第18話 返礼 4

「――ッ!?」


 起きざま、なかなかに素早い反応でドランは後ろに跳ぶ。


「へぇ、やりますわね」

「……お前はッ!」

「汚いですわ。唾を飛ばさないで下さる?」


 更にふざけるなと続けようとしたドランを見て俺は先に口を開く。 


「喋るなと言っていますの。その汚い口を閉じなさい」

「ふっがッ!?」


 おぉ、綺麗な舌の噛みっぷり。

 って、あ。逃げた。いや、まあ、逃がさないですけどね。


「世界よ狂え≪狂想劇場≫」


 ドランの目の前の空間を、俺の前の空間に繋げて――


「≪回輪撃≫!」


 出てきたドランの頭部を回し蹴りの技能アーツ≪回輪撃≫で撃ち抜く。

 ≪狂歌乱舞≫を重ね掛けした効果せいで、いつもの数十倍の威力をもって放たれたそれは的確にドランの頭部を撃ち抜き、粉砕する。


「って、きゃっ!キモい!汚い!キモいキモいきもい!!」


 結果、威力余って飛び散った頭の中身を無属性の魔力を固めた障壁で受け止める羽目になった。

 べちゃりと透明な魔力障壁にへばりつく内臓が正直かなり気持ち悪い。ついでにいうと、首から噴き出している血の鉄錆染みた匂いもあまり心地いいモノではない。


「うえぇぇ……」


 一応、いっておくが吐いた訳では無い。

 思わず頭で思った感想が口から溢れただけだ。

 色々と見ればわかると思う。正直、ただ不快なだけだぞ。


「これ、血液感染とか大丈夫ですわよね?」


 ≪魔装≫で作った服に着いた赤い染みを見て呟く。うへぇ、ちょっと心配だな。

 さっさと、元に戻してしまおう。


「我、今ココに失われた魂を再誕させる。

 世界の法則よ、狂え。≪狂想劇場≫」


 俺のイメージに従ったのか、飛び散った血肉が集まり、元のドランの形を取った。

 おお、これなら少しぐらい手荒に食い散らかしても大丈夫そうですね!


「ぅぁ……」


 あ、起きた。

 俺はニッコリと可愛らしい笑みを心がけていう。


「おはようございます♪」

「ひっ……」


 喉を引き攣らせながら無様にドランは後退る。

 うんうん、健気だねぇ。ん?口をもごもごさせてどうしたんだ?

 って、ああそっか。死体に隷属紋掘って、隷属させたんだった。

 それで、口をもごもごさせてるのは命令で口を閉じさせたままになっているからか。


 ふむふむ。つまり、死んだ程度じゃ隷属は切れないって事かな?

 おっと、また実験みたくなっちゃってるな。本題、本題。


「喋っても良いですわよ?」

「お、おまっ!」


 うーん、これ以上やると真面に話が聞けなくなりそうだな。

 というか、たかが二回死んだ程度で錯乱しないで貰いたいですね。

 先に情報を聞き出してしまうとするかなぁ。


「やっぱり、もう一度黙りなさい」

「げぅッ!」


 さてと、まずは、


「今から私が聞く質問に嘘偽り無く答えなさい。誤魔化すのも禁止です。ついでにいえば、補足情報があるならそれも一緒に教えてください。あ、本当に知らない場合は知らないで構いませんよ」

「……」

「返事は、はいかイエスしか受け付けませんわよ?」


 じゃあ、どんどん質問をぶつけていきますかー。


「まず、貴方が一番隠しておきたい秘密を教えてくださいな?」

「……前世の記憶を持っている事だ」


 む。意外とまともな秘密が来たな。

 もっと、赤裸々な暴露話とか聞けると思ったんだけどな。


「じゃ、ここ最近回って来た依頼で一番ヤバいものは?」

「……【神童】の暗殺依頼とノートネスの末娘の拉致依頼だ」


 あ、案外あっさり当たりが出たな。


「お前が聞きたいのはノートネスの方だな。そいつの姿で来ているという事はそういう事だろう」

「いえ、そちらも聞きたいですが、ワタクシが聞きたいのは【神童】の方です」


 まぁ、万が一の億が一を考えて予防線を張っておくとする。


「まず依頼の内容とその結果。あとは依頼主を教えてください」

「……依頼の内容は【神童】シャルル・メルガノスの暗殺。方法は問わず。結果は失敗した」

「理由は?」

「【女教皇】の邪魔が入った」


 【女教皇】か。

 何かの際に調べた様な……。特務舞台関連を調べた時か?

 ……いや、違う。多分、有名どころでこの世界にもありそうな有能スキルを調べた時に引っかかったんだろう。


 確か、その時は定番所で≪時空魔法≫≪次元魔法≫≪千里眼≫≪陰陽術≫なんかを調べた後、ふと思いついて≪未来予知≫って検索したんだよな。

 で、その時に引っかかったのが、今代の【女教皇】。

 ユニークスキルに≪未来予知≫を持ってた筈だ。

 そこから更に調べようと思ってもその時は権限レベルが足りなかったんだっけか?


 ふむ、今ならいけるか?

 ……いや、後にしておくか。


「それで、依頼主は?」

「……帝国だ――づアぁああああああああ!!」

「な!?」


 突然、ドランの胸元に広がった魔法陣に悪寒を感じ、すぐさまMIND値でごり押し気味に制御権を奪い取り上から術式を塗り潰して無効化する。


「ぐくっ。あああああああああああああ!!」

「無効化できてない!?」


 薄く笑ったあと、再び発狂しだしたドランに焦りを感じながら、俺はすぐさま<管理神の祝福>を発動する。


「毒か!」


 『猛毒・Ⅱ 7.04』の表示。

 だが、その表示も一瞬の事で凄まじい速度で数値が上がっていく。

 その表示の上からさらに<管理神の祝福>を発動。



<フレアニブルの猛毒>

・フレアニブルの牙から滴る猛毒。体内に入ると数十秒で全身を回り、そのものを死に至らしめる。

特徴:体内侵入後、身体の中にある火属性の魔力を暴走させ爆発させる。



 爆発!?

 って事は自爆かよ!!


「もう一個の件の依頼人を今すぐに答えなさい!!」

「お、なじ、…があああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」


 同じって事は、こっちも帝国か!!

 くっそ、もう時間はなさそうだな!


 俺は全速力でドランから距離を取り、無属性魔力を使って全身を覆う球状の障壁を展開する。


――ギリギリ間に合った


 そう、思った瞬間にドランが爆発し。


――ズオオオオオオオオオ!!!


 俺と周囲一帯を飲み込んだ。





「……ぅわ」


 爆音で激しく脳が揺れたのか眩暈がする。

 あと、耳がキーーンってなってる。うぅ、痛い。


 それだけじゃない正直、全身防御の為に球状で障壁を作ったのが良くなかった。

 アレの所為で爆風に乗ってしまいアホみたいな高さまで打ち上げられる羽目になった。

 しかも、グルグル回転のオプション付きである。吐きそう。


「し、死ぬ」


 よし、俺、屋敷に帰ったら絶対に酔い耐性取るんだ。

 さてと、粉微塵になった相手も蘇生させられるのだろうか?

 試してみるとしようかな。

 俺は息を整える為に大きく深呼吸を行う。


「ふー……よし。

 我、今ココに失われた魂を再誕させる。

 世界の法則よ、狂え。≪狂想劇場≫」


 うぁ……コレきつ。

 魔力ごっそり持ってかれたな。

 あー、3,000MPか。結構多いな。


 原形が残ってないと復活にも必要となる魔力が増えるって事か?

 それにしても、キツイわぁ。正直吐き気が……


 ああ、ダメダメ。そろそろ復活しそうだし。しっかりしよう。


「ぅあ?」

「おっはようございま~す!」

「は?何故、何故だ!何故だなぜだなぜだぁあぁぁぁあああああああああああああ」


 うん、もういいよね。聞きたい事も聞けたし。

 いやぁ、それにしても肉体木端微塵の状態から復活させると隷属紋は消えるのか。

 まあ、それも後でいいや。


 そろそろミラの件のお礼をしないとね。


 俺は一度≪虚飾の仮面≫を解除して元のルナの姿に戻る。

 さてと、まずは挨拶をしないとね。


「今晩はドランさん。初めましてワタクシはルナルティア・C・ノートネスという者ですの。それにしても、この度はワタクシの可愛い可愛い妹に経験値をプレゼントしてくれてありがとうございます。今晩はそのお礼にワタクシ自ら狂った夜をお届けに参りました。さあ、夜明けまでまだ二時間ほどあります。一緒に楽しい夜を猛り狂ったダンスでもして過ごしましょ?ああ、でも楽しいのはワタクシだけかもしれませんね?それでもワタクシ精一杯ドランさんに楽しんで頂けるよう頑張りますね♪」

「止めろ、来るな、くるなぁぁあああああああああああああああああああ!!!!!!」


 それから二時間の間ドランの声が止む事は無かった。

 ええ、それはもう相手を楽しませるためにあれこれ手を変え品を変え――誠心誠意、頑張りましたとも。

 その声が如何いった類いのものだったかはご想像にお任せします♪

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