第12話 初戦闘
シャルル君に色じ――げふんげふん。シャルル君を私の可愛さでノックダウンした……でもない。シャルル君をパーティーリーダーに決定した後、俺たちは何事も無く依頼を受けられたので、大まかな帰還時間を御者に伝えて屋敷に帰らせた。
「さて、それでは皆さん。冒険の準備はよろしくて?」
「皆貴女待ちでしてよ……」
「あら?それは失礼致しました。ですが、準備は大事ですよ?」
「何も持ってない貴女にだけは言われたくありませんわ!!」
ヴァイオレットの言葉に仕方ないのでインベントリからごそっと適当に何種類かのアイテムを出して見せてやる。
「これでも足りませんか?」
「ぐぬぬ……」
「まあまあ、落ち着いてヴィオ。でもルナさんヴィオの言葉も少しは聞き入れてあげてほしいな。これでもヴィオはルナさんの事を心配してるんです」
「な!?シャルル!?何を言ってますの!?」
ほう、俺のことを心配ね。
……無いな。今のは明らかに俺に絡む為の理由付けだろ。
まあいいや。ここはシャルル君の考えを聞こうじゃないか。
「アイテムボックスは物を出すまでにタイムラグがあるのでその隙を狙われる事もあると思うんです。ルナさんは体術もできるので問題ないと言われたらそれまでなんですけど、武器くらいは手に持った方がいいんじゃないかなってヴィオも思ったんだと思います!」
いや、まあ一理あるんだけどね。多分、ヴァイオレットはそうは思ってないんじゃないかなぁ……
ちらりとヴァイオレットの顔を盗み見ると目を逸らされた。やっぱり、シャルル君の気のせいの様だ。
まあ、装備問題は≪魔装≫で一瞬もあれば装備を作れるし、他にも服にいろいろ仕込んでるから問題なかったりするんだけどね。仕込み装備は一見わかんないよな。
「ふふ、そうですね。心配しなくても門を超えれば杖を持ちますよ。ただ、私の杖は大きくて目立ちますからね。街中では出さないようにしているんですよ。それに……」
すっ、と素早く近づきシャルル君の喉元に手を添える。
正確には手ではなく服の袖から延びる針をだ。
「いつでも戦闘はできますわ」
ルナの怪しい笑みにシャルルは武器を当てられているのも忘れて飲まれてしまう。
「あ、う。は、離れて下さい!!」
俺とシャルル君の間に入ったのはシャロちゃんだった。
俺とシャルル君の距離を離すようにぐっと押された。
「ルナちゃんいきなり人に武器を向けちゃダメだよ!そしてシャルル君はルナちゃんをじっと見すぎ!!」
「あらあら、怒られてしまいましたね」
「じっとは見てないよ!?」
「言い訳しない!」
俺はシャルル君がシャロちゃんに説教されているのを眺めながら針と糸をしまう。
糸は針を投擲した際の回収用だ。ひっぱられればすぐに抜けるように作られているので糸を敵に手繰られる心配はない。
「今見せたように私の服には様々な武器が仕込まれています。なので心配ご無用です」
「えっと、それって攻撃を受けたとき自分に刺さったりは……」
「しませんよ。基本的に。ただ、服ごと切り裂かれる様な攻撃を受ければ刺さるかも知れませんね。もっとも、服が切り裂かれる様な状況に陥っている時点でほぼ負けのようなものですから問題ありません」
服は≪魔装≫で作ったものなので魔力をうまく動かせば仕込んである武器を射出したりもできる。
ふむ、まだやった事はないから後で少しやって見せようか。
「そろそろ依頼に向かいましょうか。私の魔法の腕や装備の仕掛けなどもお披露目したいですしね」
「だから皆、貴女を待っていたんですわよ!!」
……これに関しては言い訳のしようもないので、澄まし顔でスルーを決め込むことにする。
◇ ◆ ◇
さて、やってきました。薬草の採取地帯。
いつ、モンスターが襲ってきてもおかしくない状況です。っと。
俺たちは事前に決めた陣形で歩を進める。
陣形は前衛に剣士のシャルル君と短剣使いシャロちゃんを置き、中衛に鞭使いのヴァイオレットを、後衛に魔法使いの俺を置き、その護衛にクライン君がつくという配置だ。
俺に護衛とか必要あるの?とは聞かない。
今回は実力のあまりわかってない所を見る目的もあるが、どちらかというと連携を合わせるのが目的だからだ。それに、もしも俺とシャロちゃんの場所を交代するような事になった時、外したままで護衛がつかなかったら面倒だしね。気を配り続けるのも限度がある。俺の場合、その限度がスキルや加護・祝福のおかげでかなり上限高くなっているがやはり限度はある。
一応、対策として≪気配察知≫を常時発動し続けながらマップに敵対象を反映し続けているのだが、これも何処まで確実か分かったものじゃないからな。レベルが低いからか偶に気づけないモンスターもいる。
まあ、今のところ俺の察知に引っかからないのは本当に隠れることに特化した生物くらいなので、危険性は少なかったりするのだがやはり油断はいけないな。
そうして、徐々に近づいて来ている赤光点の方向に視線を向ける。
「そろそろ来ますよ。皆さん気を引き締めて下さい。斜め右前あたりから来ます。敵対象の数は7体。恐らく群れを作る習性からウルフ、ゴブリン、コボルトなどの種族系統かと予想されます。近づいてくる気配の移動速度、息遣いの高低差を鑑みるにウルフ種の線が濃厚です」
適当な理由付けをして注意を促す。
今言ったいずれも感じ取れてはいるが、そこまで自信を持って言えるのはマップから敵対象の鑑定を済ませているからだ。
「約10秒後に来ます。構えていてください。
――聖なる加護よ、皆を守りたまえ≪プロテクト≫
――火よ、くぐもらず、昂ぶりたまえ≪ハイファイ・マインド≫
――風よ、彼の者の身を包み、運びたまえ≪ソフト・ウィンド≫」
防御力アップ、精神高揚、過重負荷軽減の3つのバフを全員に掛ける。精神高揚は念の為だ。血を見て気絶なんてされたらたまったものじゃないからな。
「3.....2.....1.....来ます!!」
飛び出してきた一匹目のグリーンウルフをシャルル君が盾で地面に叩き落とした。続くようにシャルル君の背中にとびかかった二匹目をヴァイオレットが鞭ではじき返す。その二匹目にシャロちゃんが飛びかかって喉を掻き切った。
シャルル君が一匹目にとどめを刺したと同時に三匹目が飛び出してくる。シャルル君とシャロちゃんは動けず、ヴァイオレットも鞭を振り切った態勢にある。この後、普段ならどう対処するのか見てみたいものだがここでそれは酷過ぎるか。
「氷よ、貫け≪アイスランス≫」
三匹目は適当に撃った俺の≪氷魔法≫の槍に腹部を貫かれて草むらに消えた。
そして、シャルル君が態勢を戻し、ヴァイオレットが鞭を引き戻したタイミングで四、五、六匹目のグリーンウルフが同時に飛び出てくる。
四匹目と五匹目はシャルル君に飛び掛かり、六匹目はするりとその隙をついて抜けてくる。
「くっ!」
鞭を使うヴァイオレットは懐に入られるのがやはり苦手な様で大きく飛び退いて退避した。だけどなぁ。
後衛に敵を回してどうするんだか。
一歩俺が後ろに下がるとその前にクライン君が立ちはだかった。
六匹目は隙ができる様子のないクライン君をみて仕方なくそのまま突っ込む事に決めたようだ。やはりウルフ種は頭がいい。後衛を先に潰そうとするのは非常にいい判断だと思う。
俺は密かに後ろへ回り込んでいた七匹目の首を、インベントリから取り出した杖に付属する魔法陣の刺繍された布で一閃した。
それだけでボトリと七匹目の首が落ちる。
振り返ってみると丁度、四匹目をシャルル君が刺殺し、五匹目をヴァイオレットが捻り殺し、六匹目をクライン君が切り殺したタイミングだった。
うん、比較的手こずることなく勝てたな。
思った以上に全員、周りが見えている。ただ、最後に七匹目が俺のところまで来ている点だけは早めに改善して貰いたいな。さてと、
「皆さん、お疲れさまでした。光よ、清めたまえ≪浄化≫」
血糊を付けたまま行動したくないので服に着いた全員分の血を取り払う。ちなみに俺は血を浴びてないのだが気分的にスッキリするので自分にもかけた。
たかが一戦である。外に出ればこれからも同じような戦いは何度でもあるのだ。だからこそ、この様な所で立ち止まってはいられない。そう皆にも言い聞かせて休憩も程々に俺たちは再び約束探索に戻ったのだった。
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