第10話 佳夜、パンダに拉致される?
ステータスカードを返してもらった俺は、しれっとその場を離れた。
ハッキリ言おう。視線がうぜぇ。
俺はチラリと依頼表を横目で見て、気になる依頼が無いのを確認するとそのまま冒険者ギルドを出る事に決めた。
体を入り口に向け――
「――ッ!?」
あ、あれ?おかしいな今、視界に意味不明なモノが映った気がするぞぉ~?
と言うかなぜ今までアレに気づかなかった俺!?迂闊!?
「……」
俺は一度咄嗟に下げた視線をもう一度上にあげる。すると、そこには……何故かパンダがいた。やはり見間違いではないらしい。
……いや、着ぐるみか。ああなんだ、焦って損し……ってなんで着ぐるみ!?
意味不明な事態に俺は思わずパンダ目掛けて<管理神の祝福>を発動する。そしてその結果を見て――
「――は?」
「やあやあ、如何したんダパン?」
「……」
「おやおや、驚かせてしまったパン?」
あっれ~、頭痛がしてきたぞぉ……。
いや、もうね……何でこんな所にいるのこの人。
「いや、あの、なn――ごふっ!?」
いきなりパンダからタックルを喰らった。
衝撃は吸収しているのでダメージはないが少しお腹から空気が抜けた。
反撃しようとして俺はすぐに思いとどまる。うっ、≪魔装≫を使うには少し人目が多いな。
その逡巡の間にパンダは俺を肩に担ぎあげた。
「ふんぬっ!すまないパン!奥の個室を借りるパン!」
「えっ、はい。分か――」
「おい、こら、離s――」
「ありがとうダパン!では、行くパン少年!」
「おっ!?おわっ!?離せぇぇええええええええええ!!」
こうして俺は瞬く間に個室に連れ込まれたのだった。
「無理です。マジで勘弁してください。俺そっちの気は無いんです。百合は素晴らしいと思いますがホモは死んでください」
がくがくぶるぶる。
肩から降ろされた俺はふざけた演技をしながらソファーまで逃げる。
「ああ、すまないパン。ただ、話がしたかっただけなんダパン。って何気に最後って唯の私見と暴言だよな!?あと、おれもそっちのけは無い!!」
こんな状況でも冗談を言えるくらいには余裕がある。
まあ、色々打てる手はあるからな。本当、ココロには常に余裕を持って過ごしたいものだ。
さてと、小芝居も程々にそろそろ本題に入るべきかな?
「で、俺を拉致って何が聞きたいんですか?――」
如何やら俺はこの人物につくづく縁があるらしい。
「――国王ヘルネス・K・イーヴェル・レストノア様」
俺は足を組んで話を聞く態勢を整える。
明らかに失礼な態度だが今回は確実に相手側が悪いので高圧的にいかせて貰おう。
そう思っていた矢先、国王は床で正座を始めた。
「?」
「すぅーーーー」
何を聞いてくるのだろうか?
少しドキドキするな。
「すみませんでしたーーーーー!!!」
「………は?」
見事な土下座であった。orzである。
もう一度言おう。orzである。DOGEZAである。
ただし、パンダ着ぐるみが躊躇無く雰囲気を粉砕しにかかっている。
俺は状況が全く理解できず思わず気の抜けた声を出した。あぁ、頭が痛い……
「いや、マジで……どうしてこうなった……」
「失礼します。お茶をお持ちしま――ひぃ!?あぁぁあああ……」
あ、さっきの受付嬢さん。
カオスなこの部屋の状況を見て完全に固まってしまっている。
「あー……まあ、とりあえず……。水、かかってるぞ」
「え?きゃあああああああ!?ご、ご、ごめんなさいいいいいいいい!?」
そう、受付嬢さんが驚いた事でお盆の上にあったコップが倒れてしまっていたのだ。
しかも、めっちゃ着ぐるみにかかってる。吸水性良さそうだな。おい。
さて、どうしようかこの状況。部屋の中で土下座する国王と受付嬢そして足を組んで偉そうにしている俺。状況は最悪である。
……とりあえず、二次災害を防ぐ為にも扉の鍵閉めるか……。ああ、もう意味わかんねぇよ。さっさと家に帰りたい……。
だが、当然そんな訳にもいかず、俺は全員が落ち着くのを待つしかないのだった。
◆ ◇ ◆
「厄日だ……」
とりあえず受付嬢さんには≪催眠術≫や≪幻術≫などなどを掛け、洗脳――もとい記憶の一部を忘却させて貰った。いや、これは受付嬢さんの為でもあるんだ。あんまり知り過ぎても良い事ってないからね。平凡が一番だってよく言うじゃないか。
などと適当に自己弁護しながらも、そろそろ目を逸らしていてはいけないもう一つの事柄に触れるとしようか……。
「あの、とりあえず着ぐるみ脱いだらどうですか?」
「ああ、そうだな……」
何か急に大人しくなったな。
「で、改めて聞きますが何でこんな所にいるんですか国王様?」
「いや、城に居てもやる事無いし。判子押すだけなんて苦痛でしかない仕事をなんで黙ってやらないといけないんだよ――っと」
すぽっという音と共にパンダの首が抜ける。
中からは見た目25歳くらいのおっさんが出て来た。てか国王、意外と若いな。もう、娘が出来て25年、孫が出来て7年くらい経ってる筈なんだが……
「あ、悪い。後ろ開けてくれ」
着ぐるみの腕だと後ろに手が届かないらしい。もうちょっと考えて作れよ、おい。
仕方ないのでジッパーを下げ……再び上にあげた。
「お前はーーー!!何で服着てないんだよ!!」
もう、国王の威厳は無かった。
リアル版裸の国王である。あ~もう、また溜息が……はぁ……大丈夫かこの国。
「服を着ろーーー!!」
思い切り振りかぶって服を投げつけようとして一旦止める。
危ない。つい癖でルナ用のゴスロリ服出してた。流石にコレを国王に着ろとは言えない。と言うか着れないだろう。無理矢理着せたとしても犯罪的な状況になるのが目に見えている。
「だーもう……ほら、コレでも着ろ」
代わりに練習用で適当に作った服を押し付けておいた。
地味目な服だし、これなら誰にでも合うだろう。
「はぁ……んじゃ、俺は出てるから終わったら声かけろよ」
もう、敬語で喋るのも馬鹿らしくなった。
それに恐らくだが――相手も同じ
ひとまず廊下に出た俺は、改めて衝撃的だった状況を思い出す。
あの時、ステータスカードを返してもらった俺は、ギルドを出ようとして何となしに入口へ目を向けた。その途中で強い違和感を感じてそちらを向いたのだ。
するとそこにはパンダ……の着ぐるみを来た『
その様な理由から、このパンダが大罪者だという事を俺は瞬時に理解した。だが、コチラは虚飾の大罪者すでに追放された大罪者だ。相手はこちらが大罪者だという事を理解できない。
だから、先手を取れる筈だった。
だが、結果は知っての通り気を抜いた瞬間に一撃くらってしまっている。もっともダメージは皆無で被害もほんの少し肺を圧迫される程度の物だったが、それでも不意を突かれて一撃を見舞われたのは事実だ。
まあ、思わず手加減無しのカウンターを放って辺り一面を血の海にするよりかは大分マシだと思う事にしよう。
で、まあパンダが国王だと知ったのは、大罪者だと分かったパンダをすぐに<管理神の祝福>で調べたからだ。ちなみにその時の鑑定情報がこちらである。
<パンダ着ぐるみ:六番>
・パンダの着ぐるみ。
・クロード・セルヴィア作。
・細部まで凝った作りがなされている。所有者固定の魔法が掛けられており所有者以外は脱着する事が出来ない。所有者の許可があれば可能。
・全身防具
レア度:7
品質:A
所有者:ヘルネス・K・イーヴェル・レストノア
【許可者一覧△】
残念ながら身体の一部も見えていない状態では中身であるヘルネス(国王)の鑑定は出来なかった。そこまで考えてのこの造りだとすればこのパンダを製作した人物は相当な切れ者だろう。まあ、恐らくそれはないな。どう見ても趣味丸出しの作品だし。
許可者一覧は数が多すぎて途中で見るのを止めた。さっきジッパーを開けられた事から俺の名前も今ならこの一覧の中に入っていると思われる。
それにしても、まさか国王が転生者だとは思わなかったな。
黒髪黒目じゃないからぱっと見の見た目じゃ転生者だって事も分からないし。と言うか転生者はほぼ全員、黒髪黒目になるモノだと思ってたがどうも違うっぽい。
ミラがそうだったから、もしかして?と思ってたんだけどな。
うーむ。これは大罪者じゃない転生者に会った場合の事も考えておかないとな。あー、糞。面倒くせぇ。
「着替え終わったぞー」
思考が丁度切れたタイミングで部屋の中から声が掛かった。
「はぁ、やっとか。じゃ、入るぞ」
ノックも無く、「入るぞ」と言う言葉と同じくらいで扉を開ける。
なんかもうね……この国王に礼儀とか面倒。
俺はため息混じりに歩いてソファーまで行く。
そこに腰かけたら早速、先程の会話の再開だ。
『さてと、一応確認だが日本人だよな?』
俺は今フードを脱いでいるので顔が見えている。
つまり俺が日本人だと言うのはすぐに見て取れただろう。
わざわざ日本語で喋りかけたのは万一の場合があるかもしれないからだ。
例を言えば転生者ではあるが俺の住んでいた元の世界とは全く別の世界から来た人物などだ。まあ、今<管理神の祝福>を使ってみた所、前世の名前は漢字だったのでまず間違いないとは思っている。
『ああ、うん。そうだ。あんたもそうだよな?』
『ああ、俺も元日本人だ。もっともこの見た目は前世の物だけどな』
『前世?転移者じゃないのか?』
さて、何と答えたモノだろうか。
正直、この国王とはある理由から仲良くしていたいという思いがある。
過剰な嘘は厳禁。だが、全てを包み隠さず話せばいいと言うモノでは無い。
ここは、そうだな――
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