第13話 ただいま談笑中 3
一瞬、ヘルネスの手が止まる。
――コレは当たりかな?
俺は不意打ちの一言が決まった事にほくそ笑む。
「何処でその名前を?」
「さあ?何処だと思いますか?」
「……」
考え込むヘルネス。
うーん、どうしよ。ノリで返したらかなり真剣に考え込まれた。
ルナさん的には、適当でいいからぱっと返答してくれた方が嬉しいんだけどなー(チラッ。
余談だが、ミラが攫われそうになった事件は
一応、襲撃者達を完全に撃退できた訳だが、一度は完全に攫われかけたしな。しかも、まだ依頼を出した犯人は分かってないし。
そんな訳で、お父様達はこの件について完全に片を付けた段階で、ようやくこの事を発表するつもりらしい。
今は私兵を動かして犯人を割り出している段階なんだと。
ちなみに俺だが、お父様達に知りえた情報は殆ど何も流していない。ドランの名前は元よりメルフェ達の事もだ。
だからこそ、捜査も難航してる訳だが……
いやね、仕方なかったんですよ。
お父様達にそれらの事を説明しようと思うと隠してる転生者関連の話をしなきゃいけなくなるし。何より≪隷属化≫の魔法って大陸全土で禁呪指定受けてるんですよねぇ……。
そんな訳で、親たちに話した話の内容はかなり当たり障りないモノとなっているのだ。
さて、これらの理由からミラに手を出したアホ共の処理を俺が直々にしないといけなくなった訳だ――
――などと長々としたご託を並べてみた訳だが……もうそろそろ、ハッキリ言おう。
ミラを狙われてイライラしました。
だから俺が直々に鬱憤を晴らしに行きたいわけです。
ムカつく奴らは全員皆殺しだぁ!!
……以上。
はい、そんな感じの理由で午後からは情報収集に徹しようと思っていた訳ですが……そこで
ヘルネスの腹部に理不尽な風穴が空いたのも困惑していたからですとも。えぇ。ワザトジャナイヨ?
「さて、そろそろ考えは纏まりましたか?お爺様?」
「ああ、旦那の――ルナの妹のミラルディナが攫われた時だな」
ふむ、知ってたんだ。
「そうですね。フローリアお母様からお聞きしたのですか?」
「いや、ガレンからだ」
「成程、お父様でしたか」
へぇ、ヘルネスはフローリアお母様だけでなく、お父様とも交流があると。
いや、当然か。幾ら降嫁させたといっても信頼も無いのに王家から王女が嫁ぐ可能性は低いもんな。
「確認だがその名前にどのような意味があるか分かって聞いているんだな?」
「闇ギルドのギルドマスターと言うのは聞いておりますよ。それ以外にも意味があるのなら教えて頂けると嬉しいです」
「……それで間違っていない」
はぁ……確定か……。
案外すぐに情報が見つかった事を喜ぶべきなのか、相手が面倒なグループの一員と確定したのを悲しめばいいのか……。微妙だな。
「とりあえず、一っ走り程して叩き潰して来ます」
「……ただ。っておい、待てコラ」
「コラ?」
「……待ってくださいお願いします」
この国王ホントにぺこぺこと頭下げるよな。
あ、させてるのは俺か……
「はぁ……では、お爺様は如何して欲しいのですか?」
「うむぅ……そうだな……。時にルナよ、王国の特務部隊に興味は無いか」
コレは、特務部隊に入れと言いたいのかな?
「王国特務部隊ですか……」
王国特務部隊。
その名の通り、王国に属する特殊な一部隊の通称だ。
現在は10名が在籍しているという王国最精鋭のこの部隊。特徴は部隊でありながら基本、誰一人として他の部隊員と行動を共にしない事で有名な部隊だ。
そして王国全部隊――騎士団から軍隊まで全て――の中で一番、自由な行動が認められた部隊でもある。
理由は単純で部隊の全員が全員、有能だからだ。
それこそ一人一人が一軍に匹敵するなどという噂が立つ程だ。
そして――その噂はあながち嘘ではないと俺は確信している。
何故なら、俺が知っている人物の中で一人、特務部隊に所属している者がいるからだ。
その人物は既に200レベルを超えるほどの猛者であり……というかフローリアお母様その人だ。
――フローリア・Tower・ノートネス
確か特務部隊内の序列は3位だった筈だ。
そう、あのフローリアお母様で3位なのだ。
ユニークスキルを使っていないフローリアお母様にさえ苦戦するのに、その上にまだ二人いると来た。全く持って笑えない話である。ああ、当然夜の模擬戦の時の事なので俺もユニークスキルは使っていない。というかその頃はまだ手に入れていなかった。
あ、そうそう。ヘルネスも合わせると3人か。うへぇ……
「そう言えばお爺様は国王なのにEmperorじゃないんですよね?」
「うむ。余は
ああ、それでヘルネス・
「それで、解答は如何に?」
「ふふ、謹んでお受けいたしますわ」
ちょっと、格好つけてみた。
「では、この中から好きなアルカナを選ぶと良い」
並べられたのは【愚者(Fool)】【女教皇(Priestess)】【運命(Foetune)】【吊るし人(Hanged)】【節制(Temperance)】【悪魔(Devil)】【星(Star)】【月(Moon)】【太陽(Sun)】【世界(World)】の十枚。
大アルカナは全部で22枚。ヘルネスの【皇帝(国王)】と既に埋まっている11枚を除けば、残りは丁度十枚になる。
「コレなど如何だ?」
そう言ってヘルネスが差し出したのは【月】のアルカナ。
うん。それ、あきらかにルナって名前から月を連想したよね。
ただなー……俺の中で月と言えば美月なんだよな。だから、【月】はあいつの為に残しておくか。もっとも、美月が特務に所属するかは知らんがな。
まあ、あいつなら俺が入っていると知った時点で入ろうとしそうだしなぁ。
「色々考えた結果、【月】は辞めておきます」
「む。そうか」
となると残りは九枚か。
その中で俺に当てはまりそうなものと言えば【愚者】【運命】【吊るし人】【世界】の四つかな?
【愚者】は『美月を残して先に逝った愚か者』という皮肉と『道化師やジョーカー』などの舞台関連の意味を併せ持つ点で候補に挙がった。
【運命】は死んで尚、美月と再会する事が出来た奇跡をふまえて候補に。
【吊るし人】は大罪者を連想したから取り敢えず候補に挙げておいた。
【世界】は≪
さて、その四つの内から消去法で選出する事にするか……。まず【吊るし人】は却下で。大罪者なんて他にもいるしな。ほら、今目の前にも。
で、次【運命】も却下だな。選ぶ理由としては少し弱いな。この転生は運命というより自力で勝ち取った給料のような印象が強すぎる。
あとは【愚者】か【世界】だが……。
よし、決めた。
「【愚者】にします。ただ、少し改変して【道化師(Clown)】と名乗る事にします」
やはり俺のスキルや能力を考えるとこちらの方がいい気がする。
劇場に
「うむ、そうか。では早速、即興の任命式を行うとするかの。
――ルナルティア・ノートネスよ貴殿の特務部隊【道化師(Clown)】に任ずる。励む様に」
「はい、謹んでお受けいたします」
ヘルネスが恭しく任命式に興ずるのを見て。
ルナも役者の血が騒いだのか格式ばった物言いで返す。
ただ、真面目タイムは続かない様で――
「励む様に、ねぇ?」
「調子扱きました、すんませんした!!」
華麗なヘルネスの土下座が決まったのだった。
相変わらず安い頭である。
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