第14話 ただいま談笑中 4


「で?そろそろ私を特務部隊に入れようと思った訳を説明して頂けますか?ドランの件と無関係ではないのでしょう?」

「そう、急くでない」


 急に爺さんっぽい喋り方になったな……。


「というかもう想像は付いているのだろう?」

「ええ、まあ。大方、ドランが特務部隊に所属しているといった話ですよね?」

「うむ、正解だ。ちなみに奴は憤怒の大罪者でもある」


 うげっ。ヘルネスに続いて二人目の大罪者、最近の王都の流行りなのか?

 そして、憤怒ねぇ。面倒くさそうだな。イメージ的に憤怒は強そうのうきんなイメージがあるし……。

 あ、ちなみに俺の中では、七大罪の中でトップにヤバそうなのが嫉妬で、次が強欲、その次が憤怒と暴食という謎イメージがある。まあ、あながち間違ってはいないだろう。

 嫉妬で殺された俺が言うんだから間違いないね。うん。自分で言ってて笑えねぇ。


「アルカナは?」

「【死】だな」

「【死】ですか。なるほど、成程。あっ、良い事を思いつきました」


 俺は早速、思いついた事をそのままヘルネスに伝える。

 するとヘルネスは露骨に嫌そうな顔をした。あ、なんかお父様を思い出すな。


「――それはつまり、ドランを殺す事を前提として動くと?」

「ええ、ミラの敵は全てもれなく私の敵ですから」

「……シスコン」

「ええ、シスコンですとも百合ですともレズビアンですとも。何か悪いですか?」

「……いえ、別に……イインジャナイデショウカ……」


 おいコラ。引きニートなオタク野郎にだけはヒカれたくないんだが?


「あ、旦那!今、オタクを馬鹿にしましたね?」

「違う。俺が馬鹿にしたのはお前だッ!」

「なお悪いっすよ!」


 おっと、口調が素に戻っていた。

 危ない、危ない。


「で?そろそろ先程お話しした内容の返答をそろそろ頂きたいのですが?」

「うっ、わかった。わかりました。もってけドロボーっすよー」

「また、土下座したいのですか?」

「ごめんなさい」


 ヘルネスがぺこりと頭を下げる。

 全く。コイツ本当に国王としての自覚あるのか?


「そんなものはないっす!」

「人の考えを読むんじゃありません!」

「――ぬおおおおお!!!」


 メキョリという普通のデコピンでは絶対ならないであろう音と共にヘルネスの絶叫が響き渡った。




「ひ、酷い目に遭ったっす……」

「自業自得ですね。それよりもさっさと例の物を寄越しなさい」

「えっと、例の物ってなんすか?」

「ノリで言ってみただけですわ」


 さて、悪ふざけもこの位にしてそろそろ切り上げるか。

 俺は≪虚飾の仮面≫を発動して佳夜の姿に戻る。

 この部屋に来た時はこの姿だったんだから当然だな。


「じゃ、そろそろお開きにするか。今日の夜、早速殺って来るから発表の準備しとけよー」

「うーっす。おつかれ様っすー」


 俺はその言葉を合図に≪幻想劇場≫を解除する。

 一瞬、世界が揺らぎ気がつくとギルドの一室に戻って来ていた。何度見ても幻想的な光景だと思う。

 俺はそんな思考とは別に手を素早く動かして私物を片付けた。

 そして、扉まで行きドアノブに手を掛ける。

 ああ、最後にこれだけは伝えておこうかな。


「じゃあな。あと、服は洗って帰せよ」

「ああ、そういえばそうだったパン!忘れてたパン!」


 コイツ……いつの間にかパンダ着ぐるみに着替えてるし……。

 俺は見ているだけで疲れそうなハイテンションパンダを意図的に無視して個室を出るのだった。



     ◆  ◇  ◆



 屋敷に帰って来た俺は門番に馬車を呼んでもらった。

 流石に何の意義も無く馬車で十分ほどかかる距離の邸宅まで歩きたくは無かった。

 いや、本気で走れば一分くらいだろうけどさぁ……。

 ただ、想像してみて欲しい。

 自分の家まで寂しくポツリと歩いて帰るお嬢様。……惨めすぎる。

 将又、邸宅まで全力疾走するお嬢様。無いな。

 ……庭園の距離縮めたらいいだろうに。


 迎えの馬車に乗った頃。結局その思考自体が虚しく感じてきた為、考えるのを切り上げた。


 仕方ないので今王都の女の子達の中で流行りだという恋愛小説を呼んで時間を潰す事にしようか。

 前世の頃からこの手の小説は美月の影響で読んでたしな。劇の台本を書く時にも意外と役に立つ。それに何より話題作りの役に立つ。

 今、現在ルナとして生きるに際してやはり同性の友達は必要だ。

 何時何処でボロを出すか分からない以上、多ければ多いほどいいと言う訳では無い。……無いが、だからといって全くいなくても良い訳では無いのだ。

 何より居ないと流石に辛いし悲しい。

 班決め如何しよ!?チーム分け如何しよ!?グループ分け!?好きな人とチームを組む!?

 もう、止め、て……。


 ……とは、なりたくないのである。

 決して前世で友達が少なかった訳では無い。

 ただ、中学の頃の同級生とは反りが合わなかっただけだ。

 いや、高校の頃の上級生の中にも受けが悪い人には悪かったみたい何ですけどね……。

 じゃなかったら、死んでないと思う。うん。


「お嬢様、着きましたぞ」

「ありがとうございます」


 御者さんは少し年を取ったダンディーなオジ様だ。

 この人は糞親父みたいな残念系ではない事を祈る。


「……ルナルティア只今戻りました」


 侍女に扉を開けてもらい俺は屋敷に入る。

 誰もいない空間に向かって挨拶するのは少し虚しかった。

 自室に向かう為に階段を上りながら、侍女に就寝までの流れを確認する。


「ルナお嬢様。現在、坊ちゃま達は食堂に居られます。お嬢様も御召し替えが済み次第、食堂に向かう流れとなっておりますが、よろしいでしょうか?」

「ええ、構いません。それではすぐに着替えてしまいましょう」


 まずは食事か。

 そこまでお腹は減っていないけれど、食べられないという程じゃないな。


「そこからの運びは如何なっているの?」

「御召し替えをしながらお話ししてもよろしいでしょうか?」

「いえ、必要ありません。服をこちらに」


 差し出された服をインベントリにしまい、その後、選択、装備する。


「終わりました。続きを話していただいて構いませんよ」

「……はっい」


 おお、流石本職のメイドさん。

 理解が及ばない行動を見ても驚きの声を押し殺して続けたな。

 俺も最近崩れかけのポーカーフェイスをそろそろ取り戻さないとな。

 これからは学園に向かう事になる。

 他の貴族子息を相手取るとなるとそうそう気を緩める訳にはいかないしな。

 ただ、まあ当分の間は大丈夫だろう。

 俺がこれから通うのはあくまで初等部だし。相手が転生者じゃなければある程度は目溢しして貰える筈だ。……と思っておきたい。


「――の後は体を清めて頂き、就寝という流れになっております」

「そうですか。分かりました。では、そろそろ食堂に参りましょうか」


 うん、拙い。途中から完全に話聞いてなかったわ。

 ……分からない所はまた後で聞く事にしよう。


 そんな事を考えながら食堂に続く廊下を進む。

 俺を待っていたのかどうかは知らないが、扉の前には昨夜と変わらず執事のメイズさんがいた。ついでにメイドのエルネさんもいる。


「アンナご苦労様です。引き続いて料理長に配膳の準備をお願いしてきて下さい」

「はい、執事長。承りました」

「ルナお嬢様、どうぞこちらへ。皆様、既にお揃いになっておられます」


 うっ、お兄様達怒ってないといいんだが……。


「お兄様、お姉様、お待たせして申し訳ありません。ルナルティアただ今戻りまし――あぶっ!?」


 すわっ、何だ!?襲撃か!?

 冗談である。

 いや、あながち間違ってはいないんだけどさ。

 俺目掛けて突っ込んで来たのはご存知レーネお姉様である。

 普通に痛いのでやめて頂きたい。

 ただ、遅れた自分への戒めとしてこの精神ゴリゴリ攻撃を受ける事にした。


「あー、レーネ。そろそろ離してあげた方がいいんじゃないかな?そろそろ、ルナが窒息しかねないよ?」

「はっ!?私とした事がルナちゃんの可愛さに自我を失っていました」


 そっと壊れ物を扱うかの様に床に降ろされる。

 ……いや、遅いから。アレだけ乱雑に扱った後にそっとされても釈然としないだけだから!


「ぷはっ。はふぅ……。あっ!その、遅れて申し訳ございません。始めて来た王都に浮かれて少し羽目を外し過ぎてしまいました……」

「うん、構わないよ。遅れたと言ってもほんの少しだけだしね。それこそ、いつもの二人の遅刻ぶりを考えれば、ねえ?」


 ちらりとリステルお兄様がヴァンお兄様とレーネお姉様に視線を向けると二人はさっと顔を逸らした。

 ……そうか、この二人、遅刻常習犯なのか。


「あー、うん。まあ、気にすんなよ」

「そうね。誰だって遅刻ぐらいするもの」


 二人はそういって慰めてくれるが、その内容は若干言い訳めいて聞こえる。

 これで、この遅刻常習犯らしき二人が遅刻しても文句は言えなくなってしまったな。無念……。

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