえたときボスは間違いなく喉を貫かれて絶命していた。


「ふぅ……皆さんお疲れ様でした」


 軽く息を吐きながらエンドロンドをインベントリに収納する。

 【月重】を打ち上げの瞬間切っていたので重かったのだ。理由は言わずもがなだが、【月重】を使ったまま打ち付けても大した威力にならないからである。

 尚、反転して威力を上げればいいというのは無しである。そんな事をすれば即死間違いなしである。それでなくても【破壊】が付与されているせいで頭蓋を吹き飛ばさないように気を使ったというのに反転などすれば軽くスプラッター間違いなしだ。ちなみに今回の打ち上げの際の破壊は顎を破壊するという事でとどまった模様。


「倒し.....ましたの?」

「うん、ヴィオ間違いなく仕留めたよ」

「……っ、はぁ……」


 ヴァイオレットが発した呆けた声により皆の緊張も程よく解けたようで、シャルル君はヴァイオレットに返事を、クライン君は黙って剣を鞘に納め、シャロちゃんは思わずしゃがみ込んでいた。


「光よ、彼の者達を、癒したまえ≪キュアヒーリング≫」


 俺をのぞいた4人に淡い光が降り注ぎ疲労が回復される。気分もスッキリしたはずだ。まあ、それでも精神的に疲れたと思われる。なので、


「少しココで休んでから薬草探しを再開しましょうか」


 そう言うと皆から賛成の声が上がったのだった。

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