第6話 ≪魔装≫の最適化
「ほお、それは何故だ?」
「私はあの人に頼まれた事さえ達成できれば、別に信じて貰おうが貰えまいが何方でも構わないからですよ」
俺が肩を竦めつつ言うとお父様は楽しそうに笑った。
「そうか、そうか。で、その目的というのは何だ?」
「そこまで言えと?」
「うん?てっきりお前は私に聞いて欲しいのかと思っていたが……違うのか?」
「はぁ……いえ、違いませんが……」
何だよ、真面目な話をする時は全然駄目親父じゃないじゃねぇか。やりにくい。この狸親父め。
「やっぱりか……ほら、とりあえず言ってみろ」
「まあ、いいです。分かりました」
俺は大きく息を吸いお父様を見据える。
「私の望みはミラの目的のお手伝いです。
貴方には何か目的があるのですよね?私はそれを手伝うようにと言われました。
ああ、言えないもしくは言いたくないなら言わなくても良いですよ。あ、まだ決まって無いという可能性もありますね」
俺は微笑んでミラを見る。そうするとミラは驚いた顔をしていた。
そう、今回俺が目的としているのはミラの傍に居続ける為の理由を得る事だ。
「ミラ、私がお手伝いしてもよろしいですよね?」
「え、あ、はい!」
まあ、断らないとは思っていたがすんなり通ってよかった。ちなみにこの場合のミラの目的とは俺を探す事だろう。いわば灯台下暗し状態だ。
それと、俺の正体だが、神様の手紙の書き方だと絶対に何かあると思うのでまだ言うつもりはない。
言うのはそれが分かった時か、ミラが十歳になった時だ。ミラ十歳の方は
「と言う訳でお父様、これから私の部屋はミラと同室にしてくださいね」
「ふむ。お前は私が拒否する可能性を考えないのか?」
「拒否するのですか?」
俺は黒い笑みを纏う。
傍目から見るとただの満面の笑みだが、見る人から見れば黒い笑顔に見えるという笑顔だ。
事実、そう言った黒い話に縁のなさそうなフローリアお母様は理解できていない。逆にセリルお母様とお父様は頬を引き攣らせている。
「……まあ、いいだろう。
必需品はこちらで用意しておく。それらは、そうだな……三日後辺りに下男にでも運ばせるので数日は部屋にいる様に」
「ええ、分かりましたわ」
俺は笑顔で頭を下げた。よし、言質は取った。これでミラと一緒に過ごせる!
……って、あれ?同室はやり過ぎたかもしれない。着替えとかどうしよ……ま、まあ、なるようになるだろ。多分。
こうして家族会議は終了した。
ちなみに許可が出なかった場合は先程調べた時に見つけた執務室の裏にある隠し部屋の事を告げるつもりだった。先程の探査でそこに裏帳簿らしきものがあるのを発見していたのだ。
この魔力探査は便利なのでこれからも使って行こうと思う。まあ、欠点が多いので改良は行うつもりではある。流石に一度使うだけで半分くらいの魔力を持っていかれてはやっていられない。
それでなくてもかなりの量の魔力を服の維持で消費しているのだから当然だろう。魔力が回復した端から消えていくので一向に体調が良くなる気がしなかった。こちらの魔法?も改良が必要だな。
その日、俺はミラに連れられて部屋に戻るとすぐに布団へ倒れ込んだのだった。
◆ ◇ ◆
「お姉さま、起きて下さい。ルナお姉さま!」
うぅ、身体を揺すられるが辛い。
今は昨日の魔力探知での処理不足が祟って二日酔いのような状態になっている様だった。
夜中に一度目が覚めた時にそれに気がついて≪キュア≫を掛けたが更に処理で負担が掛かる結果で終わった。如何やら魔法での回復は出来ない様だ。無念である。
「み……ラ?」
あぶねぇえええ!
寝起きの所為で、さらっと美月って言いかけた。気を付けろ俺!美月はNGワードだぞ!
「はい、おはようございますお姉さま。お加減はどうですか?」
「まだ、頭が少しだけ痛いか、しら」
「そうなのですか……その、元気になったら魔法を教えてくださいね!」
「え……ああ、そうね。手伝うって言ったものね私。ええ、分かったわ。でも、今日はもう少し休ませて頂戴ね」
「はい!」
言動をルナ(5歳半モード)に切り替えるまでに少し時間が掛かってしまい、生返事を返しそうになった。寝起きは注意だな。≪時計≫の≪アラーム≫機能のアラーム音を大きめに設定して寝起きの気つけに使おう。
設定は目が覚めて5秒後と、よし。
「お姉さま?」
「ああ、ごめんなさい。少しボーっとしていたわ」
俺は首を振って眠気を飛ばすフリをしつつミラにそう告げた。
「そう、ですか。あ、私はこれから文字のお勉強なのでそろそろ行きますね」
「ええ、気をつけてね」
「はい!行ってきます!」
ミラはそう言って扉を開けて走って行った。
……。
「そそっかしいところは変わって無いな」
俺は思わず苦笑いする。
「さてと、俺も動くか」
俺はベットから起き上がった。あ、服。
寝た事で魔法が解けてしまったようだ。うーん、どうしよ。過剰処理の所為で今、魔法使うのは良くないからな。……諦めて今日は部屋にこもるか。
結局、その日は部屋から一歩も出る事無く一日が終わった。
ミラが帰って来てから色々話を聞いてみると、昨日俺が裸で寝たのがミラのベットだと判明し、それを知った俺が悶え苦しんだのは別の話だ。
その日の夜はミラの顔が直視できそうになかったのでさっさとベットに潜り込んで寝た。夜、目が覚めると隣にミラの顔があり、一瞬ドキッとしたのは秘密だ。
◆ ◇ ◆
翌日。頭痛は綺麗さっぱり消えていた。
ルナは部屋で昨日新しく追加されたゲージを確認しながら魔法の改良をしていた。新しく増えたゲージはMN(処理能力)だ。ちなみにMNはマネジメントの略である。
そして、このゲージは他のゲージと違い、円グラフでの%表示になっている。
例えば≪ファイヤーボール≫の魔法一発分が処理に対して処理能力が5.00%必要ならば5.00%が青から赤に変わって表示されるのだ。逆に処理が終わればパーセンテージは95.00%から100.00%へと戻る仕組みになっている。
「むむむ」
それを見てルナは唸っていた。
ルナだけのオリジナル魔法≪魔装≫は改良に改良を重ねた結果、常時処理率を15.24%まで下げていた。消費魔力も初期発動の時と比べて1/3ほどになっている。
それでも、もう少し何かを変えれば二つの数値が大きく下げられる気がするのだ。ルナは既にそれを知っている筈なのだが、それがどうしても思い出せない。
「うーん。何だったかな?」
途中で脱線して≪光魔法≫で鏡を作ったり、≪魔装≫で作った鎖の調整などもしていたがそれでも、かれこれ一時間ほどこんな感じで首を捻っていた。
「あ!」
そこでルナは思いついた。
画期的な方法をではない。それを探す方法だ。
そう、ルナが思いついたのは<
ルナは<魔道具>で検索を掛けた。
相変わらずヒット件数はぶっ飛んだ数値だった。
「へー……」
ルナが求めていた答えを見つけたのは17つ目のサイト?だった。それは、王都の魔法学園に所属している一講師が書いた論文だった。内容は魔道具作成時の≪闇魔法≫の運用について、である。
「……≪闇魔法≫の魔法特性である『吸収』を使用すれば、周囲から魔力を得て動く完全自立型の魔道具が作れる可能性があると思われる。か、つまりは失敗したと。まあ、これじゃあ失敗するよな」
ルナはその論文を読んだだけで、何故その実験が失敗したか理解していた。正確には何処でミスを犯していたかだ。
「魔法陣の出力不足」
それが、ミスの原因だ。先程、ルナが試してみた結果、≪闇魔法≫を使った周囲の魔力吸収は≪闇魔法≫のスキルレベルによって収集率が変わる。
まず、今ルナが所持している各属性魔法のスキルレベルだが、全て250を超えている。なぜ急にそれだけのレベルが上がったのかというと、
そして肝心の≪闇魔法≫だがスキルレベルは312だ。
そこでルナは魔力をある程度消費した後に≪闇魔法≫で吸収を使ってみたのだ。消費する魔力は分かり易く100にしておいた。
結果、312の魔力が回復した。消費した分を引けば212の魔力が回復した事になる。
そこからルナは回復した数値を見てスキルレベル分の魔力が回復すると考えた。
ルナはそれならと考えて1000の魔力で吸収を発動してみた。
「あれ?」
973の魔力が回復した。逆に言うとそれ以上の魔力は回復できなかった。
ルナは成功しなかった理由が分からず頭を抱えた。
唸った結果、結局分からなかった為、次は500の魔力で吸収を試してみた。
またもや回復した数値は973だった。
「うーん」
その次は300で試してみた。結果は936。
そこに至ってルナはようやく答えが分かった。
どうやら312以上の数値での魔力吸収は出来ないらしい。
「ああ、成程」
ルナは満足げな顔で頷いた。つまりは魔道具で元以上の魔力を集めたいならその魔道具が使えるスキルレベルを101以上まで上げないといけないらしい。
ルナにはその難度が分からないがかなり難しい事だろう。ルナは茨の道を行く、この論文を書き上げた講師に冥福を祈ったのだった。
早速、ルナは≪魔装≫に魔力吸収の機構を組み込む事にした。
一度身に纏ったドレス型の≪魔装≫を解き、再度同じ形の≪魔装≫を追加効果を埋め込んだ状態で具現化する。
……。
……。
……ふぅ、よし。
実に91%の処理能力を使った。だが、徐々にその数値は下がっていき、ついに15.24%を下回った。それだけではない。さらに下がっていき……1.82%で停止する。
その数値は魔力吸収以外で処理を必要としていない事を表していた。≪魔装≫の維持に必要とする魔力も100/312まで下がっている。大成功だ。
「よっし!」
ルナは思わずガッツポーズする。
――コンコンコン
そこにノック音が響いて大慌てする羽目になったルナであった。
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