村乃枯草

夫婦揃って、スーパーで買ってきた物を自宅で食べる昼食。日常のありふれた一コマ。 その途中の、ほんのわずかな時間に、主人公の心は揺れ動き、驚きと安堵の結末へとつながります。 これ…続きを読む

キーワードは「十年」。あらすじに書かれている通りに。 十年経つと、いろいろなことが起きます。本当にいろいろと。 読み終えたとき、そうなることもあるのかと思いますし、冒頭の描写の…続きを読む

思春期の少年が同年代の少女と出会う。人生経験が少ない彼は、何が起きているのか分からない。 でも、そこは大人と違い、キラキラ輝いていて、人魚姫の伝説を引用している通り、純粋な涙に似…続きを読む

この詩を評価する前に、評価する観点について語らせてください。 詩を「ポエム」と呼ぶ人と「詩」（特に「現代詩」）と呼ぶ人の間で、詩を評価する観点に大きな差があると感じます。 「ポ…続きを読む

作者は非日常を流麗に描写することを得意とする人。本作は一般青年の一人語りという形式を取るため文の装飾は抑えめですが、作中にはきちんと非日常が待ち受けています。 想い出は丸きり忘れ…続きを読む

本作の概要には、地球の化身を名乗る少女が現れると記されています。そして題名には、愛、とあります。 地球の愛とは何でしょう。人間の愛ですら定義に困るというのに。 これは手探りの愛…続きを読む

魔女。世界の理に従うのでなく、世界の理を曲げるもの。被造物から超越した存在。 そんな魔女が世界の命運を賭けて戦うとどうなるか?　自らの命も賭していながら、まるで遊ぶが如き笑みを見…続きを読む

題名にある「踏み出す」。それは自らの立ち位置を能動的に変えること。 冒頭で描かれるのは、ほんの些細な話。しかし本人にとっては重大な事。 人生を変えるのは、ほんの小さな一歩から。…続きを読む

唐突に伺います。あなたは孤独ですか？ 即座に答えられる人。口ごもる人。反応は様々だと思います。でも、今はそう感じない人も、思春期にはそう感じたのではないですか。 これは、孤独に…続きを読む

本作は、一部に現代物も含みますが、主要を占めるのは過去の日本を舞台にした掌編です。ホラー、という言葉より、怪奇譚、が似合う作品群です。 過去の日本ならば懐かしいのでしょうか。いい…続きを読む

カクヨムも多数の利用者が集まるサイトになりました。すると思います。利用者の一人くらい新型コロナに感染したのではないか。 その通り、感染を経験した人による体験談です。 筆者は日常…続きを読む

あるところで聞きました。人は、自分が何者であるか、その一部を他人に預けていると。 主人公は、特殊な制約を持つ作品世界において、少ないながらも信頼を置ける他者と関わっていきます。そ…続きを読む

一読して目に飛び込むのは密度。短い助詞。形容詞も己が持つ漢字が強く主張します。それでありながら破れることなく端正。 評者は現代短歌を好む人間でありますが、かつて歌は文語で書かれた…続きを読む

評者はゾンビ物に疎いです。それでも、レビューをお読みの皆様に、珍しいゾンビ物だとお勧めします。 目が覚めたら、周囲はゾンビに包囲されていました。果たして生き残れるのか。自分の生命…続きを読む

この小説は、引きこもる息子を抱える母が語り手です。 母は、引きこもる息子が何を考えているのか分からなくなってしまいました。 その息子が行動を起こす。すると母は息子が何をするのか…続きを読む

この作品を読み始めた人は、きっと夢破れた人間として、「あるある」と思いながら読むでしょう。 しかし、中盤から、詳しく言えませんが様相ががらりと変わります。そこからが本番。 中途…続きを読む

通勤電車に乗り合わせた乗客が、自分が見たものを思い思いに語ります。話が進むうちに、複数のカメラで撮影した立体映像のごとく、一つの立像を形作ります。 作中の登場人物は互いの心中を知…続きを読む

作品情報は次の一文から始まります。 > 当たり前に魔法が存在する現代日本。 魔法が存在する現代日本は、まるで別世界。魔法の描写が細密で、現実世界に存在しないものを実在するかと思…続きを読む

子どもにとっては現在がまるで永遠。そして追いかけっこに夢中。それが……

そこから物語は大きく飛躍し、きちんと着地します。

短い中に流転を味わえる、納得感の高い一作です。

男子だったら夢見るものがあります。特別な運命。ロボット。女の子。 この小説には、ロボットはありませんが、特別な運命と女の子が詰まっています。混じり気なし、純度100%。 作者は…続きを読む

これは喪失の物語。人と同時に世界を失う物語。

そして題名には「今はまだ」とついています。

未来を見たとき、この作品は道半ば。余白は読者に委ねられています。

評者は、主人公の行動を肯定する自信がありません。 いじめで自殺に追い詰められていいはずがありません。では、いじめた側の罪は如何ほど？ 主人公の行動は重大な結末を招きます。しかし…続きを読む

本作の主人公は、荒廃した未来で、AIを相手とするカウンセラーです。 カウンセラーの専門用語として「逆転移」があります。カウンセラーはカウンセリングの最中に、クライアントに対して様…続きを読む

この小説は、一人称で、すべてがモノローグ。 冷たく言えば、死人に口なし。しかし、かの人はそんな冷たい言葉で表される人ではなかった。 葬る人が、葬りたいものは、何だったのでしょう…続きを読む

主人公のみさき主任はAIを我が子のように愛しています。 みさき主任は人間で、AIはもちろん人工物ですが、AIに我が子としての愛情を注いでいます。 AIに我が子としての愛情を注ぐ…続きを読む

主人公はその日から見て、相当に経験を積んでいる。彼も、同じだけの時間を経たので、同様の経験を積んだはず。 それなのに、どうしてこんなことになったんだろう。 思わず自分を振り返っ…続きを読む

誰も録画・録音・メモしなかった出来事。関係者のうちの一人が忘れたら、その人の中から消えますが、他の人が覚えています。全員が忘れれば、世界から消えます。 忘れたい記憶は、世界から消…続きを読む

眼鏡は何のためにかけるのでしょう。物を見るためです。 眼鏡が要らない人には分からないかもしれませんが、眼鏡がないと物が見えない人がいます。 主人公とヒロインは、何かが見えていま…続きを読む

本作のヒロインは最強です。本当に最強です。読めば分かります。 そんなヒロインの生死を主人公が握っている。しかもヒロインの行動は実にフェティッシュ。 いい！　硬軟のギャップがいい…続きを読む

人間、誰しもセックスに興味があるもの。他人のセックスを見たいという欲望も込みで。しかしセックスは隠されます。 もし、セックスにまつわるトラブルに保険金が下りるとしたら？　人は、金…続きを読む

45歳になった評者にとっては、思い当たるところがたくさんあります。 十代の青少年が読んだら、言っては悪いのですが、表面的な理解に留まるかもしれません。 でも、いつかきっと思い返…続きを読む

その人はある人を待っていると言います。では、その人は待たれているのか。 待たれる存在とは、どういう存在でしょう。 本作は、何かを待つということを、色鮮やかでありながら抑制が効い…続きを読む

この小説も、物語の常として、異なる立場の人々が登場します。 読み終えて、ふと思います。自分はどの立場に当たるのだろう。 自問してしまうこと。それがこの小説の妙です。 それがフ…続きを読む

これはifの話です。 何に対してのifなのか、それを語れば種明かしとなるので言えません。 最後まで読んだときに背筋がゾクリと寒くなる感覚。 これは幻か、現か。どうせ、お話。そ…続きを読む

設定としては、小説の作中人物が残した走り書き、とされています。でも評者は小説を読まず本作から読み始めました。大丈夫でした。きちんと独立した作品になっています。 ある一編にて、世界…続きを読む

僕は本作を読み終えたとき打ちのめされました。そして何を描いた小説なのか分かりませんでした。 何回か反芻して、数時間経って、人を想うことを描いた小説だと気づきました。 その想いは…続きを読む

作中で、あるものは触れ、あるものは届かない。 でも、ふと気づきます。触れていたのは幻か。 東京に降る雪は、雪として形があるようでいて、すぐに溶けて消えてしまいます。 形がすぐ…続きを読む

僕は趣味で小説を書きつつも、生業はサラリーマンで、勤め先でベテランと呼ばれるようになりました。 そんな僕は、さっと本作を読んで、諸手を挙げて賛同することはできませんでした。利益は…続きを読む

異世界に人間種が生息していると誰が決めたのでしょう。 この作品で少年が飛ばされたのは、特異に進化した爬虫類や獣は居るけれども人間の居ない世界。こうなって、ひとりぼっちになっては、…続きを読む

作中序盤に、ギャルゲーのシステムについて疑念を呈する会話が描かれます。そんなのお約束だよ、目くじらを立てるほどじゃない。読んだとき、正直そう思いました。 それが、作品が進むにつれ…続きを読む

「あなたは小説の主人公に選ばれました」 あなたがそう言われたら、どう思います? 本作は小説です。だから、これはメタフィクションとして成立しています。 でも、考えれば、上の台詞は…続きを読む

物は替えがきく。不良品は直すか取り替えればいい。 ところが本作の世界では物は擬人化し人格を持っています。作中にそれらの修理・交換を薦める人物が出てきますが、私達から見て、それはち…続きを読む

生きていて、先の事は分かりません。 主人公は何も知らないところから始まります。目の前の人が何をするのかも、自分自身のことも。 ホラーだけあって読後感は極めて苦しいです。でも展開…続きを読む

作者はおっしゃいます。「五感から得たものに、形を与えられたらなと思います。 」 そうして紡がれた掌編は、市井の人々、「主人公」という言葉では白々しくなるほど普通の人々の、日常の一…続きを読む

異世界転生で、転生勇者と言うことは、チート主人公であるということ。 なんでもできる彼がやり残したことがあると悔やむ。その心残りを解消させるために手を下してみると…… きちんと結…続きを読む

評者は無知でして、ウランを含んだシーグラスというものがあると知りませんでした。 シーグラスはある方法で弱い光を放つので、宵闇の中でないと見つけるのが困難です。 そのシーグラスを…続きを読む

本作の第一節は、作品世界に生きる魔獣の説明から始まります。「物語」を早く読みたいと願う読者にとってなんとも肩透かし。しかし、古い博物学を思わせる描写は実に詩的で、短いにも関わらず魔…続きを読む

「恋と愛の違いは何?」 私達が日頃から悩み続け、答えが出ない問いです。 オタクは、そこに「推し」が加わります。 恋と、愛と、推し。その違いは何か。 深くて長い問いに鋭く切り込…続きを読む

題名には「レッドゾーン」の文字が入っていますが、作品を支配する色は、黒。 私たちが見ている日常が壊れ、捩り切られ、宵闇の中に消えていく。 情景を描写する文書は抑制が効いており極…続きを読む

ボケに突っ込んで魔を払う、となると、軽快なコメディを想像します。 しかし、本作はそうはなりません。 まぜ魔が生まれたのか。その背景に見えるどろりとした情念。それを払う方法もツッ…続きを読む