返礼編 閑話
閑話 冒険者の少年少女 1
ミラを攫う計画を行った帝国の連中を如何するかお悩みの今日この頃。ルナは≪虚飾の仮面≫を使い佳夜の姿で冒険者ギルドを訪れていた。
目的は依頼を受ける為だ。
何故か?
ヘルネスの依頼を受けたはいいが、まだ学校が始まっていない為に当然報酬は出ていない。そうであるのに後先考えず色々と買った所為で金が無いのだ。
そして考え無しの行動も悪いが、それを行った場所も悪かった。ココは王都。良いモノが揃っている上に聊か物価が高いのだ。
良いモノが揃っているのでつい買い物が捗る。その結果、物価が高いのも拍車をかけ、お金は恐ろしい速度で溶ける様に消費されていく。そして金欠に陥る。
恐るべき負の流れである。王都怖い。
そんな訳で佳夜は依頼を確認していく。
見るのは主に採取、討伐系などの納品系依頼だ。護衛や運輸、調査などの依頼は
「取り敢えずコレとコレ。後コレ、コレ、コレは確定か」
手にしたのは全て採取依頼。
選んだ理由は【カミルミ】の庭で普通に育てているからだ。
これなら達成できない可能性は無いし、普通に売るより高い金額が手に入り、その上ギルドの貢献度も得られる。
えっ?それアリなのと言われそうな方法だが、アリだ。
依頼内容が『何処何処の○○』の採取だと駄目だが、『○○の納品』などなら問題ない。
前者の場合は場所の縛りが付いているのでルール的にアウトだが、後者の場合はその素材が目的であって手に入るのなら別に何処産でも問題無いのだ。
更に言えば前者もその場所で採れたモノを誰かから買い取り、納品した場合はルール的にありとなる。
当然だが品質が良い事は大前提だ。
極論を言ってしまえば依頼者
佳夜が次々、依頼書を手に取っていくなか突然、冒険者ギルドが騒めき立つ。
気になって視線を向けると小学校6年生位の子供達がコチラに向かってきていた。
佳夜は自分もその視線に巻き込まれるのが嫌で依頼書探しを切り上げようとして……止めた。
「【強欲】か……」
誰にも聞こえない様に音を遮断した上で独り言を呟く。
そのパーティーの中心を担っていると思わしき少年。茶髪の優しそうな男の子から大罪者の反応を感じとったのだ。
彼らのパーティーは四人パーティーで、一人は気の強そうなお嬢様然とした女の子、残りの二人は深緑色の髪をした双子だった。
見た感じ。【強欲】の少年とその婚約者。そしてその婚約者の付き人達といった所だろうか?
佳夜はそう推測する。
「おい、見ろよ噂の【神童】だぜ」
【神童】その言葉に佳夜はピクリと反応する。
その二つ名には聞き覚えがあった。確かミラ誘拐と並行して行われた事件の被害者だ。
佳夜は少し考え接触する事に決める。
「うーん、どれ受けよっか。ヴィオは何がいいと思う?」
「わたくしは何でも構いませんわ!」
「これとか受けてみよっか?」
「『グリズリーベア討伐』ですの?グリズリーベア?」
「うん、グリズリーベアっていうのは2m位ある熊の魔物だよ。強さはDランクパーティー位かな」
「ちょっといいか?」
会話に割り込む形だがまず話しかけない事には始まらないのだ。
丁度入り込みやすい話をしていたのも良かった。
「えっと、何でしょう?」
聞き返して来た【神童】の顔を見て佳夜は思わず殴りたくなる衝動を覚える。
きょとんとした表情を作っているが微妙に誤魔化しきれていない。テンプレ来たーという心の声がいまにも聞こえてきそうだ。
元役者志望としては流石にこの演技力の無さには腹立ちを覚えるのだ。
「受けるなら採取系にしておけ」
だからこそちょっと揶揄いたくなったのは仕方ないだろう。仕方ないか?
「それはつまり僕達のような子供は戦えないとでも言いたいんですか?」
ちょっと怒気を露わにする【神童】君。
「いや、別にそんな事は言ってないさ。ただ俺は君達のような子供はこっちを受けるべきだと助言してるんだ」
彼は今、遠回しに『餓鬼は安全な採取系でも受けておけ』と言われている気分だろう。
だが実際は違う。佳夜は『君達の様に優秀な子供の冒険者は色々な経験を積むべきだ』という意味でいったのだ。
まあ、勘違いされるのを分かっていて言った感は否めないが。
それはともかく。勘違いされがちなのだが討伐依頼は危険だが、それに比するくらい……いやそれ以上に採取依頼も危険なのだ。
考えてみて欲しい、戦うぞー!と意気込んだ状態で敵に不意打ちを決める討伐依頼と、いい素材を探すぞー!と意気込んで地面にや樹上に意識を向け注意力が散漫になっている時に不意打ちをくらい易い採取依頼。
何方が危険かはもう丸分かりだろう。
佳夜の様なルールの抜け道を使わない限り採取依頼の方が危険なのだ。
「むっ、僕達はちゃんと戦えます!」
「ああ、分かってるぞ。だから採取依頼を進めてるんじゃないか」
「へっ?」
揶揄いが成功し佳夜はフードの中でほくそ笑む。大人げない。
余談だが【神童】君の呆け顔はしっかりと<管理神の加護>の機能の一つのスクリーンショットで保存しておいた佳夜であった。本当に大人げない。
佳夜は黒魔力でフードの中のしたり顔を隠しながら【神童】に採取依頼の難しさを説明する。
「と言う訳なんだが……理解できたか?」
「うっ、はい、何となく……」
「……あー、まあ今回は俺が着いていってやるから。後進の面倒を見るのも先輩の仕事だしな」
自然な会話で目的に向けて流れを寄せる。
意外と難しい事を即興でやってのけるのはトラブルの多い役者ならではか。
「えっと、いいんですか?」
「ちょっと!何を勝手に話を進めてますの!」
「えっ、ヴィオ、でも……」
「そんな得体の知れない冒険者は信用できませんわ!」
得体の知れないと少女に言われ佳夜は苦笑する。
確かに室内でもフードを被っている自分は変人に見えるだろうと。
「ほら」
「何ですの?」
「俺のギルド証だ」
佳夜は自己紹介の名刺代わりにギルド証を少女に提示する。
「カンナ・ヤヅキ?名字持ち……という事は貴方まさか貴族ですの!?その
「あー、勘違いされがちだが違うぞ。生まれが平民にも名字を着ける場所だったんだよ」
「な、なんだ、そうですの。驚かさないでくれます?」
「……名字持ち。生まれ……」
【神童】の少年は佳夜の言葉に反応する。
今の佳夜の台詞はまさに転移者がよく使う言い回しだったからだ。
「あの。そのフードを脱いでもらう事ってできますか?」
「ん?コレか?」
佳夜は指の先でフードを挟み軽く揺らす。
そしてまあ良いかと呟きフードを外した。
「ほれ。これでいいか?」
「……黒髪黒目!」
【神童】は佳夜の容姿を見て確信する。この人は転移者だと。
「あの、後でお話いいですか」
「ん。ああ、問題無いぞ」
「ちょっと聞いてましたの!」
「ゴメンねヴィオ。でも如何してもこの人に聞きたい事があるんだ」
「む~、もう知りません!」
お嬢様は機嫌を損ねてしまったらしい。
口先をツンとして、顔をプイっと逸らしてしまっている。
「待て待て」
「何ですか!!」
スッとお嬢様に向けて指を指した。
「その手に持ってるの、俺のギルド証。ぷりーず・みー」
「何を意味の分からない事を!……返せばいいんでしょう!返せば!」
佳夜は投げられたギルド証をしっかりキャッチし溜息を吐く。
ちなみにだが後半のワザとらしい英語は勿論わざとだ。【神童】の少年に更に確信を与える為の行動である。
「たく、人の物を投げるなよな……。っと、それで依頼だったな。
取り敢えず今回は一日で戻って来られる範囲のがいいか……。となるとコレとコレの二つ位が丁度いいかな。こんだけなら昼過ぎくらいには終わるだろ。ほれ、受けて来い。俺は自分の分受けてくっから」
佳夜は適当なモノを見繕い、【神童】に握らせる。
そして、自身は一番空いている列に並んだのだった。
「ヴィオ。僕たちも並ぼう。二人も良いよね?」
「……分かりましたわ」
「はい」
「お任せします」
続く様に【神童】の少年も列に向かったのだった。
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