第7話 フローリアお母様と剣の稽古
俺の部屋を訪れたのは屋敷の使用人達だった。先日、お父様が言っていた『必需品』を届けに来たのだ。
必需品の中には色々な物があった。中でも一番の大きさを誇っていたのはクローゼットだ。下男が二人掛かりで持っている滅茶苦茶重そう。
その後も使用人は入ったり出たりを繰り返し、ものの一時間で全ての作業を終えてしまった。何とも手際が良い。これならノートネス家は安泰かな?いや、でも当主があれだからな……うん、大丈夫そうだな。
「あ、そう言えば確認作業終わったし、もう部屋から出てもいいのかな?」
……うん、まあいいや。出よう。
「さて、どこに向かうか……」
用があるのはフローリアお母様と狸親父――じゃなかったお父様。うん、まずはフローリアお母様のところにしよう。別にお父様の方の用事は急ぎでもないしね。
俺はマップでフローリアお母様の位置を探す。……あ、いた。丁度、執務室でお父様と一緒にいる。
俺は腰かけていたベットから足を垂らした。
「≪魔装:ガラスの靴≫」
この程度の≪魔装≫なら精神統一をしなくても具現化できるようになった。俺は青と白のグラデーションが施された靴を見て満足げに頷く。
「うん、会心の出来だ」
ぴょんとベットから飛び降り、俺は二日ぶりに部屋を出た。
◆ ◇ ◆
――コンコンコン
「入れ」
俺は扉を開けた。途端に嫌そうな顔をするお父様。
「む、そこまで嫌そうな顔をしなくても宜しいではありませんか」
「そうですよ、あなた」
「そう言うなセリル。俺はどうしても昔から女子が苦手なんだ」
「それでも、自分の子供に対してまでその態度を取るのはどうなのだ?」
俺の苦言にお母様達が援護を入れてくれた。ただ、ぶっちゃけ今の一言はどうでもいい一言だったのだが……純粋なお父様への嫌味でしかなかったのだ。
「はぁ、まあいい。それでどうした?」
「いえ、ただ単純にフローリアお母様とお話がしたかっただけなのですが……今は拙かったですか?」
「いや、構わん。フローリアお前は一度ルティアを連れて休んで来い。時間は……そうだな二時間程したら戻ってきてくれ」
「いいのか?」
「ああ」
「ふふ、ではルナ。久しぶりに二人で話そうか」
「はい!」
フローリアお母様は嬉しそうに微笑んで俺の手を取った。三年経っても衰えを知らない可愛らしさである。ヤバい、マザコンに陥りそうで怖い。
いや、大丈夫だ。俺は美月一筋だ。……あれ?コレはコレでシスコンって事になるんじゃ……?
……よし、この件については考えないようにしよう。
そんなどうでもいい事を考えながら俺とフローリアお母様はお母様の部屋に向かった。
◆ ◇ ◆
「ふむ、それで話とは何だ?」
「え?ああ、私が眠っていた間にこちらではどのような事があったのか教えてほしいのです」
「そういう事か」
納得するようにフローリアお母様はうんうんと頷いた。あれ?もしかして、俺って用が無ければ話しかけてこないタイプと思われてる?
「あの、本当にただフローリアお母様と話しがしたかったというのもあるんですよ?」
「な!?そうだったのか……」
やっぱりそう思われていた様だ。ちょっと傷ついたかも。……もしかしてあの狸親父が何か言ったのか?
「むぅ、フローリアお母様までお父様の様に私を除け者にするつもりですか?」
「い、いやそんなつもりはないぞ!た、ただな。私にも立場というものがだな」
ヤバい、可愛い。なんだ、このドS心を擽る生き物は……
あ、涙目になった。可愛さ倍増……じゃなかった、フォローしないと!
「ごめんなさいフローリアお母様。冗談です」
「な!?」
あ、目を見開いて固まった。
俺はくすくすと笑い声をあげる。この笑い方をする時に気をつけるのは嘲る様な笑い方で厭味ったらしくならない様にする事だ。出来るだけ明るい雰囲気で笑えるとグッドだ。
「ルナは三年間で意地悪になったな」
「そう、でしょうか」
「ふふ、そんなに悲しそうな顔をするな。私個人はお前が言っていた事を信じているよ」
ぐはぁ……思わぬブーメランが……
俺はフローリアお母様に頭を撫でられながら罪悪感という攻撃に耐えるのだった。
うぅ、嘘を吐いてごめんなさい。
その後のフローリアお母様とのお話は特に目立った事も無く終わった。
この時、まだ一時間ほどフローリアお母様の時間が開いていた為、俺は本命のお願いをする事にした。
「ところでフローリアお母様?」
「ん?どうしたんだ?」
「私に剣の稽古をつけてくれませんか?」
「ふむ、それは何故だ?」
珍しくフローリアお母様の目が真剣だった。流石レベル193。あえて、三年間でレベルがさらに上がっている点には突っ込まない。突っ込まないと言ったら突っ込まないのだ。
「姉として、ミラを守れるくらいになりたいからです」
「魔法が使える様になったのだろう?それだけでもいいのではないか?」
試すような物言いだが俺は気にしない。正当な理由はあるのだ。
「私が使える魔法は回復と防御、支援の魔法だけです」
「ほぅ、攻撃魔法は習わなかったのか?」
「いえ、まず適性が無かったのです」
「どういう事だ?」
何やらフローリアお母様が訝しげだ。俺はそれに緊張しながらもしっかり答えた。
「私の魔法適正は水・闇・光なのです」
「な!?どういう事だ!?雷は無いのか!?」
「雷ですか?いえ、ありませんが……」
改めて確認してみたが先天スキルに≪雷魔法≫の文字は無い。
「何という事だ……」
何をそんなに驚いているのか不思議になって聞いてみたところ、フローリアお母様の家系の者はほぼ確実に≪雷魔法≫の適性が発現していた事が分かった。確かにそれは驚くよね。
「まあ、コレで分かって頂けたと思いますが、先程述べた通り私には攻撃魔法の才能が有りません。だから剣を覚えたいのです」
「成程……よし、分かった。空いてる時間にでもいいなら稽古をつけよう」
「本当ですか!」
「ふふ、本当だ」
こうして俺は、フローリアお母様に剣の稽古をつけて貰う事になった。
◆ ◇ ◆
ルナとフローリアは屋敷にある兵士の訓練場に来ていた。理由はミラの実力を確認する為だ。
そしてそこには何故かミラとセリルの姿があった。
「あら?ミラ?」
「お姉さま?どうしてココに?」
「ミラこそどうして?」
ルナとミラは二人して首を傾げた。
「あら?フローリア、貴方も頼まれたの?」
何がと言わずともフローリアには伝わった。
前々からセリルがミラに魔法を教えていたのを知っていたのだ。稽古の内容を一緒に考えたりしていたのだから当然だろう。
「うむ、私も剣の稽古を頼まれてな」
「ふふ、良かったわね」
「ああ」
フローリアは少し照れながら頷いた。
セリルはフローリアが羨ましそうにミラとの話を聞いていたのに気付いていたのだ。それでも敢えて相談するのを辞めなかったのはフローリアが楽しそうでもあったからだ。
フローリアがセリルと楽しそうに話をしているその一方でミラとルナの会話も進んでいた。
「ミラは魔法の練習?」
「はい、そうです!お姉さまは?」
「私の方はフローリアお母様に剣の稽古をつけて頂こうと思ってね」
「剣のお稽古ですか?成程……」
ルナはミラが何に対して納得したのか分からずに首を傾げる。
だが、まあそんな事もあるだろうと思い直し気にしない事にした。
「それでミラはセリルお母様にどのような魔法を教わっているの?」
「ええっと、今は≪ファイアバレット≫と≪サンドバレット≫、あとは≪ウィンドカッター≫ですね」
「そう。頑張ってね。応援してるわ」
「はい!……ところでお姉さまはどのような魔法が使えるのですか?」
ミラに聞かれてルナは少し困り顔になる。
何処までの魔法が使えるのか分からないという理由が一つと、恐らくクラス補正でかなり高位の魔法が使えるであろう予想が付いた為にミラのやる気を削いでしまいかねないと心配になったという理由が一つだ。
それらの理由からルナは、
「私は水と闇、光の三属性が使えるわね。ミラはどうなの?」
勘違いした解答で場を濁すのだった。
「私は火、土、風、雷、あとは光と闇の六属性が使えます!」
「六属性!?」
幾ら魔法について疎いルナでも何となくそれがすごい事であるのは理解できた。
「ふふ、お姉さまでも驚く事はあるんですね」
「勿論。吃驚したわ」
それでも、ルナは本当の意味でその凄さを理解出来ていない為、すぐに立ち直る事が出来た。
ちなみに六属性持ちがどのくらい異常かというと、それを知ったセリルがその場で卒倒するレベルである。もし、その存在が世間に知れれば国が動く可能性すらあるレベルである。
事実、過去に庶民の子供から六属性持ちが生まれ、それを知った領主が子供を親から取り上げるという事件が起こった。そこまでなら偶にある話だが、それに国が介入し王家が養子としてその子供を迎え入れるという前代未聞の事件が起こった事もあるのだ。
この話自体は数百年前の話だが、それでも六属性持ちがどれくらい異常か理解できただろう。
そんな事とは露知らず。ルナとミラはその後も談笑を続けていた。
「ミラ、そろそろ続きをしましょうか」
「あ、お母さま!」
そんな時、フローリアと話していたセリルが戻って来た。
どうやら魔法の特訓を再び開始するらしい。
「ふふ、ミラ頑張ってね」
「はい、お姉さま!」
元気に手を振るミラに対して、ルナは微笑みながら小さく手を振り返した。
「さて、ルナ。私たちも始めようか」
「はい、お母様」
返事を返しつつ、ルナはフローリアが持ってきた木剣を受け取るのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
解説
この世界の魔法属性は<火・水・土・風>の四属性と<光、闇>の二属性となっています。あとはそれらの上位属性と種族などによる特殊属性があります。
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