閑話 冒険者の少年少女 2
依頼を受注する際、ギルド証を提示する必要がある。理由は受注した依頼を記録する為だ。
コレをする事で何処のギルドでも依頼の完了が出来る様になる。
余談だが受注処理の作業風景は図書館の貸し出し業務に似ている。
当然、受注量が多い佳夜の方が処理に時間が掛かる。その為、結果的に四人を待たせる形になった。
「もう、遅いですわよ!!」
「ははっ、悪い悪い」
「まあまあ、ヴィオ。落ち着いて」
今にも佳夜に噛み付きそうなほど大口を開けてヴィオは佳夜に怒鳴りつける。淑女にあるまじき行為であるが、まだ子供のヴィオにとって知った事ではないのだろう。
それこそ年齢詐欺の転生者でも無い限り、まだ7、8歳の子供に分かれという方が間違っている。
そんな訳で佳夜はその様子を軽く流しながら手を頭に置こうとして……止めた。理由は単純で女子の髪の毛をセットする手間がどれほど大変なモノか身を持って知っているからだ。
「んー。とりま、何処かで昼食でも食べながら依頼の相談でもするか」
佳夜は行き場をなくした手をそっと下げながら話題転換を図り、場を誤魔化そうと試みる。
「あ、はい」
そんな佳夜に気付いてか【神童】の少年――シャルルも話に乗って来てくれる。
「ちょっと!聞いてますの!」
「はいはい、もう謝っただろう。で、何食べたい?」
誤魔化せはしたが、話題転換は上手くいなかった様だ。
ごり押し気味に佳夜は二度目の話題転換を試みる。
「別にシャルル様と一緒なら何でも構いませんわ!それよりも――」
「だとよ、で、何食べたい?」
「え、僕ですか?」
「イエス」
こうして佳夜は無理矢理二度目の話題転換を成功させたのだった。無理矢理過ぎな気もするが、気にしたら負けだ。
佳夜達は流れる様な連携でシャルルが選んだハンバーグ屋にヴィオを移動させる。
彼女はその間も愚痴を言っていたが佳夜はそれに取り合わず往なし続けたのだった。
「さて、作戦会議……の前に自己紹介でもしようか。あと、そこの双子ちゃん達もちゃんと席に着こうか」
佳夜はニコリと微笑みながら、メイドと執事の如くシャルルとヴィオの後ろに立った双子に言う。
「いえ、私達はヴァイオレット様の従者ですので」
双子の姉が二人の総意を伝えて来るが佳夜は微笑んだままじっと二人見ている。
じっと見つめあう三人の沈黙に我慢しかねたシャルルが口を挟もうとしたタイミングで佳夜が口を開いた。
「そう言う問題じゃないんだよ。今、この場では俺もお前達もお前達の主も平等にただの冒険者なんだよ。分かるか?」
「いいえ」
「……申し訳ありませんが理解しかねます」
双子の両方に拒否の意を示された佳夜は笑みを深くする。
そんな佳夜は満面の笑みを浮かべながら人差し指を下に向け――暴挙に出た。
「いいから『席に座れ≪Dic principi Tyr≫』」
「なっ、んで」
「身体が勝手に!」
≪神術語≫による強制命令である。
双子を無理矢理席に着かせた佳夜は追加命令を出す。
「そこから『立つ事を≪Stantibus≫禁ずる≪Ban≫』」
「ぐっ」
「動けなっ……」
「止めな――≪
佳夜が双子に何かしたのを見て、ヴィオが佳夜に怒鳴りつけようとする。
だがヴィオが叫ぼうとするのを前行動で気づいた佳夜は、彼女が叫ぶよりも先に≪静寂空間≫の魔法を展開した。
「おいおい、出禁にでもされたら如何すんだよ。ただ、座らせただけだから取り敢えずその杖を閉まえ」
「ヴィオ落ち着いて!ヴィオじゃ勝てないよ!」
佳夜に杖を向けたままのヴィオの手をシャルルが引いてもう一度、座らせようとする。
「そんな事知りません!!私の従者が何かされたのですよ!」
「はぁ~、解除解除。ほれ、これで動けるだろ。ただ立つなよ。もう一回座らせんのは面倒だからな」
佳夜はまた暴れられたら堪らないとインベントリから身分を示すとあるものを取り出した。
「さて、改めて名乗り直そうか。初めましてシャルル・メルガノス、ヴァイオレット・サウィス、カミラ、ディノ。
俺の名前は神無・R・夜月・Joker。王国特務部隊所属でアルカナは【道化師<Joker>】の逆位置だ」
取り出したのはヘルネスから貰った【道化師】のアルカナだ。
元々、登録した魔力を流す事で絵柄が浮かび上がる仕組みのカードなのだが、色々と弄っている所為で小ネタ機能が増えている代物である。
具体的には現れる絵柄が佳夜の魔力だと反転して現れ、カードから黒色の魔力が淡く溢れる。ルナの魔力だと正位置で白い燐光が溢れるという機能がある。
更にそこから魔力を込めると絵柄が浮き上がり立体的に起き上がるという隠し機能もあったりする。
ショボいと言うなかれ。薄い紙にそれだけの効果を詰め込むのは至難の業なのだ!
「で、シャルル君が聞きたそうにしている通り
「アレ?何の話ですの?」
『……転生者』
シャルルが日本語で呟いたのを聞き取り佳夜は微笑む。
「その通り、君と同じ存在だな。まあ、『転生』の理由は変わるだろうけどな」
佳代は敢えて転生という単語だけを日本語で言う。
シャルルが周囲の人間に転生の事を話したがっていないと何となく感じ取ったからだ。
「理由ですか?」
「いったい何の話をしてますの!!」
二人だけで通じ合った様な話をしているのが気に入らなかったのかヴィオが佳夜に突っかかる。
それに対し、佳夜は肩をすくめて意味ありげにシャルルへと視線を送るだけで済ませた。
「む~!!!」
ヴィオは佳夜の余裕ありげなその態度に頬を膨らませる。
その様子を見て佳夜はふっと笑った後に、まあと言葉を繋げた。
「話しても良いと思えば何時かそいつが話すだろうさ」
「シャルル!今すぐに教えなさい!!」
「えぇ!?」
「はい、ダメー。無理やり聞き出そうとするのは禁止な」
佳夜は人差し指でヴィオの唇を押さえると同時に≪封印術≫のスキルで簡易的な封印を施した。
効果は転生者関連の質問禁止だ。そこそこ強い封じ方をしたのでまあ無効化される事はないと思われる。
ちなみに質問しようとすると、
「んーー!!むーー!!」
「だから、聞こうとすんなって」
この様に唇同士が塞がって喋れなくなる。簡易な制限のため抜け穴も多いが――念話とか、筆談とか――その分簡単に制約を掛ける事ができたのだ。
「さて、今身分を明かした訳だが……ある程度信用して貰えたか?」
「これだけの事をしでかして信用して貰えると思ってるんですの?」
正に正論である。ヴィオの癖に。
この短時間でヴィオの性格が嫌な方で信頼されてしまっている気もするが、まあ気にしないでおく。
「……でだ!」
「また無視ですのぉぉおおお!!」
ちなみに≪静寂空間≫と≪幻術≫を展開したままなので、ヴィオの喚き声は周囲に一切漏れていない。
未だ喚き散らすヴィオを無視して佳夜は話を進める。
「俺は今ある事件を追っている。それにシャルルお前が遭遇した事が判明した訳だが……話を聞かせてもらえるか?」
「ある事件ですか……?」
「≪女教皇≫が関わった奴だ。俺の知り合いも別件だがそれに巻き込まれてな」
巻き込まれた知り合いというのはルナとミラの事である。
あくまでも繋がりはあるが、ルナと佳夜は別人という提で通していくつもりなのだ。
「既に幻術やら結界やらで周囲とは隔絶してある。だから、周りを気にせずその時の状況を話して貰いたい。
ちなみに従者の二人にそれっぽい理由をつけて座ってもらおうとしたのは結界を張るのに邪魔だったからだな。まあ、結局無理やり座ってもらう形になってしまったんだが」
いつの間にか張られた幻術や隠蔽結界、人払いの結界などをようやく認識したシャルルは驚きで目を丸くする。
さらにシャルルに認識できるように一部解いた隠蔽を掛け直してやれば、彼の目が一層丸くなる。
佳夜は臨んだ通りのリアクションが得られて満足気だ。
「出来るだけ詳しい情報が知りたい。ユニークスキルなんかの話せない所は『言えない』で構わないから話して貰えるか?
報酬は昼食代と薬草採取のレクチャーなんかで良いよな?」
「あの、出来ればそのお知り合いの襲われた時の状況も教えて欲しいんですけど……駄目でしょうか?」
シャルルの言葉に佳夜は少し驚いた後、自分も関わった事件が気になるのは当然かと納得する。
「んー。結構、面倒な事情が関わってくるから何か所かは
【虚飾】スキルが関わってくる以上、これは絶対だ。
彼にもある程度ごまかす事を認めているのだから、この条件は飲んでもらわなければいけないだろう。
「はい、それは勿論構いません」
「んじゃ、交渉成立だな。まず、そっちの話から頼む」
「分かりました。あれは秋から冬に移るくらいの季節の事で……」
早速、話し始めたシャルルの話を佳夜は急いで<管理神の加護>に記録するのだった。
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