第13話 フローリアの憂鬱


「はぁ……」


 私は自室で一人溜息を吐いていた。

 頭の中を巡るのは昨夜の自分の失態だ。可愛い娘ルナを連れだし訓練場で実力を見る為に戦った。

 そこまではまだ良い。いや、良くはないか。

 思い返せば出だしからいけなかった。静かに気付かれずに部屋から連れ出すつもりが先に自分が気付かれ、あろう事か後ろから不意を突かれる始末。これを不覚と言わずに何と言う。


「はぁ……」


 また溜息が出た。

 気分が如何しても優れない。

 昨夜を思い返してみて、何より酷かったのはルナとの戦闘だ。相手が途轍もない魔法使いであるのは戦う前に使っていたあの≪魔装≫?と言う魔法で知れていた。それなのに、まだ五歳と舐めてかかったのがいけなかった。

 牽制のつもりで放った≪ボルト≫の魔法が無効化された時点で焦りが生じた。

 そして、魔法が効かないのならと次は物理で攻めようとした。思い返せばココがまず間違っている。

 魔法を無効化出来るルナに対して取れる選択肢は少ない。だからこそ、近接戦の対策を取っていない筈が無かったのだ。

 剣を振りかぶった瞬間に体が硬直した。見えない何かで動きが止められたのだ。

 そこへ、ルナが大鎌を振りかぶった。拙いと感じた瞬間には体が動いていた。剣を持つ腕に魔力を集め強引に硬直を無効化する。そして腕を動かし剣を大鎌の刃を防ぐ為の盾にした……筈だ。

 気づけばルナの大鎌は振り切られていた。

 次の瞬間、胴を裂かれる様な感覚が私を襲った。それは自身の死を連想させ、意識を持っていこうとする。


――まだ……だ!


 辛うじて繋ぎ止めた意識の中で私はルナ目掛けて剣を振るった。

 その時の私の思いはルナの油断を諫める気持ちと一矢報いたいという気持ちだったと思う。

 だが、どうやったのか分からないが私の攻撃はルナに防がれた。

 そこからの記憶は殆ど残っていない。痛みと苦しみが続いたのだけは覚えている。


「……痛っ。思い出すと痛みが走るな」


 私は肩を抱える。

 アレは内側から何かが抜けていく嫌な感覚だった。


「まだ、体調が戻らないな」


 私はベットから身体を起こす。


「うぐ……」


 駄目だな。今日は働けそうも無い。

 私は人を呼び、あの人に動けそうもない事を伝えて貰う。


「今日は一日ベットの上……か。はぁ……」


 私はまた溜息を吐いた。



     ◆  ◇  ◆



 俺が街に出た日から二日が経った。

 最近フローリアお母様を見かけない。

 そこで、朝食時にセリルお母様にフローリアお母様の事を聞いてみた所、体調を崩してしまったらしい。


「では、今からお見舞いに行ってきますね」

「ええ、そうしてあげて。フローリアも喜ぶわ」

「はい!」


 風邪かな?

 ……この前の魔力吸収が影響したのかな?

 うぅ、何か面目無い……


 そんな事を考えていたらフローリアお母様の部屋の前に着いた。


「すぅ……はぁ~……よし!」


――トントントン


「誰だ?」

「ルナですわ。フローリアお母様」

「ルナ……か」

「お見舞いに来たのですが……入っても宜しいですか?」


 沈黙が続く。


「構わないぞ」

「ほっ……」


 ドアを開けるとフローリアお母様がベットに腰かけていた。


「おはようございますお母様」

「ああ、おはよう」


 ……。


「その、やっぱりお母様のお身体の調子が悪いのは私が魔力を吸い取ったからですか?」

「む、まあ、そうなのだが……ルナが気にする事は無いぞ?」


 やっぱりか。


「ごめんなさいお母様!幾らやり方が無いからといってアレはやり過ぎでした!」

「いやルナは悪くない。だから気にするな。アレは不意打ちのような形で攻撃してしまった私の方が悪い」

「いえ、ですが、もう少しやり方はあった筈です!だから私が悪いんです……」

「ルーナー!!そんな事は無いと言ってるじゃない!!」

「お母……様?」

「私はルナが悪いなんて思ってません!だからルナは気にしなくていいんです!!」


 あ、お母様の喋り方が素に戻ってる……

 うーん、これ以上言っても聞いて貰えないんだろうなぁ……


「うぅ、わかりましたわ。だから、お母様もお身体を労わって下さい」

「はぁ……いや、わかった。だから、ルナも気にしちゃダメだぞ」


 うん。まだ、素がまだ混じってるね。


「はい、分かりましたわ。それで、大丈夫なのですか。お母様?」

「む、それに関しては大丈夫でs……んん、大丈夫だ。明日くらいには痛み無く動けるようになると思うぞ」

「そう、ですか。よかったです」


 げ、思った以上に魔力枯渇ってヤバそうだな。

 うーん、酸素切れで気絶するのと同じくらいかと思ってたけど違うっぽい。今度から使う時は気をつけよう。


「それで、その……。また、剣の稽古つけてくれますか?」

「ああ、勿論構わないぞ。体の調子が戻ったらまたやろうか」

「はい!」


 その後、少し話をして俺はフローリアお母様の部屋を出た。


 

     ◆  ◇  ◆



 三日後、フローリアお母様が完全に復調した。

 朝食の席でそれを俺に伝えたフローリアお母様は明日の昼から剣の稽古を再開すると言って部屋に戻った。当然、その日はやる事も無かったので部屋でダラダラと過ごす事にした。

 部屋に戻りベットへ飛び込む。

 そこで、俺はある事を思い出した。

 メニューの右列に並ぶアイコンに新しく追加された≪箱庭の理想郷ガーデン・オブ・ユートピア≫の事だ。


「今なら使えるか?」


 俺は城のアイコンを意識して≪箱庭の理想郷ガーデン・オブ・ユートピア≫を起動した。

 目の前に表示が広がる。

 そこには黒色のマスが1マスだけ存在した。


――ピコン!



<チュートリアル1>

【世界に名前を付けよう】

・ようこそ【】へ!!

 ここは貴方の為の、貴方による、貴方の世界です!

 まずは、世界を構築する為に世界の名前を付けましょう!

報酬:≪設置≫機能の開放。



 名前ねぇ……


「うーん」


 こういうの苦手なんだよなぁ。ネーミングセンスが無い訳じゃなくて業務的に世界1とかで決定しそうになる。


「うん。流石に世界1は無い」


 ホント困ったな。全然、思いつかねぇ……


 ……。


 ……。


 ……ふぁっ!?


「ヤバい。寝落ちしかけた……」


 マズいな。さっさと考えてしまわないと。


「うーん、佳夜の『カ』に、美月の『ミ』。ルナの『ル』に、ミラの『ミ』で【カミルミ】でいいか」



――【カミルミ】で宜しいですか?

  ・YES ・NO



 YESを選択。


――ブツン!



 ……気が付くと何もない地面の上に立っていた。

 周囲は黒い壁に覆われている。壁同士の距離は10m程で、それより外には何も無い。ただひたすらに『無』が広がっていた。


「ココ、何処?」


 上を見上げてみる。空があった。 


 ……。


 下を見る。地面がある。知ってた。


「コレ掘り進めて行ったら青色の世界に落ちて死亡とか無いよな?」


――ポーン、ポーン。



≪メール≫

題名:試さないで下さい。

本文:次元の狭間に消えられると助けようが無いので絶対に深くまで地面を掘るなよ!冗談じゃなく消滅します。

 まあ、まず、そこまで辿り着けないようになっている筈だが、君の場合は何故かやり遂げてしまいそうで怖い。だから、試さないで下さい。

追伸:如何しても地下方面に広げたいなら、その世界を広げるといい。そうすれば、いつか広げれるようになる筈だよ。



 やっぱり暇なのか。暇なんだろ!


「まあ、それは置いておくとして……」


 俺は新しく視界に表示された文章を見る。



<チュートリアル2>

【家を建てよう】

・おめでとう!

 コレでこの世界は貴方のモノだ!

 まずは記念に家を建ててみよう!

報酬:≪拡張≫機能の開放。



――ピコーン。ピコーン。ピコー……


 いつもの表示に加えて新しく家のマークのアイコンが追加された。

 どうやらコレが≪設置≫の機能らしい。赤色の矢印が出てそれを示していた。


「これを押せって事かな?」


 とりあえず選択してみる。



≪設置物一覧≫

・家:0P ←



 ……ポチッとな。

 設置するマスを選択して下さいと表示された。

 押せる場所は一か所しかないのでど真ん中の一マスを選択。

 マス内の何処に設置するか決めて下さい。と表示される。

 大きく拡大された緑枠の中に黄色い点が一つ。表示のされ方がマップと同じだ。つまりこの点は俺ですね。

 あとは薄く家が表示される。ここに置けとでも言うように黄色い枠が表示されている。敢えて外に置――


――ブーブー


 置けなかった。

 まあ、そんな如何でもいい事は置いといて。黄色い枠内に家を設置した。


――ボスン!


 白い煙と共に木で作られた家が現れた。


 ……マジですか。

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