第11話 依頼受注

 さて、邪魔者は追い出したし、依頼掲示板を見に行くか。


「え!?ルナさんスルーなんですか!?」

「シャルルさん。……行きましょうね?」


 行きましょうか?ではない。行きましょうね?である。

 へルネスに面倒見るって約束したし変質者には近づけられないよね~。うん。

 着ぐるみを着たやつが変質者じゃなければ何か教えてほしいですねー?(ゲス顔)


「ほら、シャロちゃん達も行きますよ」

「ぇ、あ!待ってよルナちゃん!」

「待ちなさい!ルナルティア・ノートネス!!」


 シャロちゃんとシャルル君の手を軽く引いてやると二人揃って一瞬身をこわばらせた後素直についてきた。今の硬直は何?そんなに俺に手を握られるの嫌だった?そんな事は……無い、よね?

 何となくショックだったので掲示板前ですぐに手を離した。二人の表情を見るのが妙に怖いので、前を向いたまま質問を投げかけることにする。


「それで、皆さんはどの様な依頼を受けるつもりなのですか?」

「え、ええっとですね」

「えと、えと」


 もういいかなと思い振り返ってみると少し挙動不審な動きをする二人がいた。


「? 如何かしましたか??」

「「何でもない――です!」よ!」

「そう、ですか……」


 むむむ、何か距離をとられてる気がする。変な威圧感でも出てるのか?

 ……あ、深窓の令嬢そういうキャラで通したの俺だったな。彼らからすると妙な壁が今もちゃんと張られてる訳ね。


「ところで皆さん既に受ける依頼の形態は決まってるんですか?」


 何となく一回目の質問を聞き流された気がするのでもう一度似た様な質問をする。


「えっと、一応討伐を受けようかと思ってるんですけど……」

「けど、ですか?」

「ルナさんの意見も聞いてみたいなと」

「私の意見ですか?」


 俺の意見か。まあ、オリエンテーションの内容を考えれば採取系かな?

 ただ、問題はオリエンテーションの内容が発表されていない事だよな。まあ、毎年恒例の企画だから少し調べればわかる事だし言ってもいいか。


「そうですね。その前に皆さんはオリエンテーションの内容をご存知ですか?」

「知ってます」

「えっと……」

「知ってますわ!」

「んん……」


 シャルル君、ヴァイオレットは知ってると。ヴァイオレットは大方、あの従者の双子かシャルル君が調べてきてそれを教えてもらったんだろうなぁ……。

 で、シャロちゃんは知らなかったのか。クライン君はどっちかよくわからん。


「では、ヴァイオレットさんお答えをどうぞ?」

「精霊の森で精霊さんたちと仲良くなることですわ!!」

「はい、正解です」


 パチパチと手を叩いてやると、ヴァイオレットは手を腰に当ててフンス!とばかりのドヤ顔を決めた。うぜぇ。

 俺は胸の前で合わせた指先をそのままに話を続ける。理由は胸の前で手を合わせてるポーズ可愛いよね。という如何でもいいものだったりするので、割愛。


「オリエンテーションでは精霊の森で精霊探しを行うわけですね。さて、ここで一応、障害となるモノが存在します。魔物ですね。一応と付けたのは引率の先輩方が基本は退治してくれるからです。ですが数が多かったり、不意を突いてくる様な魔物がいれば、当然引率の先輩たちを抜けて私たちに向かってくる事でしょう。その様な事になった場合、私たちは先輩が救援に来てくれるまで自らの力で凌がなければいけません。

 さて、ここで問題です。この条件にそっくりな依頼形態があります。それは何でしょうか?」


 わりかし簡単な問題だから全員分かってもよさそうだけど……

 ああ、シャルル君とクライン君の男組はもうわかったみたいだな。シャロちゃんとヴァイオレットは……わかってなさそうだな。うん。


「では、先程に続いてヴァイオレットさん答えて頂けますか?」

「え、え、えっと……」


 ちらちらとヴァイオレットはシャルル君に目線で救援を頼む。

 シャルル君が仕方ないなという顔でヒントか答えを教えようとしたので、先回りして微笑みを向けておく。それにより、シャルル君はほほを引き攣らせて動きを止めた。

 さて、さっきのムカつくドヤ顔と普段からの金切り声の仕返しはしたしそろそろ答えの発表でもするか。


「残念、時間切れです」


 軽くパンと手を叩いてヴァイオレットの意識を浮上させる。


「そんな……」


 愕然とするヴァイオレットは放置して次の人を当てる事にする。


「では、そうですね。クラインさんは分かりましたか?」

「ああ。ん。採取依頼。合ってるか?」


 返事をしながら頷いたクライン君はあっさりと正解を答えてくれた。

 ヴァイオレットが非常に悔しそうな顔をしていて胸がすく思いだ。よく、やったクライン君!


「はい、正解です!素材を集めながら、周囲を警戒する必要もある採取依頼はこの度のオリエンテーション対策に持って来いだと私は思うのです。皆さんは如何ですか?」

「なるほど。いいと思うよ!ルナちゃん!」

「ふふ、ありがとうございます。シャロちゃん」


 あとは……


「シャルルさんはどう思いました?」

「え、あ。凄くいいと思います」

「よかったです」


 ほっとした。これで三票。過半数で押し切れるな。

 まあ、絶対採取依頼じゃないといけないって訳じゃないんだけどな。最悪、採れなくてもインベントリから出せばいい、という安心感があるのとないのじゃ、あった方が確実にいいと思うのだ。


「ヴァイオレットさんは如何ですか?シャルルさんも賛成してくれているのですが……」

「ぐぬぬ……分かりましたわよ!!やればいいのでしょう!や・れ・ば!!」

「ええ、ヴァイオレットさんは物分かりが良く素直で良い人ですね」

「貴方は物凄く性格の悪い人ですわね!」


 ふむ、如何しようか。今の発言をネタにまだまだ揶揄おうと思えば揶揄えるな。

 ただ、たかが依頼を決める作業で時間がかかり過ぎている気もするし、ここは仕方なくスルーしてやるか。


「クラインさんもそれでよろしいですか?」

「ん、構わない」


 満場一致で採取依頼を受けることに決まったので次は採取依頼の中でもどの依頼を受けるのかを話し合った。

 ただその時、王都周辺の植物の分布をまともに理解しているメンバーがいなかったので、態々冒険者ギルドの資料室に行く羽目になるとは思いもよらなかったな。ちなみに俺は事前調べで知っていたのだがルナの姿でそこまで知っていると少々おかしいので知らない事にした。


 そうして皆で資料と睨めっこして決めた依頼は浄化草の採取依頼だった。もっともその過程で、もっと難しい依頼を受けたい!とヴァイオレットがごねたが、今回の依頼の目的は全員の実力確認と連携強化だと懇切丁寧に説明してやると黙った。まあシャルル君の助力もあったし今回は楽だったな。


「さて、これから一時的にパーティーとして登録する訳ですけど、パーティーリーダーはシャルル君で構いませんよね?」

「「え?」」

「ん?」

「……ん?」


 何故かシャルル君、シャロちゃん、クライン君が首を傾げている。俺も首を傾げた。


「えっと、私何かおかしな事を言いましたか?」

「いいえ!何もおかしなことなんてありませんわよ!」


 急にヴァイオレットが元気になったな。

 何かおかしい事でもあったか?んー?わからん。

 何故、シャルル君もシャロちゃんもクライン君も困った顔で目配せしているんだ?


「ルナさんがパーティーリーダーをするんじゃないんですか?」

「え?」


 はっ?俺がパーティーリーダーとか……無いな。うん。

 というか何で3人共そういう考えに至ったんだ?全く、理解できない。……うーん、ダメだ考えても分かんない。ここは素直に聞いてみるか。


「えっと……。あの、どうして私なんですか?」

「え、だって。ルナちゃん皆を纏めるの上手だし、物知りだし」

「強い上に、機転もきく」

「そういう訳で、てっきりルナさんがパーティーリーダーをやると思ってたんですけど……」


 うーん、そう言われてもなぁ……


「そう言われましても……私は索敵や近接戦、個人戦闘の方が得意なので、単独行動も多くなると思いますし……何より、もう班長はシャルルさんと書いて書類を提出してしまったのでシャルルさんがパーティーリーダーをやってくれませんか?」

「え!?」


 そういえば何の違和感も覚えずシャルル君の名前を班長の欄に書いたな。

 あー、でも普通班長は皆嫌がるよな。そう考えると少し悪い事したかもな。


「シャルルさん。お願いします。私もヴァイオレットさんも貴方にリーダーになって欲しいと思っているんです。リーダーは大変かもしれませんがどうかお願いできませんか?」

「うっ、わ、分かりましたから」

「まあ、よかったです!シャルルさん本当にありがとうございます!」


 ふむ、両手を胸の前で握って上目遣いでお願いしてみたらあっさり承諾してくれたな。ふふ、何事もやってみるもんだなぁ。


 この少女、純真でお淑やかで心優しそうな見た目なのに中身は真っ黒であった……。

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