第10話 少年少女たちはいざ行かん冒険へ
ガタゴトと馬車に揺られる。
今日は元の世界で言う土曜日。初等部の学校はお休みだった。
さて、今日は珍しい事に大雑把な目的を基に市街を散策する訳ではなく既に約束をしているのだ。約束の相手はオリエンテーションで同じ班の皆。何だかんだ週末までの数日で俺もクラスに馴染んできた。
ちなみに如何やら俺はクラスで冷徹な秀才や深窓の令嬢の様なポジションについたようだ。やはり意図的に出しているお嬢様な雰囲気の所為か班のメンバー以外とはあまり話せていなかったりするのだが……まぁ、存在としては認められたっぽい。
皆との集合場所は冒険者ギルドという事になっている。
待ち合わせ場所が冒険者ギルドなのにはちゃんと理由があって、班のメンバーの実力を見たり、連携の訓練をしたりするためだ。その際に目的があった方が分かりやすいという事でギルドで依頼を受けることにしたのだ。
偶然にも全員が冒険者ギルドに登録していたのも切っ掛けの一つだろう。あ、今のうちにステータスカード変更しておかないと。
表示項目は……名前、レベル(偽装)、クラス(偽装)、冒険者ランク(改変)の4つでいいな。取り敢えずレベルは87くらいに情報操作するとして……クラスは魔法戦士、奇術師の2つにしておくか。
本当は魔法戦士だけでもよかったんだけど、模擬戦で色々な武器を使ったりした所為でクラスに奇術師をセットしてないとおかしく感じそうだからな。流石に戦士で弓を使ったのはミスだったと深く反省しております。
「そろそろ見えてきそうですね」
ここ最近で道も覚えてきたのでそろそろ活動範囲を広げてみてもいいかもしれない。
一応、車内だからと人目を気にせず指操作でウィンドウを開き時間を確認する。現在の時刻は8:55集合時間5分前。ホントはもう少し早く出たかったのだが、貴族というのは早く行き過ぎてもダメなんだと5分前~5分過ぎの間くらいで着くのが望ましいとか何とか執事に言われた。体面を気にしないといけないのは慣れないなぁ。
そんな事を考えていると馬車が停止した。
御者は馬車をギルド近くの空き地前で止める事にしたようだ。
「ルナ様、到着しました」
御者席についている小窓が開けられ声を掛けられる。
「ご苦労様です。帰りは徒歩で帰りますので先に戻っていてください」
「いえ、流石にそれは……お嬢様を徒歩で戻らせたとなれば私の首が飛びますので。帰りの時間をお教えください。その時間に迎えに参ります」
むぅ、一人で出る時も普通にあるし流石にそれは無いと思うんだけどな。ああ、ここまで話が通ってないのか。今度、執事長のメイズさんに頼んで他部署にも通達しておいてもらおう。
「はぁ、分かりました。皆さんと相談して決めますので少し待っていてください」
「畏まりました。では、お気を付けて」
今日は戦闘がメインなので黒属性をメインにしたゴシック調のコートを≪魔装≫で再現している。ただ、黒一色だと味気ないので首元を覆う白いファーやコートに青いラインを引いたりしてみた。
御者が扉を開けてくれるのでそこから備え付けの階段を下りる。
「っ……眩しいですね」
今日は妙に日照りが強い。あまり日焼けしたくない俺には嫌な日だな。
「≪魔装:ゴシックプリンセスアンブレラ≫」
以前、仮想ウィンドウを使って設計した≪魔装≫を試す時が来たようである。
≪魔装:ゴシックプリンセスアンブレラ≫は黒属性の≪魔装≫で周囲の光を喰らう用に設計した物だ。ただ、この設定が凄く難航した。普通に使うと馬鹿みたいに周囲の光を喰らいつくして数m程真っ暗な空間になってしまうのだ。
結局、日焼けしなくあまり違和感のない暗さまで落ち着けるのはできなかった。では、どうしてその問題を解決したかというと紫外線は全て吸い尽くすのは既定路線にして、余分な黒属性を削り白属性に置き換えたのだ。元々、骨組みなどは白属性で再現する予定だったので丁度いい。
で、だ。置き換えた白属性でどうするかというと、喰い尽くした分の光を白属性で補給したのだ。自分の魔力で作った光なら紫外線とか気にしなくても大丈夫だからね。
そろそろ行くか。もうすぐ集合時間だしな。
「では、少し待っていてくださいね」
「はい、勿論です」
……さてと、向かいますか。
ふむ、ミスったかもしれん。
声をかける前にそんな事を思った。既に俺以外のメンバーは揃っていたのだが、その全員が制服だったのだ。何というか……俺だけそこはかとない仲間はずれ感が……
ハブられてないよね?俺。取り敢えず行くか……
「皆さん、ご機嫌よう」
「あ、ルナさん」
「遅いわよ!」
「おはよー!ルナちゃん!」
「……ん、ども」
上からシャルル君、ヴァイオレット、シャロちゃん、クライン君だ。
シャルル君は俺の方に振り向き、ヴァイオレットは目くじらを立てている。シャロちゃんは明るく元気にこちらへ手を振り、クライン君は寡黙なタイプなので会釈だけだった。
折角なので俺もシャロちゃんに軽く片手で手を振り返して会話に参加する。
「お早いですね」
「貴方が遅いだけですわ!」
「あら?時間通りですよ?」
「ぐぬぬ……」
「ヴィオ落ち着いて」
うーん、相変わらずヴァイオレットは俺のことが気に食わないらしい。取り敢えず意趣返しにインベントリから懐中時計を取り出して見せてやると唸りだした。それでいいのか伯爵令嬢。まあ、いいか。
「ところで受ける依頼はもうお決めになりましたの?」
「ううん、皆でルナさんが来てから決めようって事になってたから」
「まぁ。お待たせしてしまいましたようですね」
「そうですわ!!」
ヴァイオレットはスルーの方向で。
「では、皆さんをこれ以上この暑い陽射しの外に立たせておくのも忍びありませんし中に入りましょうか」
「そう、思うなら早く来なさいよね!」
俺はごもっともでと内心では思うのだが、俺の意思でこの時間になった訳ではないし謝らなくてもいいかなとか思ってたりもする。
何よりお前は俺と同じ立場に近い筈なんだから俺の事情くらい分かんだろ!という気持ちが一番にあったりするのだが。まあ、余談である。
そんなこんなで冒険者ギルドに入るとクマがいた。うん、スルーで。
「皆さん立ち止まって如何か致しましたか?」
「いや、ルナちゃんアレ」
「はい。クマの着ぐるみですわね?」
それがどうかしましたか?という感じで小首を傾げてみる。うん、中身が誰とか何となく想像がつかないわけじゃないけど俺は知らない。知らないったら知らないのだ。
……後ろ手で魔導携帯のメールアプリを開き、文章を作成した。その時間、一度も手元を見ることなく行われたそれは僅か10秒の出来事であった。
クマからピロリンという着信音が響く。
クマはそれを無視した。
再びクマから電子音が響く。
クマは華麗なスルーを決める。
――ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪ピロリ♪ピロリ♪ピロピロピロピロピロピロピロリン♪
如何やらクマはメール爆撃を受けたようだ。
流石にクマに視線が集まる。クマは仕方なく魔導携帯をポッケから取り出し内容を開いた。
「く、クマ!?」
クマは一も二もなく駆けて行った。
そして、その日。二度とクマは戻って来なかった。
「何だったんだろうね?」
流石のシャルル君も頭に疑問符を浮かべている。
その場で真実を知るのはクマの中身の人物とそのメールが送られてくる元凶となった色々な意味で真っ黒な少女だけであった。
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