第9話 ルナルティア・ノートネスのオリジナル魔法 1


 夜。

 ルナとミラは部屋で談笑していた。


「お姉さまのその服、夜空の星を散りばめたみたいで綺麗ですよね」

「ふふ、そう?嬉しいわ」

「お姉さまが選んだのですか?」

「ええ、まあ、そうかしら?」


 選んだと言っていいのか分からずルナは疑問形で返してしまう。


「何処で売られていたのですか?」

「え?えっと、その」


 ルナは内心で冷や汗を流す。


「お姉さま?」


 ミラの声が訝しげなモノに変わった。

 ルナは溜息を吐いた。もう、コレは言い逃れが出来ないと思ったからだ。


「先に言っておくけれど、この事は絶対に誰にも言っちゃ駄目よ?」

「?はい、わかりました」

「じゃあ、言うわね」


 ルナはココで一度タメを作った。なんだかんだ言って自慢したかったのである。


「コレはね。私が作ったの」

「………え!?」


 実に3秒間も停止したミラであった。


「お、お姉さま!?ど、ど、どういう事ですか!?」

「えっと、見ててね」

「は、はい」


 ルナは右手で胸元を隠すと常時発動させていた≪魔装≫を切った。


「え?お姉さま!?確かにお姉さまは綺麗ですけど私そういうのは良くないと……」

「落ち着いてミラ」

「お、お、落ち着いてますよ!?」

「ミラ」

「はいぃ!」


 ルナがジト目で睨むとミラは落ち着いた様だ。


「じゃあ、見ててね」

「ごくり……」


 ミラは何故か生唾を飲み込んだ。


「≪魔装:夜月のドレス≫」


 言葉に合わせてルナが一回転すると、そこには再びドレスを纏ったルナがいた。


「え?えぇぇぇええええええ!?」


 屋敷にミラの絶叫が響き渡った。


「静め鎮めよ≪鎮静≫」


 ルナはミラの絶叫による余りの近所迷惑さに早速、覚えたての魔法を覚えたての詠唱破棄で使ってみた。


「落ち着いた?」

「へ?あ。ごめんな――」


――ドンドンドン!


「お嬢様!!」


 先程の叫び声に護衛が飛んで来た様だ。

 ルナは溜息を吐いてベットから立ち上がった。


――ガチャリ


「煩くしてしまってごめんなさい。余りにも会話が弾んでしまって……」


 ルナは静かに頭を下げた。それを見た護衛達が逆に焦りだす。


「お、お嬢様!顔をお上げください」

「ええ、分かったわ。本当にごめんなさいね」

「い、いえ。ご無事で何よりです」


 ルナが素直に顔を上げた事であからさまに狼狽えていた護衛達が落ち着きを取り戻した。

 そんな中、ルナが内心で思い通りの状況にほくそ笑んでいたのは一人を除いて誰にも気が付かれなかった。


「では、お仕事頑張って下さいね?」

「「「ハッ!」」」


 護衛達はビシッと敬礼して去って行った。


「お姉さまって意外と黒いですよね……」


 ルナは後ろから聞こえたミラの言葉にペロッと舌を出して返すのだった。



     ◆  ◇  ◆



 さらに夜も更けてルナとミラが寝静まった頃、二人の部屋にとある人物が来ていた。


「確か、ココだったな」


 その人物は音も立てずに部屋に滑り込む。

 そして二人が寝ているベットに近づき……


「なんだ、フローリアお母様でしたか」

「ルn――!?」

「しーーーっ!!」


 ルナはフローリアの口元を手で押さえ、自分の唇に人差し指をあてる。ミラの目が覚めない様にだ。その後、ルナは親指でくっくっと扉を指す。

 ルナの外で話をしたいというアピールに気が付いたフローリアは素直に従う事にした。

 二人揃って忍び足で部屋を出る。


「ふぅ……それで、このような時間にどうされたのですか?」

「いや、ルナに話があったんだが、今いいか?」

「いえ、まあ、それは構いませんが……どうしてこのような時間に?」

「うむ、ルナは隠したがっているようだったからな」

「えっと、何をでしょうか?」


 廊下を歩きながらルナは首を傾げる。

 当然、ルナは行き先が分からない為、フローリアの背中に着いて行く形だ。


「魔法だ」

「……」


 振り返ったフローリアは真剣な瞳でルナを見つめていた。


「どうしてそう思ったのですか?」

「昼間、ルナは中級の回復魔法をいとも容易く使っていた。そんなルナが攻撃魔法を使えないという事は無いだろうからな」

「?」


 ルナはどうしてそれが隠している事に繋がるのか分からず、再び首を傾げた。


「うーむ。こう言えば分かるか?

 昼間ルナは使える三属性で攻撃に使えるモノが無いと言っていたが、あの腕なら確実に≪水属性≫の高攻撃力の魔法を覚えられるだろう。そうなれば、攻撃魔法が使えないと言う事は嘘になる。という事はそれを隠しておきたいのだろうと思ってな」


 ルナは思わず言葉に詰まった。

 フローリアの予想は正解だからだ。


「それを知ってどうするつもりですか?」


 ルナは敢えて警戒心を剥き出しにしている。


「いや、剣を教えるなら魔法と組み合わせて使える様にした方が良いと思ってな」

「それだけですか?」

「ああ」


 ルナはじっとフローリアを見つめる。


 ……。


「はぁ、分かりました。条件を付けさせて貰えるなら見せても良いですよ」

「ふむ、どのようなモノだ?」

「これから見る事になるであろう私の能力・・秘密・・に関わる事を一切他言しないで下さい。いいですか?誓えますか?」

「うむ。まあ、その程度ならいいだろう」


 ルナはフローリアが頷くのを見てニヤリと笑った。


「『我、汝の誓約を結ぶ』」


 ルナはフローリアの宣誓を神術語で縛ったのだ。

 ルナはそのやり方を既に知っていた。以前、シュレベレスに掛けられた≪守護の誓約≫がそれに当たる。

 何処からともなく現れた鎖がフローリアを縛り付ける。


「な!?――≪静寂空間サイレントフィールド≫――うぐぅぅぅうううううう!?」


 ルナは束縛される時の痛みを知っているのでフローリアが絶叫するのを予想できていた。その為に使用した魔法が≪静寂空間サイレントフィールド≫だ。

 この魔法は空間の振動を抑制して声量を抑える事が出来る魔法で分類上≪水魔法≫の中級魔法に分類されている。この魔法を<世界記録アカシックレコード>で発見した時、ルナが思わず≪風魔法≫じゃないのか……と呟いたがそれに答える者は誰もいないのであった。

 少ししてフローリアを縛り付けていた鎖が定着し消滅した。


「はぁはぁ……」

「フローリアお母様、大丈夫ですか?」

「ぐっ……問題無い……それよりも今のが何か説明してくれ」

「はい、わかりました。その前に、彼の者を癒せ≪ハイ・ヒール≫!では、説明しますね」


 ルナは≪ヒール≫の上位魔法である≪ハイ・ヒール≫をフローリアに掛けてから説明を始めた。


 神術語を使って行ったのは言葉通り誓約だ。

 誓約は相手が誓った言葉を縛る効果があり、この効果は相手の言葉の重さ・・とその内容によって誓約を破った時の効果リスクが決まる。

 今回のルナの能力を他言しないという内容の場合は破ったリスクが死に至るという判定になった。そして何故、ルナの情報がそこまで重い事になっているかと言うと神と関わりの深いものが多いからだ。その最も足るモノが先程使った≪神術語≫だろう。

 ルナは以上の内容を神や神術語などの事だけ暈して伝えた。


「ただ、まあ、破らなければ問題ありません。実際、私にも≪守護の誓約≫が掛けられていますからね」

「む、そうなのか?」

「はい。まあ、効果は私がミラを守れなければ死ぬといった程度のものですね」

「……」


 さらっとそんな事をのたまったルナにフローリアは絶句する。

 ルナの場合、内容が人間一人を守るといったモノだ。しかもその者ミラは何か特別な地位にいる訳でもない。

 だが、その誓いの言葉の重み・・がリスクを上げていた。もっとも、その分返って来るメリットもデカいのでルナ自身は気にしていなかったりする。

 そして、フローリアの場合はルナの秘密に触れる権利を得る事自体がメリットとして判定された様だ。


「それではフローリアお母様。訓練場に向かいましょうか?」


 ルナは今まで歩いてきた道筋で行く場所を予想してあった。だから、フローリアが訓練場に向かっていると気が付いたのだ。


「……う、うむ」


 フローリアは内心で出て来た蛇の大きさに頭を抱えたのだった。



     ◆  ◇  ◆



 俺とフローリアお母様は二人以外誰もいない訓練場で向かい合っていた。


「本気でやるんですか?」

「勿論だ」


 俺の言葉にフローリアお母様はノータイムで返答する。


「はぁ……分かりました。少し準備するので待って貰えますか?お母様もその間に強化魔法などを使っていてくれて構いませんから」

「む、いや、今回はルナの実力を見るのが目的なのだからそれでいいのか」


 一瞬の間、フローリアお母様は逡巡したがそのルールで受ける事にした様だ。恐らくフローリアお母様が迷ったのは普通の戦闘は準備など出来ないと言いたかったからだろう。

 当然、そんな事は俺もわかっているので、常に幾つかの魔法を展開していたりする。


「では、準備を始めさせて頂きますね。≪魔装:黒鎖こくさ≫」


 俺のその言葉に合わせて黒色の球体が九つ浮かぶ。

 数が九つなのは俺の処理能力的な問題だ。使用時の処理値の最大値を30%以内に収めようと思うと九つが限界だからだ。この最大値は維持や移動、攻撃、防御などの全てを処理した時の最大値だ。


「≪黒鎖:展開数3≫」


 俺の詠唱通り黒い球の内が三つが5mの鎖に変わる。

 ちなみに通常時の形態を球体に設定しているのは処理を軽くする為だ。

 三本の黒い鎖は俺の周囲1m範囲を漂うように回っている。


「≪魔装:死鎌デスサイズ≫」


 黒い魔力が俺の手元へと集う。

 最終的に黒い魔力は俺が持てるのが不可思議な大きさの大鎌となった。


「我が望むは加速なり。光の速度を我に与えたまえ。≪ライトニング≫」


 俺の体を淡い光が包んだ。

 使った≪ライトニング≫の魔法は高速で移動する事が出来る様になる強化魔法だ。


「コレで最後。≪魔装:反射鏡≫」


 空中で白い魔力が三つの塊になり鏡を形作った。

 これら三つが俺の本気武装である。


「フローリアお母様、準備終わりました」


 フローリアお母様の方を向くとフローリアお母様が固まっていた。


「……あの」

「はっ!ああ、すまない。驚きで固まってしまった」


 ぶるぶると首を振って意識を取り戻したフローリアお母様は自身も強化魔法を使い始めた。


「我が望むは加速なり。雷よ。音をも置き去りにするその速度を我に与えたまえ。≪ボルカニック≫!」


 コレで両者の準備は揃った。

 俺はフローリアお母様に告げる。


「開始はお任せします」

「ああ、分かった。この銀貨が地面に着いた時が戦闘開始だ。いいな?」


 俺は頷きで了承の意を伝える。


――ピン!


 戦闘開始の合図となる銀貨を今、フローリアお母様が弾いた。

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