第9話 拠点変更


 スフィアさんと別れた後、俺は強めの隠蔽を発動し、路地裏に走り込んだ。

 そして、その場で一回転しながら、仮面を被る動作を連動して行う。面倒だがこれがスキルの発動モーションらしい。


――≪虚飾の仮面:水無月 佳夜≫


 そして、スキルが発動する。

 ロングコートの裾がたなびき、気がつけば視界が高くなる。


「はぁ、何時も思うがこのスキル、服装は変わらないんだよなー……。一々、作り変えるのが面倒だな……。まあ、女装するよりはいいんだが……」


 拡張したコートを見ながら俺はボヤく。

 当然の事ながらカチューシャなんかのアクセサリーも総入れ替えだ。靴はヒールから革靴っぽい靴に、スカートは地味目な灰色のズボンに、白雪のネックレスは十字架のネックレスに、黒ゴスなシャツは……あんまり変わって無いな。

 俺は≪魔装≫の出来栄えを軽く確認した後、フードを被って大通りに出た。

 隠蔽は相変わらず抑えめにしてあるが、コレでも一般人には効きすぎな気がする。わざわざ相手を避けながら移動するのは面倒だなと思いつつも、フードを外す気にはなれない。理由は容姿が――黒髪と黒目――目立つからだ。

 あー、ホントなんで異世界人って黒髪黒目以外の外人ばっかなんだろうな~。俺、今までミラ以外の黒髪黒目持ちって見た事無いぞ。


「は~、ホント面倒だな」


 溜息を吐きながら歩いていると、少しして目当ての建物を見つける事が出来た。

 その目当ての建物に近づいてみて俺は思った。


――ああ、賑やかで煩せぇ。


 入り口まで聞こえてくる喧騒に頭を押さえたくなる気持ちを抑えながら俺は目当ての建物――冒険者ギルドに踏み入る。

 すると、再び併設されている酒場からドンチャン騒ぎが聞こえてくる。聞こえてくる声の殆どは野太い親父の声だ。誰得だよ。


「はぁ……」


 また溜息が溢れた。何故だろうこの姿で居ると溜息が増えている気がする。

 もしかして、前世の俺ってそんなに溜息ついてたのか?うわ、だとしたら……って何か思考も嫌な感じの思考だな。

 は――危ない。また、溜息を吐く所だった。


「おっと」


 俺は後ろから人が歩いてくる気配を感じたのでさっさと中に入ってしまう。というか扉の前で棒立ちは流石に邪魔だったな。相手が気付くかどうかは別として。


 俺はそんな如何でも良い事を考えながら列に並ぶ。

 ちなみに窓口の数は二十と以外に多い。その内、一般窓口は十五ヶ所で、残りは全て特別窓口になっていた。

 で、窓口の受付の性別比だが……女性7:男3だ。これはつまり、ギルド所属の冒険者が逆の割合の男7:女性3という事なのだと思う。

 そして肝心の列の人数だが……何処も同じくらいかな?

 結論、考えるのが面倒なので適当に作業速度が速そうな人の所に並ぼう。


 さてと、待ち人数は4グループか。こうやって見ると、結構人いるな。ぱっと見で100人は確実に居るといえる。酒場と奥で業務してる職員、あと上の階にいる奴等や練習場を使ってる冒険者達も足せば千人に届きそうだ。


「次の人どうぞ!」


 あ、列が一つ進んだ。残り三つか。

 俺は待ち時間を潰す為にインベントリから読みかけの本を取り出す。

 本の題名は『一から始めるレストノア王国建国記』。内容はレストノア王国が建国されてからどういった軌跡を歩んで来たかだ。ぶっちゃけ歴史書だな。

 それにしてもこの本、よくもまあコレだけ器用に嘘を並べたモノだな。事実を知らなかったら俺でも騙され……る事は無いとしても、一般人だったら確実に騙されるだろう。

 と言うかこの『第二章 レストノア王国 栄光の道』っていうサブタイがなんかもう胡散臭い。あー、もう褒めたいのか批判したいのかよく分からなくなってきたぞ!?


「おい、貴様!邪魔だ――ッ!?」


 あ、なんか横で馬鹿貴族が誰かも知らない冒険者に絡もうとして瞬殺された。

 はぁ……面倒なの多すぎだろこのギルド。と言うか見事な瞬殺っぷりだったな。剣の柄で鳩尾に一撃と首筋に一撃か。あまりの早業に一瞬目を引かれてしまった。

 まあ、俺には関係ない事か。一応、俺の剣術って騎士剣って呼ばれる王道の剣術だし。柄での攻撃は邪道なんだとか。まあ、フローリアお母様は剣術に邪道も王道も無いとか言ってたけどな。生きてた方が勝者なんだと。満面の笑みを浮かべながら「では毎日の訓練で生き延びている私たちは全員勝ち組ですね!」とふざけて言ったら拳骨された。解せぬ。

 あとで拳骨の理由を聞いてみたら、「それは毎回深夜の勝負で負けている私への嫌味だぞ」と言われた。剣術の訓練でボロ雑巾の様にされた後の発言だったので本当に深い意味は無かったのだが、よく考えてみれば嫌味にも取れた。あの一件に関しては今でも要反省の一件として心の中に刻まれている。口は禍の元とはよく言ったモノだと思う。


「次の人どうぞ!」


 お、如何やら何時の間にか俺の番が回って来ていた様だ。


「今日は何の御用でしょうか?」

「拠点変更の申請に来た」


 簡潔に目的を述べる。


「ステータスカードを提示していただいても構いませんか?」


 俺は無言で頷いてステータスカードを差し出した。

 余談だが、特一級ステータスカードだろうが、三級ステータスカードだろうが、外見は同じだったりする。これは上位カード保持者への配慮らしい。まあ、一つだけ色違いで浮くのもねぇ。


「それでは、お預かりします。それと、5分程お時間を頂く事になりますが宜しいでしょうか?」

「ああ、構わない」

「では、こちらをどうぞ」


 そう言って差し出されたのは番号券のようなものだった。ちなみに番号は147番である。


「ん」


 俺は番号券を受け取り、フロアの端に移動する。とりあえず、そこにあった椅子に座って待つ事にした。


 言っていた通り5分後に俺の番号が呼ばれた。吃驚するぐらい時間ぴったしだった。

 うわー……ココまで綺麗に合わせてくると少し怖いな。いや、まあ仕事ができるってのは良い事なんだろうけどさ。


「お待たせしました。こちら、ステータスカードを返却させて頂きますね。それでは、改めまして。

 カンナ・・・ヤヅキ・・・様。冒険者ギルドレストノア王国本部へようこそ。私共は貴方様を歓迎いたします」


 まんま定型文である。

 ああそうそう。カンナ・ヤヅキつまりは夜月 神無だが、これは俺の偽名だ。

 なぜわざわざ偽名を使っているかと言うと、本名だと色々面倒事が多かったりするからだ。具体的には転移者や転生者に知り合いが混じったりすれば名前から辿られる危険性がある等だ。俺、自分で言うのもなんだけど百年やそこらで死ぬ事は無いと思うんだよな。だからこそ、そういう危険性は考えておかないと。……などと考えて偽名を名乗っている訳では無い。

 理由はもっと単純で、シュレベレスに前世の名前は人に言うなと言われたからだ。

 脳内で聞き返してみたが残念な事に返答は無かった。ただ、ミラに言うのだけはOKらしい。何故だ?


 あと、ぽろっと出た寿命の話だが、それこそ、寿命での老死は無いと思う。なんか外見全然変わんないし。背伸びないし!!

 もう八歳なのに身長が全然伸びないのは本当に何故なのだろうか……。最近ミラに抜かれたのを気にしている俺であった。

 ほんっっっとーーーに余談だが、とある一部だけならば俺はミラを大きく上回って発育がよかったりする。ただ、その母性の象徴が大きくなっても、ぶっちゃけ邪魔なだけで全く嬉しくなかったりする。

 ああ、それと以前そんな贅沢な?事をミラの前で言ってしまった時、一週間口をきいて貰えなくなった。やはり口は禍の元である。


「それと、失礼ですが本人確認の為、お顔を拝見してもよろしいでしょうか?」

「ん?ああ、まあいいけど」


 俺はフードの入口を覆っていた闇魔力を薄めこちらを覗ける様にする。


「申し訳ございませんが、フードを取って頂いてもよろしいですか?」


 如何やらコレだけでは納得してもらえないらしい。


「絶対か?」

「出来ればで構いません」


 と言っているが……如何やら見せた方がよさそうだ。

 後ろで何となしに喋っていた集団がちらちらとこちらを見ている。倒せない事は無い、どころか瞬殺できるが荒事は避けるべきだろう。あんまり目立ちたくないし。


「はぁ、これでいいか?」

「……はい、ありがとうございました」


 ああ、今≪鑑定≫されたな。

 成程、闇魔力の所為で≪鑑定≫が通せなかったのか。と言ってもな……恐らく鑑定結果は名前以外の鑑定不能だろう。実際、微妙そうな声を出してるしな。

 折角なのでお返しに≪鑑定≫し返させて貰うかな?まあ、拒否ってもやられたらやり返すの精神でやるけどな。



≪ステータス≫

名前:ネル・フィベール

レベル:101

性別:女

種族:人間

先天クラス:商人 レベル89

      事務員 レベル196

後天クラス:識者 レベル4

      鑑定士 レベル38

HP(生命力):333/333

MP(魔力):232/269

ST(体力):282/365

STR(攻撃):201

INT(魔攻):498

DEF(防御):121

MDEF(魔防):143

SPD(走力):215

VIT(持久力):316

MIND(精神力):305

DEX(器用):382

MAT(魅力):714

LUCK(運):33

EXP(経験値):21906/188000


先天スキル

・魔力操作 レベル72(+16)

・精神制御 レベル14


クラススキル

・売買 レベル137(+89)

・処理能力向上 レベル31(+20)

・並列処理 レベル22(+20)

・処理工作 レベル21(+20)

・記憶力上昇 レベル32(+16)

・植物知識 レベル210(+40)

・物品鑑定 レベル101(+38)

・人物鑑定 レベル196(+38)

・植物鑑定 レベル216(+38)


後天スキル

・無魔法 レベル125(+16)

・火魔法 レベル21(+16)

・水魔法 レベル19(+16)

・料理 レベル7(+4)


ユニークスキル

・知の理 レベル2

・【未開放】


称号

・令嬢

・識者


加護・祝福・契約

・無し


状態

・疲労(微)

・筋肉痛(太腿:微)

・肩凝り(微)



 どうだろうか。

 以前から表示項目が随分と増えていた為、かなりカットした結果こんな感じに落ち着いた。まだ多い気もするがコレでも最低限までカットしたつもりだ。

 特に能力値の値はだいぶ減らした。具体的には1/10くらいの数になったかな?以前の見るだけで一苦労の状態から改善しただけマシだろう。

 まあ、とりあえずこの≪鑑定≫のレベルならまず間違いなく問題無いだろう。それが分かっただけでも十分だったかもな。


「あ、あの……その……そんなに見つめられると恥ずかしいです……あぅ……」

「ん、ああ悪い」


 俺はさっさとフードを被り直してその場を離れる事にした。

 いやね、例の一団の視線がウザいんだわ。それに、なんか若干内輪揉めしてるし。


「あいつ、俺のネルさんを……」

「ああ゛!?何言ってんだネルさんは俺のなんだよッ!!」

「あいつ……ヤるか?」

「くっそ、羨ましい!!イケメン死すべし!!慈悲はねぇ!!」


 ……なんか、ただのファンクラブっぽい。よし、帰るか。


「なあ、そろそろステータスカード返してもらってもいいか?」

「ふぇ!?あぅ……はいぃ……」


 ……さっきからこの受付嬢なんか反応変だな。

 これ以上は藪蛇な気がする。こういう時は何だっけ?三十六計逃げるに如かずだ。

 って訳で、ぼーっとしてないでステータスカードを早く!!

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